第9話 夢の世界の石板
そこには大きな石板があった。
その石板の文字は青白く輝いており、今日の職業適性試験の石板を思い出させるものであった。
その石板は白い空間に立っていた。
まるでこの空間の主であることを主張しているようにも見える。
少しその石板を観察した後、私はそっとその石板に手を触れた。
その瞬間、空間から女性の声がした。
「経験値獲得。レベルがあがりました。」
なんだかそんなことを言っていた。
「お前は誰だ!どこにいる!!」
私はそう叫んだが返答はない。
「スカイウルフ 討伐。光花 採取。以上によりレベルが3に上がりました。」
「私は無視ということか。」
少々イライラしながら私は周りを見渡した。
しかし、やはり声の主は見つからなかった。
「スキル獲と…」
「起きたまえワトソン君!」
私の隣でホームズが立っていた。
「見なよこの服を!もう乾いているぞ!」
彼はそう言いながら私の服を差し出した。
私たちの服は宿屋に出し、洗濯をしてもらっていた。
「乾いているのがなんだというんだ。暖炉の前にでも置いていたのだろう。」
私はそう言いながら服を着替え始めた。
「それは違う。それだと煙の臭いが服に残るはずだ。しかし、この服からは煙の臭いがしないのだよ。」
たしかに、私の着た服からも煙の臭いはしなかった。
「じゃあ、いったいどうしたというのだね。」
「それを僕は今朝、聞いてきたのだよ。もうすでに部屋の前に服が置かれていたからね。」
部屋の前に置くとは…
防犯は大丈夫なのだろうか。
そんな一抹の不安を抱かずにはいられなかった。
「それで。いったいどういうカラクリだったんだい?」
私は服を着換え終えて、寝間着を片しながらそう聞いた。
「魔法で乾かしたのだそうだ。正確には魔道具なんだそうだが。」
「魔道具?また奇天烈な単語飛び出したな。」
「そうなんだが。実際、その道具を用いているのだから受け入れるしかあるまい。」
「まあ、昨日のマンドラゴラやスカイウルフを実際に見てしまうとな。信じるしかない。」
その時、戸口からノックの音が鳴り響いた。
「僕が行くよ。」
そう言い、ホームズは戸口へと向かった。
どうやら、この宿泊施設のスタッフが訪ねてきたようだ。
ホームズに二言ほど話して、スタッフは戸口の向こうへと消えていった。
「ホームズ、いったいなんの用だったのだね?」
「ああ、彼はこれを届けてくれたようだ。」
そう言い、こちらを振り向いた彼の手には、大きな布に包まれた物体があった。
「それ、なんだい?」
「ミス・アドラーが親切にもスカイウルフの肉を分けてくれたようだ。」
そう言い、彼は床にそれを置いた。
スカイウルフの肉は凍らされているらしく、硬そうな音を立てた。
これも魔法で凍らせたのだろうか。
「さて、早速話し合うのだが。一つ目の議題はもう決まっている。」
ホームズは近くにあった椅子を引き寄せてそこに座った。
私はベッドの上に座った。
この部屋にはベッドが二つと椅子と机が一つずつしかなかったのだ。
「では、まずこの肉をどうしようか。」
それが一つ目の議題であった。
「焼いて調理すればいいのでは?」
私はそう答えた。
「そうなのだが、調理する器具がないのだよ。」
なるほど。
この部屋には当然キッチンはない。
そうなるとどこか他の場所で調理をお願いする必要がある。
ん?お願い?
「そうだホームズ!私たちでこの肉の調理をギルドのクエストとして依頼に出すのはどうだろうか!」
「それは妙案だワトソン君。随分冴えているではないか。」
ホームズに褒められた私は少しいい気分になった。
「では、一つ目の議題は解決ということだな。」
「続いての議題は、我々のこれからの行動の指針だ。」
「私たちの世界へ帰る方法を探すのではないのか?」
「むろん、最終的にはそのつもりだ。」
ホームズは立ち上がりながらそう言った。
「しかし、その帰る方法というものがこの僕でさえ見当がつかない。世界各地の事件を頭に叩き込んだこの僕がだ。」
たしかに。
考えてもみたらとんでもないことだ。
あのホームズが、解決の糸口をつかむことができないだなんて。
「だが、早まるなよワトソン君。さっき言ったのはあくまでも現状の話だ。」
「現状?」
「そう。今はなんの手がかりもないが、行くことはできるが帰ることはできないだなんてことはありえないのだよ。」
「つまり?」
「調査だよ!証拠集めに証言。今までと同じさ。違うのはクライアントが僕たちだということのみ。」
どうやら彼はこの状況を楽しんでいるようだ。
「では、以上で話し合いは終了だ。さっそくこの肉を朝食に変えてもらおうか!」
「私は準備がまだできていないから、先に行ってもらってもいいかな?」
「むろん構わないさ。それでは、あとでギルドで会おう。」
そう言いながらホームズは颯爽と飛び出していった。
やれやれ、いい年したおじさんがまるで子供だ。
彼はそれほどまでに、事件を欲していたのだろう。
私は準備をしながらふと思いだした。
「そういえば、なにか妙な夢をみたような気がしたんだがな。」
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