第2話 魔力爆発
『魔力測定試験では、新入生諸君にとって一番自信のある魔法を一つ見せて頂きます』
待て待て……ちょっと待て。話を進めるな。
『入学前ですので使用するのは固有魔法に限定させていただきます。もちろん合否には関係ないのでご安心を』
だから話を進めるなって。こっちはまだスタート地点すら飲み込めてないんだよ。
は? なんて言った? 現代魔法科? 笑うところなのか?
周囲を見渡しても、別に笑ったりだとか、困惑したりだとかはない。
普通に説明を聞いて頷いている。
俺をハメる壮大なドッキリ? いや意味がわからんし違うだろ。ってことは……だ。
『皆さんの魔法を見て、魔力の量を測定します。では、番号を呼ばれた生徒は順番に第二ホールへ移動してください。受験番号107番。124番。125番。167番。409番。移動してください』
ここに居る連中、全員が魔法使いってことか?
「狂ってるな……」
頭が痛い。二重の意味で……だ。
「ねぇ何の魔法使う-?」
「マジ悩むー」
周囲のヤツらの状況を観察してみる。
だが誰一人この状況に疑問を持っておらず、魔力測定試験に備える会話をしている。
さながら定期試験前の教室のような雰囲気。
『では1015番。1048番。2065番。2066番。2980番。移動してください』
考えている間に自分の番が回ってくる。
熱がまた上がったのか、体が熱く頭がぼーっとする。
訳も分からないまま、係員に従って移動すると、さっきよりも少し狭いホールに通された。
真ん中にテーブルが置かれ、数名のスーツを着た大人たちが座っている。
どうやら彼らが審査員のようだ。
「では受験番号と名前、使用魔法を宣言してから、魔法を見せてください。では1015番の方から」
「はい! 受験番号1015番。虹野七瀬。魔法は飛行魔法でいきます! ――エンジェルフライ!」
俺のひとつ前の順番の男は、頭上に天使の輪を浮かべ空中に浮いた。
「おいおいマジかよ……」
彼の背にワイヤーなんて見えない。本当に浮いているんだ……。
そんな1015番の様子を、審査員は「ふむふむ」とか「なかなかですな」と呟きながら見つめている。そして、手元の資料に何かを書いている。
俺が感じているような感動とか驚きのようなものはなく、ただ冷静に目の前の現象をチェックしていた。
この審査員にとって、俺がいま目にしているこの奇跡は日常なのだろう。
いや、彼らだけじゃない。ここに居る全員が、魔法という非日常を日常として生きている。
だったら何故俺はここに居る?
魔法なんて漫画やゲームの中の出来事だと思って生きてきたこの俺がどうしてここに居る?
間違いない……あの夢だ。
数学の試験中に見た、謎のじいさんの夢。あの夢を見てから、世界が変わったかのようにおかしいことだらけだ。
転生魔法。転生。夢の中でじいさんは確かにそう言った。
もしあの夢がただの夢でないとしたら、考えられる理由はひとつ。
夢のじいさんは俺の前世の姿で……あの老人の狙い通り、記憶や人格を引き継ぐことはできなかったが、能力だけは受け継ぐことができたということだろうか?
馬鹿げてる。
そんな漫画のような話を信じられる訳なかったが……今のこの状況が物語っている。
俺には隠された魔法の才能があった。それしか考えられる理由がないのだ。
「では次の方。どうぞ」
「……はい」
俺は審査員たちの前に立つ。
「受験番号1048。朝倉澪里」
「ふむ。それで、今日はどんな魔法をつかうんだね?」
「魔法は……」
どうしよう。魔法なんて使ったことないからわからん。
正直に言うべきか?
「魔法なんて知りません」って。でも。
せっかく七星に入学できるチャンスかもしれないのに。魔法なんて知らないということがバレたら、不合格になってしまうかもしれない。
それは嫌だ。
俺は何がなんでも合格して、家族に楽させてやりたいんだ。
こんなところで躓くわけにはいかない。
やるしかないんだ。だが……魔法なんてどうやって使えば。
くそ……発熱と頭痛で思考ができない……。寧ろ気を抜くと、倒れてしまいそうだ。
『解放するのだ。己の中の魔力を』
頭の痛みが限界突破し、いよいよ気を失いかけたその時、頭の中に声が聞こえた。
それは、夢で見た老人の声に似ていた。
『来世の私よ。貴様の中に眠る莫大な魔力を解放し、見せてつけてやるのだ』
莫大な……魔力?
『魔力の使い方は……今、思い出させてやった。後は……解き放つだけだ』
老人の言葉が終わるのと同時、頭痛がすっと引いていく。まるで重いデータのインストールが終わったかのように思考が冴え渡る。
そして、魔力というものが少しだけわかった。さっきから病気による発熱だと思っていた体の中の焼けるような熱。
これこそが魔力だった。
その熱は今、胸の奥にギュっと凝縮されて、疼いている。
なるほどな……あとはこれを解放すればいいというわけか。
「どうしました? 早く魔法を教えてください」
「魔法……はい。今から使います」
相変わらず魔法のことなんて何もわからない。
だが魔力を解放するのは俺にもできる。やり方を何故か知っている。
胸の奥にある圧縮された熱の塊のようなもの。
蛇口をひねるように簡単に。
それを俺は……解放した。
「はあああああああ!」
「な、なんだこの魔力量は!?」
「計測値限界突破……このままでは!?」
「爆発する!?」
審査員の慌てた声が聞こえたのを最後に、第二ホールは閃光と爆発に包まれる。
魔力の解放と同時に、俺は意識を失ってしまった。
***
***
***
その日の夜。
崩壊した第二ホールに、一人の男が姿を現す。
「理事長、よくぞお越しで……」
「事情は全て聞いています。まずはこれほどの事故にも関わらず、怪我人が一人も出なかったことに感謝します」
理事長と呼ばれた30代半ばの男は頭を下げた。
恐縮するのは試験を担当していた中年の男性教員。
「いえいえとんでもない。たまたま防御魔法が間に合っただけですよ……」
「しかし面白い状況ですね。これだけの規模の破壊を行ったにも関わらず、焦げた後が一切ない。単純な力による破壊です。一体、その新入生はどんな魔法を使ったのですか?」
「それが……魔法を使ってはいないのです」
「なんと!?」
教員の言葉に理事長が驚いた。
「ではただの魔力の解放で、この惨事と? 魔力コントロールを知らないのですか?」
「はい……彼を家まで送っていった者が、本人から直接聞いたらしいのですが……。魔力なんて今日初めて知ったと」
「ほう……では魔術師の家系ではないのですね」
「そのようです。今思えば、試験前の彼の様子は少しおかしかった。もっと彼に気を払っていれば……」
理事長は嬉しそうに笑う。
「落ちこむ必要はありません。元より埋もれた才能を発掘するために、このような試験にしているのですから。今は才能の原石と巡り会えたことを喜びましょう」
表向き、七星学園が入試を行うのは、魔法を知らずに生きている魔術師の卵を発掘するためである。
卒業後の進路やサポートを充実させているのも、より多くの生徒を受験させるための撒き餌のようなものだ。
魔術師の家庭で育った者たちは、暗黙の了解として、七星学園の試験がフェイクであると知っている。
澪里が見つけた、数学の試験問題に隠されていたあの質問。
あれは魔力を持った者にしか読めない特殊なインクで書かれており、その質問に答えた時点で七星学園への合格が決まるのだ。
無論、入学後の待遇を良くするためにも筆記試験には全力で取り組む必要がある。
「とはいえ理事長。この魔力量はちょっと異常ですよ……魔力だけでこれだけの規模の破壊を行える者を私は知らない……それこそ、歴史に出てくる
「ふふ。貴方からそのような冗談が聞けるとは思いませんでした。ふむ。時宮天災……歴史上に存在した最強最悪の魔術師ですか。彼がその時宮に匹敵するほどの天才だと?」
「軽いジョークとして流して欲しかったです……」
教員としては、軽いジョークのつもりだったのだろう。
困ったようにしていると、理事長は笑った。
「失礼。思わぬサプライズにテンションが上がっているようだ。それに時宮呼ばわりは、若き彼に失礼でしたね」
「ええ、本当に。可哀想ですよ」
「ですが我々はじまりの七家の間にはこういう言い伝えがありますよ。『実は生前の時宮は転生魔法を完成させていて、いつか絶対に復活する』と。もしかしたら彼は、時宮天災の生まれ変わりかもしれませんね」
「理事長……生徒たちの前でそんなこと絶対に言わないでくださいよ? いじめに繋がったら可哀想だ」
「おっと。ジョークですよジョーク」
貴方のジョークは笑えないんだなぁと呟きながら、教師はため息をついた。
「魔力を上げる方法はいくつかあります。例えば餓死寸前まで絶食したり、死の淵から生還したり。肉体と精神を極限状態に追い込むことで魔力は上昇する。もしかしたら彼の日常に、魔力を上げるような要因があったのかもしれませんね」
理事長は、もう一度改めて、破壊された第二ホールを見渡した。
「ですが……これほどの力……魔力量」
そして、誰にも聞こえない声で理事長は呟いた。
「一度死んで、生まれ変わってきたというのなら納得なんですがねぇ……」
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