第10話 初の決闘
学園地下には決闘専用のフィールドが用意されており、ご丁寧に観客席まで用意されている。
どうやら魔法による決闘は、この七星学園では娯楽のひとつらしい。
決闘。
生徒同士が「どっちが強いか」を決めるためのルール付きの喧嘩のようなもの。揉め事の解消にも使われるのだとか。
決闘を行うには生徒会の承認が必要で、場所は学園内になる決闘場にて行う必要がある。
決闘を行う生徒には特殊な魔法によってライフが与えられる。決闘中の攻撃では怪我をすることはなく、代わりにライフが減っていくという仕組み。
そして先にライフを失った生徒の敗北となる。
「誰? 一年生?」
「初日から決闘?」
「マジか~」
はぁ。こういうのは慣れないな。
観客席には糸式、そして金大寺の取り巻きたちの他にも、かなりの生徒が集まっていた。
立会人の生徒会の人たちや一般生徒などなど。
おそらく俺に悔しい思いをさせたい金大寺が大げさに広めたのだろう。
とはいえそれは狙い通りだ。
「はっ。大勢の前で大恥をかかせてやるぜ」
制服姿のままの金大寺が決闘場に姿を表す。
金大寺巻志(きんだいじ まきし)。
金大寺家の次男でA組所属。学年ランキングは糸式に次ぐ4位の実力者。
「まさか俺様の初の決闘相手がお前のような底辺ランクになるとは思いもしなかったぜ」
「俺もだ。まさか初日からこんな目立つようなことになるとはな」
これは本心。
俺としては夏休み明けくらいまではじっくり魔法学校とやらを楽しむつもりだったんだが。
とはいえ、先にトップレベルの実力を知っておくのも悪くない。
今日は胸を借りるつもりで頑張ろう。
「ところで貧乏人」
「なんだ大金持ち」
「この学園では、決闘の勝者が敗者に何かを要求することができるんだが……知っているか?」
「まさかお前……俺にいやらしいことをしようっていうんじゃないだろうな?」
「ば、馬鹿! んなことするかよ!」
「でもさっきナンパしてきたしなぁ……ちっ。可愛くてごめん」
「己惚れるな。あれはお前が女に見えたからであって……男だと知っていたら声はかけなかった」
「ふーん。で、何か賭けるのか?」
「ああ。ここはシンプルに『勝った方は負けた方になんでも命令できる』ってことにしないか?」
「……えっち」
「おい疑ってんのか!? だからエッチな命令じゃねぇよ!」
『金大寺一年生。その……あれだ。いくら決闘とはいえ、卑猥な命令や交際を迫るようなことは禁止されているからな? 風紀を乱すような発言は慎むように』
「だから違ぇっつうの!」
立会人を務めてくれている生徒会の人から注意が入った。スピーカーで言われたためか、観客席では笑いが起きている。
俺様キャラかと思いきや、意外とコイツ、イジられキャラなのかもしれない。
「ちっ。俺様が勝ったらその鬱陶しい髪をバリカンで刈らせろ」
「じゃあ俺が勝ったら……そうだな。今日の晩飯を交換な」
『では取り決めが終わったところでさっそく決闘を開始しよう。準備はいいか?』
俺と金大寺が同時に頷く。
『でははじめ!』
決闘開始の宣言と共に、体の周りに半透明のオーラのようなものが現れた。
これが守りの魔法だろう。
この守りがある限り、金大寺の攻撃を受けても一切怪我はしないというわけだ。
「とはいえ多少の痛みや衝撃は当然あるからな? 覚悟しろよ貧乏人」
「ほう。決闘は初めてじゃないみたいだな」
「当然だ。俺たちはじまりの七家は生まれた時から魔法の鍛錬をしまくってんだ。お前のような底辺とは格が違う」
「なるほど楽しみだ。どんな魔法が見られるのかな?」
「ちっ……殺す。そして恥を晒してやる」
表情から金大寺の苛立ちが読み取れた。それでいい。
どうせやるなら、お前の最強の魔法が見たいからな。
金大寺は制服の胸ポケットからキーホルダーのようなものを取り出した。
それはお土産屋さんに撃っているような、金メッキの斧のような形状。それのキーホルダーに対して、金大寺は魔法を発動させる。
「強化魔法――ビッグバイト! さあて、狩りの時間だ」
魔法の力を受けた斧のキーホルダーはみるみる巨大化し、2メートルを越える本物の武器となった。
「今さら泣いて謝っても遅いからな! さぁ覚悟しろ!」
「糸式の情報通りか……」
金大寺家が持つ固有魔法は強化魔法。そして次男坊の巻志は物を巨大化&強化させる魔法を得意とする典型的なパワーファイター。
単純だが長身で鍛えた体を持つ金大寺が武器を持っているというだけで、かなり厄介だ。
「さぁ、脳天かち割ってやるぜええええ」
接近してきた金大寺は大きな斧を振りかぶり、そして振り下ろす。
「そんな大振りで当たるかよ」
流石に回避。
「ちっ……おら!」
回避。
「くっ……ちょこまかとぃ!」
回避。回避。回避。
決闘前に挑発した甲斐があった。俺の態度に苛立った金大寺は手持ちの中でも一番破壊力が強く、サイズの大きな武器を選んだのだろう。
ハッタリの効く大きい武器で俺をビビらせようと思ったのだ。
さながら金大寺は獲物を追い詰める狩人のような気分なのだろう。
俺をド派手に倒し、ストレス発散と他の学生たちに自分の力を見せつけたかったのだろう。俺のことも、そのための生け贄かなにかに思っているはずだ。
だがヤツと俺とでは背負うものが違う。
ヤツは有名な一族のお坊ちゃんで、エリート。
一方の俺は無名の底辺ランカー。
勝って当然。負ければ失望される金大寺と負けて当然。勝てば奇跡の番狂わせと騒がれる俺とでは立ち位置が全く違う。
現に金大寺は焦りはじめている。
「もしかしたら勝てないかもしれない」
そんな考えが脳裏を過るかもしれない。そして一瞬でもそう思った時、勝って当たり前のプレッシャーがじわじわと首を絞めてくる。
その証拠に、ヤツの攻撃の精度は目に見えて落ちてきている。
「クソ……逃げ回りやがって!」
生憎、俺は東京都足立区育ちでね。
「く……当たらねぇ……テメェ……決闘の経験はないんじゃなかったのかよぉ!?」
「ない。今日が初めてだ」
魔法による戦いなんて今日が初めて。
だが俺は、ヤンキー、不良、無敵の人、犯罪者たちと日常的にランダムエンカウントする足立区育ち。
そんな土地で15年、生き残った。
武器を持ったヤツに襲われるなんて数え切れない程経験しているのだ。
「くっ……ああ」
金大寺が斧を地面に投げ捨てた。その衝撃で地面が揺れる。
あんな重い武器を無駄に振り回していたせいで、スタミナが切れたようだ。汗をかき、肩で息をしながらポケットをまさぐっている。
取り回しのしやすい武器キーホルダーを探しているのだろう。
だがこの隙は逃さない。
俺はスマホでインパクトの魔法の準備をする。
「は……はは! なんだお前、このタイミングで汎用魔法かよ!」
こちらの動きを一瞬警戒した金大寺だったが、俺の狙いが汎用魔法だと気付くや否や、それを緩めた。
「何か問題があるのか?」
「ああ。汎用魔法なんてバトル向きじゃないしょぼい魔法ばかり。はは。ヤベーかもって思ったが、テメーが雑魚で安心したぜ。ゆっくり殺してやる」
どうやら完全に油断したようだ。
悪いがそれは見逃さない。
俺の持つ魔法は糸式から貰ったインパクトのみ。
インパクトはデコピン一発分くらいの威力しかない。もちろんこれで金大寺のライフを削るには時間が掛かるだろう。
だから俺はこれから撃つすべての魔法をヤツの股間に集中させることにした。
想像してみて欲しい。デコピンはおでこにされるから大した痛みじゃないのだ。
だが、もし股間にクリティカルヒットしたら? 泣けるだろ?
「はは。その構え、まさかインパクトか? んなもんでライフが削られるかよぉ!」
「それはどうかな――インパクト!」
俺は適当に魔力をスマホに流し、魔法名を宣言。
魔法を発動させる。その時、違和感……というか、脱力感があった。
一瞬、意識を失いそうになる。何故か大量の魔力が持っていかれたのだ。
だがなんとか狙いを定め、解き放つ。数週間の練習の成果だ。
半透明の弾丸状の衝撃は金大寺の股間に命中し。
「ぐっ……があ!? ぎゃああああ!?」
凄まじい衝撃に、金大寺の制服ズボンがはじけ飛ぶ。そして、金大寺は思わず股間を押さえて倒れてしまった。
しばらく絶叫していた金大寺だったが、やがて脳の防衛本能が意識をシャットアウトしたのだろう。動かなくなった。
「……え?」
『……え?』
会場中が困惑する。
『え……あ、ええと。ただいま、金大寺巻志のライフが0になった。よって勝者、朝倉澪里!』
生徒会の人の勝利宣言がなされるが、会場はしんと静まりかえっている。
「は、汎用魔法だよな?」
「あんな魔法あったか?」
「いや……てか股間に直撃だったよな?」
「ああ。大丈夫かな、金大寺家のお世継ぎ……」
「大丈夫……アイツ次男だから」
会場から聞こえてくるざわめき。
俺は恐る恐る金大寺に近づく。
「よ、よかった。死んでなかった……」
白目を剥いて気絶している。魔法によって怪我はしないとはいえ、痛みや衝撃はある程度伝わるってコイツが言ってたからな。
あと、ズボンは弾けて消えてしまったが、パンツは残っていてよかった。
流石金持ちのボンボン。いいパンツ履いてやがる。
しかしどうしてこんなことに……?
そしてようやくそこで、俺は昨夜の出来事を思い出す。
「あっ……そういや昨日、インパクトの魔法式を色々とイジってたな」
保存できずに消えたと思っていたが、どうやら大丈夫だったようだ。
いや待てよ。ということは俺が込めた魔力の分だけインパクトの威力が上がっていたということに?
ええと……体感だが、第二ホールを吹っ飛ばした時と同じくらいの魔力を持っていかれたよな?
金大寺はそんな攻撃を股間に食らった訳で……そりゃこうなるよな。
決闘システムによる防御があってよかった。それがなければ、金大寺はバラバラになっていたかもしれない。
「おいおい勝っちまいやがったぜあの一年」
「ランキング最下位なんでしょ!?」
「入学初日から下剋上かよ……えっぐ」
最下位じゃねーよ。149位な?
とはいえ。
当初の目的である「影響力」の為に目立つという目的も達成しつつ、今日の晩飯を豪華にすることに成功するのだった。
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