第11話 ツノウサギ

 被害にあった女性はサラという名前であった。

畑にはニンジンが植えられているのだが、今朝、畑に行ってみると荒らされていたのだそうだ。

農作業をしようと思っていたので、格好は農家のような姿をしたいたのだそう。

しかし、ツノウサギをどうにかしないといけないと思い、すぐにギルドへと依頼の手続きをしたのだそうだ。


「本当にありがとうございます。この時期は収穫の時期でして。もしもツノウサギにすべて荒らされたら、とても生活をすることはできません。」


サラは顔を青ざめながら、私たちに感謝を述べた。


「ホームズ、ウサギの捕獲なんか私はしたことがないが、本当に大丈夫なのかね?」


私は少し心配になりホームズにそう聞いた。


「大丈夫だとも。ウサギの生態は知っている。角が生えていようがウサギはウサギだ。なにの心配することはない。」


その自信はどこから湧き出てくるのか、ホームズはなんの心配もしていないようだ。


「ここです。ここからツノウサギが私の畑を荒らしているのを見たんですよ。」


私たちは丘の上に立っており、眼下には畑が広がっていた。

天気は快晴でよく畑を見渡すことができたのだが、少し気になることがあった。

ここからでは、まだ畑が荒らされているのか確認ができないくらい遠いのだ。

ちらりとホームズの方を見やると、冷や汗をかいていた。


「ホームズ、分かるぞ。長い付き合いだからな。これくらいのことは私にも推理はできる。」


「ああ。さすがだな、ワトソン君。」


「だから先に聞いておく。本当に君のウサギの知識は役に立つのかね?」


ホームズはゆっくりと私の方を振り向いた。


「立たないかもだね。ワトソン君、武器の準備だけ頼む。」


「それでは、二人とも頼みますね!」


サラはそう言い、町の方へと帰っていった。


「ワトソン君、そういえば今日、夢は見たかね?」


唐突にホームズが私に聞いた。


「いや、覚えていないね。」


「なるほど。」


ホームズはにやりと笑いながら畑を見下ろした。


「それでは仕方ないな。私が出張るとしよう。」


そう言いながらホームズはどこからともなくステッキを取り出した。


「なんだい?そのステッキは?」


「これは君が眠っている間に買ったものだよ。」


この男、私に隠れて買い物をしていたのか。


「言いたいことはあるが、今は置いておこう。それで何をする気かね?」


「まぁ、そこで見ていな。」


ホームズはそう言って、丘の地面にステッキを突き刺した。

しばらくの間、ホームズは目をつむって、ステッキを握りしめていた。

詳しく観察すると、彼の目が瞼の裏側で動いている。

何かを見ているのか?


「ワトソン君、奴の場所が分かった。」


そう言い、ホームズは畑へと歩き出した。


「ホームズ、君はさっき何をしていたのだね?」


「探知さ。どうやら、そういう魔法のようだ。」


また魔法か。

ホームズが言うと違和感を感じる。

彼はそういったものを信じないリアリストだったはずだ。


「私はいまだに信じられないな。その魔法というものが。」


「僕も最初は信じていなかったさ。しかし、認めざるを得ない事象に出くわしたなら、柔軟に考えを変化させる必要がある。」


彼の言うことは分かる。

しかし、あまりに現実からかけ離れているだけに、容易に信じることはできない。

畑は近くに行くと、確かに荒らされていた。

広範囲に渡って、ニンジンが食い散らかされていた。

その歯型を見る限り、やはり私の推理は正しいようだ。

少し歩いた先、まだニンジンが荒らされていないところまでたどり着くと、ホームズは急に立ち止まった。


「ワトソン君、そこで銃を構えていてくれ。」


私は愛用の銃を取り出した。

これを持つと、あの戦争を思い出す。

私は、冷静に銃を構え、ホームズから距離をとる。


「そこでいい。そこがベストだ。」


そう言うと、ホームズは思い切りステッキを地面に突き刺した。

その瞬間、地響きと共に地面が盛り上がった。


「やはりか。」


私の予想通りであった。

ヤツ、ツノウサギの体長は普通のウサギよりも数十倍も大きかったのだ。

真っ赤な瞳と鋭い金の角が目に入る。

ツノウサギは地面からその全貌を露わにしたのだった。

灰色の体毛に覆われており、発達した脚に物を言わせ上空へと飛び跳ねた。


「ワトソン君、撃て。」


「任せな。」


そう言い、私は上空の奴の心臓めがけて銃弾を撃ち込もうとした。

撃鉄を起こし、引き金を引く。

その時、銃口の先に青く輝く円形の陣が展開された。

本来なら弾が出てくるのだが、そこから出てきたのは砲弾のような大きさをした青白く輝く光だった。

光はツノウサギの体を貫いて、天へと消えていった。

一瞬の無音の後、耳をつんざくような轟音が鳴り響いた。

そして、唐突な虚脱感。

その瞬間、私は気を失ったのだった。

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