第11話 見ていた者たち
「間に合わなかったか。彼にいろいろ話を聞いてみたかったのだが……」
決闘場のステージに降りてきた生徒会長、
栗色ロングの髪を靡かせて物憂げに澪里が去った出口を見つめている。
何を隠そう、この決闘を承認し取り仕切っていたのが彼女だった。
学年4位と149位の……しかも入学初日の戦い。
「どうなることかと思ったが、とんだ番狂わせだったな。君はあの新一年生をどう思う?」
生徒会長の瀧音は金大寺の死体(死んでない)をスマホで撮影しているもう一人の生徒会メンバー、
「……」
だが天城銀河は彼女の言葉を無視して、スマホ撮影を続けている。
生徒会長の瀧音は笑顔のままだったが、明らかに苛立った様子だった。
「コホン。趣味が悪いぞ銀河。可哀想だからそのくらいにしておくといい」
「心外だな。俺が趣味で男の股間を撮影していると思っているのか?」
天城銀河……と呼ばれたその男は気怠げな表情のまま言った。
「会長様は変だとは思わなかったか?」
「その呼び方はやめてくれ。それで、何が変だと言うんだ?」
「その様子じゃ気付かなかったみたいだな」
銀河は待機していた救護班に「もう連れて行っていいよ」と合図を送る。そして、金大寺は医務室へと運ばれていった。
その様子を見送ってから、銀河は口を開いた。
「あの一年生の使った魔法は汎用魔法……それも基礎魔法と呼ばれているインパクトの魔法だ」
「インパクト? 確かにスマホを使用して発動していたようだが……インパクトではああはならなだろう。あれはフェイントで、実はもっと強力な固有魔法を使ったのではないか? それか、汎用魔法を強化する固有魔法を同時に使用していたか。そういった固有魔法を持つ生徒はそれなりにいる。彼もその類いだろう?」
「どうだろうな。俺は少し違うように感じた」
まさか魔法式を書き換えたなどとは思いもしない銀河には、澪里の放ったがインパクトの魔法が未知なる魔法に感じられた。
「そもそも汎用魔法を強化するなら、インパクトが選択肢に入るか? 俺ならもっと別の汎用魔法を選ぶ」
「それはしょうがないだろう。彼は新入生だ。汎用魔法を集める時間なんてなかったはず」
「確かにそうだ……だがインパクトを強化するとして、あの威力を引き出すためにどれだけの魔力が必要になる?」
「それは……あっ」
その時、会長の瀧音はあることを思い出す。
「どうした会長様?」
「銀河、君も聞いただろう。先月の入学試験。魔力測定試験で魔力暴走を起こし、第二ホールを潰した受験生がいたことを」
「あーいたな。もしかしてアイツが?」
「正確な情報は伏せられているが……おそらくそうなのではないだろうか」
瀧音の言葉に銀河が頷く。
「それならば説明がつく。入学試験では、おそらく魔力制御に失敗してあの大惨事を引き起こしたのだろう。だからこそ、今度は確実に勝てるよう、暴走しても問題ない低威力のインパクトを選んだ。やはり彼の固有魔法は『汎用魔法を強化する魔法』で間違いないだろう」
「ううむ……」
今一つ納得のいかない様子の銀河。だが、しばらくすると、彼は笑みを浮かべていた。
「どうしたんだ?」
「いや。こうやってあーだこーだと魔法について考えている時間が一番面白いなと思っただけだ」
「まったく。君というやつは」
呆れたように笑う瀧音。
「今年は面白いヤツが入ってきた。もうこの学園でワクワクすることはないと思っていたが……」
気怠げだった天城の目に、静かに闘志が宿ったのを瀧音は見逃さなかった。
「フッ。あの一年生に嫉妬してしまうな。君にそんな顔をさせるのは、私でありたかったのだが」
「会長様は強いけど戦っていて面白い相手じゃないからな。俺は魔法で対話を楽しみたいんだよ」
「ふっ……そうだな」
瀧音は寂しげに、そして自嘲気味に笑った。
「ええと。あの新入生の名前、なんだっけ?」
「1年E組。朝倉澪里だ」
「うん、いい名前だ。覚えた。そうか。澪里か……」
「……。言っておくが銀河」
「ん? なんだ?」
「朝倉澪里は男子生徒だ。忘れないようにな」
「え……見た目ちょっと好みのタイプだったんだが……」
少し落ちこむ天城を見て、瀧音は苦い表情をした。
「ええと。銀河はああいう可愛い系が好きなのか?」
「は? なんでそんなこと聞くんだ?」
「ああいうタイプが好きなら……私も頑張ってみようと思うのだが……どうだろう?」
お堅い生徒会長の精一杯のアピール。だがクソボケ属性を兼ね備えた魔法ジャンキーの天城銀河には効果がなかった。
「いや似合わないから止めたほうがいいと思うぞ?」
「……。そうか。わかった。では後の処理は全部君に任せる。任せたぞ、天城庶務」
「え? なんでキレてんの? おいちょっと待てって」
入学初日。
澪里は早くも学園最強の男・天城銀河と生徒会長にして学園№2の女・坂牧瀧音に目をつけられてしまったようだ。
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