第8話 報酬

「そういえば、泊まる場所とかってあるの?」


アドラーは西門前にてそう私たちに聞いた。

考えたら、僕たちはまだ宿すら決めていないのだ。


「とりあえず光花をギルドに渡して、その報酬金を使って今後を考えるよ。」


そう、今はとにかく資金が必要だ。

早くギルドに行こう。

今日はいろいろあったから、早く体を休めたい。


「じゃあ、この光花も渡しておくね。」


そう言ってアドラーは自分の持っていた光花を私に押し付けた。


「いや、これは君の収穫したものだ。それを受け取るわけにはいかない。取り分はきっちり三等分にするんだ。」


私は断固として受け取らないつもりだったが、彼女は光花を私に押しつけた瞬間走り去ったのだ。

私は危うく光花を落とすところだった。


「それはあげるよ!私たち町からの歓迎だと思って受け取ってよ!!」


アドラーが走り去った暗闇の先から声だけが私たちに届いた。


「では、ありがたく頂くとするよ。」


ホームズは暗闇に向かってそう言った。


「なんて豪快な娘なんだ。」


私はそうひとりごちた。


「うん、確かに性格は豪快だ。しかし。」


「しかし、なんだ?」


「彼女の歩き方や仕草を見ていたかい?あれは上流階級の所作だ。そして彼女の持っていた持ち物一つとっても、町の人々の持つものとは質が違う。」


「つまり、彼女はお金持ちであると言いたいのかい?」


「ああ。」


そんな会話をしているうちにギルドへと到着した。

私たちが中に入ると一気に注目を集めた。

なるほど、上級職というものは本当に珍しいようだ。


「マスター、依頼の光花だ。」


私とホームズは机の上に光花をすべて置いた。

こうやって見ると、ずいぶんと集めたものだ。

マンドラゴラが怒るのも無理はないのかもしれない。


「さすが上級職さまだ!一日にしてこんなに集めるとは。」


モンスターことマスターが光花の重量を計っていた。


「よし、これなら銀貨6枚と銅貨5枚だな。」


そう言ってマスターは銀色のコインを6枚、銅のものを5枚、机の上に置いた。

これがこの国の通貨か。

コインには女性の横顔が描かれている。

どこか我が国、イギリスの通貨を思い出させるデザインだ。


「マスター、酒は置いてあるかい?」


「あるよ。何がいい?」


「じゃあ、ウイスキーソーダを2つ。」


「じゃあ、銀貨一枚もらうよ。」


ホームズは銀貨を1枚払い、グラスいっぱいのウィスキーソーダを2つ持って席に座った。

私も彼の前の席に座り、二人でウィスキーソーダを楽しんだ。


「ワトソン君、銀貨1枚でこいつ2杯らしいぞ。残りの金額でなんとか安い宿屋なら泊まることができそうだ。」


ホームズはそういうとパイプをふかした。

その時、私は初めて気が付いた。


「ホームズ、それ葉が入っていないじゃないか!」


「うん、どうやら葉はいらないらしい。」


確かに、葉がないのにホームズは美味そうに吸っている。


「ワトソン君、信じられないことではあるが。どうやらこの世界では魔法が存在するようだ。」


「ああ分かっているさ。アドラーの使ったマスケット銃やあの獣を収納したネット。もはや疑いようがない。」


「ここで浮かぶ疑問点は2つ。僕たちにも使えるのか?ということ、そして法則性はあるのか?ということだ。」


「私たちが魔法を?冗談だろ。」


「いやいや、ありえない話ではないぞ。実際、このパイプには葉が入っていない。にも関わらず僕はこのパイプを吸うことができている。これが何よりの証拠じゃないか。」


たしかにそうだ。


「それに魔法というと嘘くさいが、要するに僕たちの知らない法則と科学がそこにはあって、まるで魔法のように見えるというだけ。原始人の目の前でマッチを使うようなものだ。」


そう言われるとそうなのかもしれない。


「さて、そろそろ外に出ようか。」


私たちはギルドを出て東へと歩いていた。

私は初めてこちらの方面を見たが、商業施設や宿泊施設が立ち並び、観光地のような印象を受けた。

建物はどれも夜中だというのに明々と私たちを照らしていた。

光花を集めた帰り道から見た町の明かりの正体だ。


「ホームズ、君は一度ここへ来たのかい?」


特に迷う様子もなく歩いていく彼に声をかけた。


「ああ、ワトソン君と別れたあと、すぐにこっちに行ったよ。なんせ西門近くは住宅が多かったから。情報を集めるには適さないと判断したよ。」


「ああ、あっちは住宅地でいっぱいだったよ。店もあるにはあったが。」


「さ!ついたぞ。」


そこは古びた木造建築だった。

三階建ての建物で、入り口の上には取れかけの看板があった。


「ここは?」


「僕が昼間に見繕っておいた宿だよ。」


そう言いホームズは中へと入っていった。


「すまないが、一泊止めてもらえないだろうか?」


すると店主は一枚の紙をこちらに渡した。


「ああ、部屋によって値段が違うのか。」


そこにはグレードと一泊の値段が書かれていた。


「一番安いこれにするか。一人銀貨2枚で泊まれる。」


と、いうことで無事私たちは一日の疲れを癒す城を確保したのだった。

疲れていた私たちは今後について再度明日、話し合うことにし、今日はもう眠ることにした。

その夜、私は不思議な夢を見た。


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