第7話 魔法改造

 そこからの日々は一瞬で過ぎていった。


 魔法の練習を日々確実にこなし、インパクトの魔法を百発百中と言える精度に高めた。

 そして体力作りと勉強を継続していると、あっという間に卒業式は終わり、三月の最終日となった。

 夜。準備を終え暇を持て余した俺は糸式に貰ったスマホに各種アプリをインストールしていた。


 以前のスマホだと動作が怪しかった最新アプリがサクサク動くことに軽く感動しつつ画面をタップしていると、謝って魔法の入ったファイルを開いてしまう。


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……


……


「ちょちょちょ……ヤバイって」


 画面いっぱいに謎の文字列が広がる。

 バグったか? と一瞬焦った。だがすぐに、ファイル内にあったテキストデータが開いたのだとわかって安心した。


「プログラムってわけじゃないみたいだけど……ん?」


 ソースコードが表示されたのかと思ったが違った。そもそもインストールされた魔法はアプリケーションではなく、ただの文字データだ。

 その割に容量は大きい(インパクトのファイルだけで1Gほどある)けれど。


「そうか……これがデジタルデータに変換された魔法式か」


 魔法式。


 糸式いわく、魔力を発動するための設計図のようなものであり、魔力を特定の効果に変換するために必要な莫大な情報が含まれている式。

 かつて魔法ひとつにつき魔導書一冊程度の文字数が必要だったものが、デジタル化された。

 確かに今開いたテキストファイルも、気が遠くなるくらいの量の文字が詰め込まれていた。


 最新のハイスペックスマホの動作が少し重くなる。「どんだけ……」と思いながら気まぐれにスクロールしていたのだが……。


「ん? あれ……」


 その時、不思議な感覚がした。

 それもそのはずだ。画面に表示されているのはまったく意味を感じられない文字の並びのはずなのに……。


「わかる……わかるぞこれ」


 何故か、その意味を理解することができた。

 いや、まるで初めから知っていたかのような不思議な感覚だった。


「なるほど。この文章で流れてきた魔力の質を見極めるのか……じゃあこっちは。なるほどなるほど」


 パッと見は適当にキーボードを押しただけのような感じだが、どうやらちゃんと法則性はあるし、意味もある。

 でもどうして、これが魔法式だと理解できるんだろう?


「もしかして、あのじいさんのせいなのか?」


 入試中に見た、時宮天災の夢のことを思い出す。


 魔術書に必死に転生魔法の魔法式を書いていたあの姿を。


 だが、じいさんが書いていた文字と俺が見ている文字はまったく違うものだ。


 当然だ。こちらにはアルファベットや記号が含まれている。1000年前の日本にそんなものはなかっただはずだ。

 だから、この件に関しては時宮天災は関係はないはず……。


「多分、魔力を持っていれば自然と理解できるんだろう。きっと糸式や他の連中もこの意味を理解できるはずだ」


 一人納得し、テキストをスクロールしていると、消費魔力に関する項目を発見した。

 どうやらインパクトを撃つために消費される魔力の量はあらかじめ決まっているらしい。


「なるほど。バトル漫画にある必殺技みたいにエネルギーを込めれば込めるほど威力が上がるって訳じゃないのか」


 どちらかというとゲームの魔法のような感じだな。

 消費MP5、威力10と定められているような感覚だ。

 確かに練習中、どれだけ魔力を込めて放っても、インパクトの魔法の威力に変化はなかった


「でもちょっと、普通のインパクトに飽きてきていたんだよな」


 もうちょっと高火力の魔法を使ってみたいな~なんて思いながら、表示されている文字データを眺める。


「消費魔力の項目の前に何かあるな……ああなるほど。この文字がリミッターの役割をしているのか」


 時間を掛けて読み込んで、一つの仮設に辿り着く。


 元々インパクトという魔法は「込めた魔力量に応じて威力を上昇させる魔法」だったのだろう。

 だがどんなに威力を上げたところで魔物を倒すには至らない殺傷能力が低い魔法であることには違いない。

 だから練習用にするために、魔法式を改ざんしたのだろう。


 使用魔力と威力の制限に関する項目が後から追加されたものだと気付いたのだ。


「もしかして、ここの文章を削除すれば、魔法式はかつての姿を取り戻すのか?」


 これは……ちょっと面白いことができそうだな。


 俺は該当項目を削除してみる。


 これにより、インパクトは「魔力を込めた分だけ威力が上がる」不可視の弾丸を放つ魔法に変化するはずだ。

 威力もデコピン程度から、蹴りくらいにはアップするかもしれない。


「お兄ちゃん~お風呂行く時間だよ!」

「わっ!? 急に入ってくるな!」


 突如襖が開かれ、妹の凜が現れる。

 俺は慌ててスマホを隠した。


『いい朝倉くん。一般人に魔法を知られたら大変なことになるから。朝倉くんの場合、家族にも隠しておいて! とにかく大変なことになるから』


 と糸式に言われていたことを思い出したのだ。

 妹と目が合う。しばらく、気まずい沈黙が流れる。


「む~」


 慌てた俺の態度を怪しんだのか、妹がジトっとした目で睨んでくる。


「な、なんだよ」

「お兄ちゃん、もしかしてエッチなの見てた?」

「違う違う。そんなんじゃないって」

「もう! ああいうのは大人になってからじゃないと駄目なんだからね」

「だから違うって。ほら!」


 まぁこんな訳のわからない画面見せても魔法なんてばれないだろうと思ってスマホの画面を見せると……。


「お、お兄ちゃん……これは恥ずかしいよ」

「え? あっ……」


 どうやら急いで隠した時に、指が画面に触れたのか、テキスト画面が閉じてしまっていた。保存してなかったのに……。

 そのため、妹に見せた画面には待ち受け画像が表示されていた。


「もう! 私の写真待ち受けにするのやめてよ!」

「え~いいじゃん別に」

「もう! じゃあほら、ママも外で待ってるから。銭湯行くよ」

「オッケー」


 まぁインパクトの魔法の改造は……明日から忙しくなるし、入学後に落ち着いてからまたやればいいだろう。


 そう思った。


 そして、この時の俺は知る由もなかった。

 この時のテキストデータの書き換えが……実はちゃんと上書き保存されていたということを。


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