第7話 マンドラゴラ
「ミス・アドラー!刃物は持っているかね?」
ここからは私がホームズに後から聞いた話である。
なんせ私はマンドラゴラに吊るされていたのだからな。
とんだ災難だった。
「持っているけど…」
そう言うとアドラーは、刃渡り5フィート程度の短刀を取り出した。
ホームズはその短刀を見るとマンドラゴラを観察した。
「ホームズなにしてるの!早くしないとワトソンが。」
「ミス・アドラー。あの生物は歯があるが肉食なのかね?」
ホームズは私を見上げながらそう聞いた。
「いや、無数の歯を持ってはいるけど、あいつは普通の植物と一緒。お肉は食べないよ。」
アドラーはマスケット銃を取り出した。
「ふむ。」
ホームズはおもむろに近くで光っていた光花を摘み取った。
「ホームズ!そんなの取っている場合じゃないよ!!」
アドラーはついにマスケット銃を取り出した。
短刀は近くに投げ捨てられていた。
「ミス・アドラー。そのマスケット銃を足元に置き、町へと歩き去るぞ。」
私は驚いたものだ。
なんせホームズとアドラーが吊るされた私に背を向けて歩いていくのだから。
この時ほど絶望したことはない。
すると、マンドラゴラは私を下に降ろしたのだ。
私はまた驚いた。
なんとあの怪物、マンドラゴラが地中へと帰っていくのだ。
私は一人取り残された。
「ワトソン君!こっちに来たまえ。」
遠くからホームズの声が聞こえてくる。
「ホームズ!急に帰っていくから私は見捨てられたのかと。」
「いや、事実見捨てたのだ。」
ホームズのこの衝撃の一言に私は激昂しそうになった。
「そう怒るなよワトソン君。あそこではそうするしかなかったのだ。」
ホームズは歩きながらそう言った。
遠くの方で町明かりが見える。
「そういえばホームズ。なんであの時武器を捨てさせたの?」
アドラーの背中にはいつ回収したのかマスケット銃があった。
「私は最初、ミス・アドラーに刃物を所望した。理由は簡単だ。相手は植物なのだから根本を断てばいい。」
「確かに、一理あるな。」
私は服についたツルを払いながらそううなずいた。
「だが、ミス・アドラーの短刀はあまりに頼りなかった。」
確かに、あれでは根を断つことはできないだろう。
「だから考えを変えたんだ。相手はいったい何が目的なんだろうと。」
「目的?」
「そう、なにか目的があるはずだ。そう考えた私は君にこう聞いたね?あの生物は肉食なのかね?と。」
「うん。」
「動物が人を襲うとき、理由は二つしかない。それは食べるときか自衛をするときだ。」
「あ!」
その時、アドラーは何かに気づいたようだ。
「そう、肉食でないのならおそらく自衛。ワトソン君が吊るされたのは、周りの光花を守るためではないのか?僕はそう考えた。」
ようやく私にも彼がなぜ去っていったのか分かった。
「だから僕は、あえて武器を捨てて帰ったのだ。相手の目的はあくまでも自衛なのだから。ワトソン君が食べられる心配もない。」
なるほど。
たしかに説明としては納得がいく。
しかし。
「相手は植物だぞ。武器なんて識別できるのか?」
「うん、そこは賭けだった。しかし、相手は意志を持っているようだったし、武器として鋭い歯をいくつも持っていた。」
相変わらず物凄い視力だ。
「つまり、刃物の識別は可能だと僕は推理したんだ。」
町が近くなってきた。
「僕の手法は知っているだろう?相手の目線になるんだ。マスケット銃は武器はどうか分からないが、刃物が確実に分かる。シルエットが特徴的だし、植物にとっては天敵だと言えるだろう。それにミス・アドラーが短刀を取り出したときと、僕が光花をマンドラゴラの前で摘んだとき、奴の顔と意識がこちらへ向くのが分かった。」
たしかに、植物を刈り取るときは鎌を使うのが一般だ。
その時、私はホームズの背中を見ていた。
瞬間、黒い影で視界が覆われた。
「動かないでね。」
背後からアドラーの声が聞こえたのと同時に、近くで銃声が鳴り響いた。
「これは驚いたな。」
さすがのホームズも目を見開いていた。
ホームズと私は覆った影の正体は、オオカミに翼の生えた15フィートもある獣だったのだ。
その大きな獣は、銃を腹部を撃たれたようで、血を流しながら倒れていた。
「危ないところだったね~。」
アドラーはあのマスケット銃を背中から抜いていた。
「こいつはスカイウルフだな。」
「こいつ飛ぶのか?」
私はこの獣の翼をまじまじと見ながらそう聞いた。
「変なことを聞くんだね。さっきも空から君たちに襲いかかったじゃん。」
私は身震いした。
こんな生き物がうじゃうじゃいるのか?
「この銃創、変わった形だが。弾はなにでできているのだね?」
ホームズは獣の近くに座り込み、熱心に銃創を観察していた。
「弾?魔力を銃に装填して撃ちだすのに?」
ホームズと私はアドラーの方へと振り返った。
「え?私そんな変なこと言った?」
アドラーは少し顔を赤くしていた。
「失礼。耳慣れない言葉が聞こえたものだから。」
ホームズは立ち上がりながらそう言った。
「じゃあ、このスカイウルフをさっさと収納しちゃおうか!」
アドラーはネットのようなものをポーチから取り出しスカイウルフを覆いだした。
私とホームズはただそれを眺めていた。
「じゃ、起動するから離れていてね。」
そう言いアドラーはネットの端にあるスイッチのようなものを押した。
すると、ネットが急速にスカイウルフを中心に収縮していき、こぶしサイズまで小さくなった。
「よし!じゃあ、町に帰ろうか。」
アドラーはそう言い先頭を切って歩き始めた。
「ワトソン君、どうやら我々は本当に面白いところへ来てしまったようだぞ。」
ホームズは目を輝かせながら私にそう言った。
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