第14話 自分から動く

 入学から一週間。


名前:朝倉澪里 

年齢:15歳 

性別:男


誕生日:3月3日 AB型


学年ランキング:142位


学力:70

運動能力:80

魔力量:―

固有魔法:0

影響力:20

学内活動:0



 金大寺を大勢の生徒たちの前で倒したことで影響力の点数が0→20に上昇。

 それに合わせてランキングも142位まで上げることができた。


 これによって食事にも卵料理がつくようなり、良質なタンパク質を補給することができるようになった。

 学校生活にもようやく慣れ、忙しくも充実した日々を過ごしているといったところ。


「では、今日もこれにて終了。また明日会おう」


 帰りのホームルームが終わり、担任の黒崎が退出すると、クラスの空気は一気に緩んだ。


「刑期終了~どっかいく?」

「駅前とかいいんじゃね」


 このクラスに所属する生徒たちは「ランキングを勝ち上がってやろう!」とかそういう気概はないらしく、みな各々自由に学校生活を満喫していた。


 今ではこのゆるい雰囲気にも慣れてきた。


 俺は自分の人生を変えるためにランキングに全力投球だが、それを他人にまで強要するのは間違っているだろう。

 糸式の話では、A組やB組になってくると普段からバチバチとやり合っているらしく、クラスの空気は非常に悪いのだとか。


 だとするなら、このE組の雰囲気は寧ろ癒やしとして丁度いいのかもしれない。


「さて俺も帰って勉強するか……ってちがーう!」


「わっ。みおりん急に叫ぶなし」

「どしたん? 話聞こか?」


 思わず叫んだ俺に動じることなく、隣の席のギャル二人が反応する。


「なぁ、七星学園って魔法学校だよな?」

「それは間違いないっしょ」

「ウチらも魔法使えるし」

「いやそうだけどさ……魔法の授業っていつから始まるの?」


 入学初日に魔法による決闘を行って以降、魔法学校的なイベントは一切ない。


 五月中旬の中間テストと同じタイミングで魔法試験があると聞いているが……(ちなみに魔力量の再測定はその時までお預けとのこと)。

 流石にその試験はインパクト一本でクリアできるほど甘いものではないだろう。


「もっと汎用魔法を沢山手に入れてさ……練習したり学んだりするのかと思ってたんだよ」

「んー。でもウチらが持ってる固有魔法って、みんな一人一人違う大事な個性じゃん?」

「そーそー。それを授業って枠で扱うのは無理ってこと」

「ぐぬぬ……」


 俺、固有魔法持ってないんだけど……。

 だが言われてみれば確かにそうだ。


 あんまりいい例えではないが、動物園のようなもの。

 動物それぞれ飼育方法が違うように、固有魔法もそれぞれ鍛え方が変わってくる。

 授業という枠で扱えるようなものではないのだろう。


「みんな入学までに魔法の修行方法は親から教わってる感じだし」

「学園はあくまでその力をいろいろ試して発展させる場ってことで」

「てかさみおりん。七星ってさ。普通の学校と違うって言うか」

「そそ。教えて貰えるのを待っているだけじゃ何も得られないんよ」


「待っているだけじゃ……何も? そうか。わかった」


 ギャルたちに言われ、俺は教室を飛び出す。

 待っているだけじゃ何も得られない……ということは、自ら動けば何かを得られるということだ。

 とはいえ……。


「何をすればいいんだ?」


 速攻で行き詰まった。

 屋上に続く階段の通り場に座り込む。

 そして、スマホを取り出し学園案内アプリを開いた。

 ちょっと手が空くとすぐにランキングを確認するのが、最近もう癖になっている。


「あ、違うところ押しちゃった」


 未だ機種変で大きくなったスマホに慣れない俺はアプリのメニューを誤タップしてしまった。


『AIガイドを開始します』

「なんかはじまった!?」


 スマホの画面中央に文字が表示される。『困ったことがあれば、なんでもお聞き下さい』

 これはあれか。最近よく見る、声で質問するとAIがチャットで答えてくれるあれか!?

 前のスマホだと使えなかったから、ちょっと憧れてたんだよな。流石七星の作ったアプリ。

 試しにちょっと遊んでみよう。


「実はトイレを探していて」

『……。検索完了。ここから一番近い女子トイレを確認しました』

「うん。男子トイレ探して」

『そのまま階段を降り、4階へ。そして廊下をまっすぐ進んでください』

「すごいな! 今何階にいるのかもわかるのか!」


 GPSとかってそういうの苦手ってきいたけど。


『はい。魔法でAIを再現したのでAIにできないことでもできるのです』

「そっか魔法ってすげー」


 ということは君はAIじゃなくて魔法だねぇ。


「あ、ちゃんと着いた」

『おめでとうございます。ゆっくりスッキリしてください』


 そういうと、AI? は待機モードになったのか、画面には再び『困ったことがあれば、なんでもお聞き下さい』と表示された。

 困ったことか。


「汎用魔法ってどうやって手に入れるの? なんて言っても教えてくれる訳……ええ!?」


 流石に教えてくれないだろうと思っていたら、何やら画面表示が変わって。


『……。汎用魔法は学園内で条件を達成することで自動的にスマートフォンにダウンロードされます』

「条件?」

『……。はい。その条件、また澪里さまがどの程度まで条件を進めているのかお教えすることはできませんが……本日は特別に一つだけヒントをお教え致しましょう。チュートリアルだと思って従って下さい』

「おう。よろしく頼む!」

『では、まずポケットの中にあるハンカチを取り出し、職員室に向かってください』

「ハンカチ……あ!?」


 そういえばさっき屋上に向かって走ってたとき、途中で拾ったんだった。落とし物だ。

 後で届けようと思っていたが、すっかり忘れていた。あぶねー。


『職員室までのガイドは必要ですか?』

「いらない。すぐに向かってみる」


 俺は職員室に行くと、担当の先生にハンカチを預ける。プリントに名前を記入して職員室を後にした。


 ヴヴヴ。


「うん? ……これは!」


 そのタイミングでスマホの通知が鳴る。


『汎用魔法【マジックタグ】がダウンロード可能になりました』

「え!? 本当に入手できた?」


 早速ダウンロードしてみる(ちなみに学園敷地内では、フリーWi-Fiが自由に使える)。

 マジックタグ。自分の所有物にあらかじめ付与しておくことで、その物体が俺の体から30メートル離れた時にスマホに通知と位置情報が送られる。……という、落とし物防止の汎用魔法だ。

 一番なくしたくないスマホを落とした時にまったく役に立たないという使い道のない魔法だが、なるほど。

 条件を満たすってそういうことか。


 今のような簡単な条件でこの程度の汎用魔法。おそらく難しい条件を満たせば、強力な汎用魔法が手に入るに違いない。


「他に条件を教えてくれよ」

『……。条件は秘匿事項です』


 だよな。


 だが今まで汎用魔法の情報が入ってこなかったのも納得がいく。


 E組の連中はそもそも向上心がないから汎用魔法の取得に積極的ではない。固有魔法があるんだからそれでいいじゃないという考え方。

 だからクラスでも話題にならない。


 そしてA~Bクラスのトップ組。


 彼らなら固有魔法を最大限活かすための汎用魔法を必死に探すだろう。

 だが見つけた汎用魔法の取得条件を明かすことはないはずだ。


 あるとしても、互いにメリットのある交換条件を持ってることは必須。


 逆に言えば、強力かつ入手難易度の高い汎用魔法を見つけることができれば、その入手条件を交渉カードとして、新たに強力な汎用魔法を手に入れることだってできる。


「やべぇ……面白れぇぞこれ……」


 とにかく一度部屋に戻って可能性のあることを洗ってみるか? それとも考えられるようなことをひたすら学園でやってみる?


 さてどうするか。


「とにかくもうちょっと情報が欲しいな。弱くてもいいから、集められるだけ汎用魔法を集めておきたいところだ」


 取得条件をいくつか確認すれば、より高度な取得条件の考察材料になる。

 この一週間、普通に学園生活を送っていても何も条件を満たせなかったのも、大きなヒントになるはずだ。


『……。魔法名と条件をセットで教えるのは無理ですが、ヒントならお教えすることができますよ』

「マジか!?」

『はい。では一番簡単なものから。本日16:00より、生徒会主催の防災用品交換お手伝い会が開催されます。報酬は汎用魔法です』

「お手伝い会って……ただの労働力搾取じゃん」


 いや、汎用魔法が報酬なら、搾取ではないか。

 ってか、学校主催のイベントでも貰えたりするわけか。


『どうされますか? 参加するなら、手続きは私の方で行いますが?』


 もちろん参加!

 とにかく今は、新しい魔法を集めまくろう!

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