第6話 朝倉家
時宮天災。最強最悪の魔術師と呼ばれ、魔物たちと結託し日本を……世界を滅ぼそうとした大悪党。
自らの魔法研究欲に忠実で、女子供であろうがかわいい犬猫であろうが容赦なく実験台とした。
彼の登場で魔法の技術は数百年レベルの進歩を見せたが、その非人道的なやり方は当時基準でもアウト。よって当時の勇敢な魔術師によって討伐された。
時宮を倒した7人の魔術師の子孫は「はじまりの七家」と呼ばれ、今でも続く日本魔術界の基礎を作った。
ゲームでいうところの大昔に勇者に倒された大魔王ポジション。
それが糸式から聞いた、時宮天災の情報である。
そして俺はその大魔王の生まれ変わり……なのかもしれないやつ。
「考えても仕方ない。俺に記憶はないんだから……でも」
魔術試験の時に聞こえたあの老人の声。そして夢で見た老人は、そんなに悪い奴には見えなかったけれど。
「「澪里!」」
「お兄ちゃん!」
「「「合格おめでとーう」」」
「はは……ありがとう」
そんなことより今は、目の前のことに集中しよう。難しいことは後で考えればいい。
今日は久々に家族全員が家に揃う日だ。そんな日に、家族全員で俺の合格祝いをしようという話になった。
テーブルには豪華にも熱々のから揚げと白飯。副菜にサラダ。味噌汁に卵焼きまで。
普段の朝倉家では考えられないご馳走だ。
「澪里の合格祝いにな。父さん奮発したんだ」
「母さんも今日は腕によりをかけてお料理したのよ」
「それにしても、澪里があの七星学園に合格するなんてなぁ。父さん、鼻が高いぞ」
「だってお兄ちゃん、勉強物凄く頑張ってたもん! 私は絶対合格するって信じてた! お兄ちゃんは凄いんだよ!」
うっ。無垢でキラキラとした妹の視線が痛い。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
七星学園の合格に勉強は関係なかった……なんて言えないよな。
とはいえ、合格は合格だ。
今日ぐらいは、胸を張っていよう。祝ってくれている家族に失礼だ。
えっと、ひーふーみー……唐揚げは一人三個ってところか。
「ほらお兄ちゃん。食べて食べて! 私も揚げるの手伝ったんだよ」
「おおマジか。じゃあ頂きます!」
妹の手作りとか最高か。唐揚げを一個丸々頬張る。パリッとしていてとても美味しい。肉から染み出るジューシーな油が舌に染みて、脳を揺さぶるような快感を与えてくる。
「ど、どうかなお兄ちゃん」
「最高! 星5評価!」
「やったー! じゃあ私も食べよう。……もぐもぐ。んんんんんっ!」
目尻に涙を溜めながら感激する凜に、俺と両親の顔が思わず綻ぶ。
そうだよな。唐揚げなんて食べたの久しぶりだもんな。給食にも出ないし。
わがままを一切言わず、普段からいろいろなことを我慢しているだろう妹を滅茶苦茶甘やかしたくなった。
「ほら凜。兄ちゃんの一個やるよ。もっと食べろ」
「え。いいよいいよ。今日はお兄ちゃんのお祝いなんだから、自分で食べて」
「いいんだよ俺は。食が細いからな。それに……」
「それに?」
「兄ちゃん、凜が美味しそうに食べているのを見るのが好きなんだ」
「も、もう。恥ずかしいよ~」
「おい澪里。妹に優しいのは結構だがな、父さんもたまにはお前たちにいいところが見せたい。ほら、パパの分を一個ずつだ!」
「やったーパパありがとう!」
「父さん……」
父さんは痩せ細った手で、自らの唐揚げを一つずつ、俺と凜の皿に置いた。
俺が幼い時は大手の企業に勤めていた父だったが、その後にとある病気を発症。
長期の治療が必要だったことと、具体的に何時治るかがわからなかった為、退職に追い込まれた。そして今は職を転々としている。
再発の度に長期入院が必要になるから、給料のいい安定した仕事に就きづらいのだ。
自分よりずっと若い先輩社員にペコペコして、夜遅くまで働いている。
辛いだろうに、それでも俺たちのために必死に働いてくれている父を、俺は尊敬している。
そんな父を見限らずにパートで家計を支え、暖かい家庭を築いてくれていた母のことも大好きだ。
欲しいものが沢山あろうだろうし、おしゃれだってしたい年頃だろうに。うちの家計事情を察して一度もわがまま言わない妹の凜は、自慢の妹だ。
「あらあら。じゃあお母さんも二人に一つずつ。はい」
「もう~これ以上は凜、太っちゃうよ~」
「あはははは」
父さんと母さんと妹の優しさが嬉しくて、溢れそうになる涙を必死に堪えて。
久々の晩餐を楽しんだ。
父さんに、仕事を辞めてゆっくり療養して欲しい。
母さんにもゆっくり旅行とか趣味とかしてほしい。
妹には好きなものを好きなだけ買ってやりたいし、沢山オシャレさせてやりたいし、習い事もさせてやりたい。
「そのためにも……」
四月から始まる、七星学園でのランキング競争。必ず勝ち上がってみせる。
唐揚げを頬張りながら、密かに闘志を燃やす。
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