第10話 ワトソンの異世界グルメ①
さて、準備は整った。
ホームズがギルドにて待っているはずだ。
私は宿を出て、ギルドの方角へ歩いて行った。
ギルドの前には広場と噴水があり人々で賑わっていた。
「そういえば、アドラーが一年記念とか言っていたな。」
広場を囲うように出店が並んでおり、活気づいていた。
勇者が魔王とやらを倒したらしいが。
私には何のことだかさっぱり分からない。
「ワトソン君、こっちだ!」
声の方を見るとホームズがいた。
「スカイウルフだが、何とかなりそうだ。」
「依頼を引き受けてくれる人がいたのかね?」
「そうなんだ。報酬はスカイウルフの肉のおすそ分けだ。こっちはお金がないからね。」
そう、私たちはまたもや金欠なのだ。
残りの所持金は銀貨1枚に銅貨5枚。
今日も仕事を探さねば。
「依頼はギルドマスターが引き受けてくれたよ。どうやら彼はなかなかのグルメのようだ。」
「なぜグルメだと分かったんだい?」
「調理法だのスカイウルフのうんちくだのを話し始めたからさ。うんざりしたから全部任せてきたよ。」
私たちは朝食ができるまで、広場を散策することにした。
見たことのない食べ物が並んだ店や、骨董品を取り扱った店。
中には武器のようなものを取り扱っている店まであった。
「ホームズ、君はこの祭りについて何か知っているかい?」
「ああ、知っているとも。勇者の輝かしい功績を称える一年祭。そして、もう一つ。」
「まだなにかあるのか?」
「君は知らないのか。なるほど。」
「いや、なるほど。ではなく、教えてほしいのだが。」
「どっちみち昼頃になると分かるさ。ヒントはこの広場。やけに武器持ちが多くないかね?」
たしかに、見渡してみると武器を持っている者が大半だ。
だが、だからどうだというのだろうか。
昼頃には分かる?
時間に関係のあることなのか?
しばらく考えていると、遠くからモンスター、もといギルドマスターの声が聞こえてきた。
どうやら私たちの朝食ができたようだ。
「報酬はスカイウルフの肉、半分だったね。」
ホームズはそう言いながらギルドマスターから朝食を受け取った。
「本当にこんなにもらってもいいんですか?」
ギルドマスターの手元には、凍った肉の塊があった。
「ああ、我々だけではとても食べきれないからね。それに、今後ともあなたとは良い付き合いをしたい。」
そう言って二人は握手をした。
さすが、若いころと違い、ホームズは処世術に長けていた。
私たちは空いた席を探し、朝食をいただくことにした。
「朝から随分と人がいるんだね。」
私は周りを見渡しそう言った。
「そうだね。」
ホームズはそっけない返事をし、朝食を食べ始めた。
ホームズがグルメだと評した通り、ギルドマスターの作った朝食は手が込んでいた。
朝から少しヘビーだがスカイウルフのステーキ1.5ポンド、それにパン2切れとマーガリン、端にはポテトとブロッコリーがあった。
私は一口、ステーキを食べた。
「これは…美味いな!?」
私は驚嘆の声を上げずにはいられなかった。
ステーキはレアで、見た目は赤い身が輝いていたが、いざ食べてみると少し筋っぽい。
しかし、そのあとすぐに筋がほどけるように身が柔らかくなった。
ジビエと霜降り肉が入り混じったかのような食感。
味は少し甘みがあり、おそらく焼いているときに使われたであろうバターとガーリックが主役であるステーキの味を引き立てていた。
その旨味が口に残っている間に、パンをかじる。
パンは少し焼かれており、表面はサクサクしていた。
ステーキとは違う食感を楽しみながら、追加でステーキを口に入れる。
これは止まらない。
端にあったポテトとブロッコリーは肉汁をしっかりと吸っており、これまた絶品だった。
「まるで少年のような食べ方だな。」
ホームズは私を見てそう言った。
かなり豪華な朝食を堪能した私たちは、ギルドの外にあるクエストボードを見ていた。
「どうやら採取の他にも、討伐のクエストもあるようだね。」
ホームズはそう言いながら目を右から左へと忙しなく動かしていた。
見てみると確かに、多くの討伐クエストがあった。
アイスドラゴンに昨日見たマンドラゴラ、クマの討伐もあった。
「私たちの知っている生き物もいるみたいだね。」
「そう、朝食にもジャガイモやブロッコリーが使われていた。」
そう言いながらホームズは一枚の依頼書を取った。
「これなんかどうだろうか。ツノウサギの討伐だそうだ。報酬は銀貨5枚。」
ホームズはそう言って、私の返事も聞かずにギルドへと入っていった。
そして、女性と一緒に私のところへと戻ってきた。
「ホームズ、この女性は?」
「依頼主の方だよ。」
依頼主の女性は獣人ではなく、私たちと同じような人の姿をしていた。
格好は農作業を行うような格好であったが、土の匂いはしなかった。
「私は農家です。この町の周辺に畑があるのですが、今朝、畑に行ってみると農作物がツノウサギに荒らされていたのです。」
「どうしてその、ツノウサギの仕業だと分かったのですか?」
ホームズがそう聞いた。
「私が行ったとき、犯行の現場を見かけたからですよ!」
「なるほど、ではさっそく畑へと案内していただいてもいいですか?」
その女性を先頭にして、私たちは現場へと急ぐのだった。
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