Play.4『傀儡迷路』

「多少は体力の回復もできたね」



(そうめんを食べ終え、あなたはゲームに集中する)


(ギャルはベッドに腰かけて見守りを続ける)



「序盤のステージに限定したら、強敵の関門を越えて後半に入ってるよね」


「邪魔なんて不満をぶつけられたけど。結果的にはいい感じに進んでるんじゃない。私がいなければもっと捗った? お、否定が早い」


「道中はお手の物だね。それでも攻撃を受けるのは仕方ないか。単純にダメージを抑えるのが攻略の助けにはなるよね」


「落ち着いて敵の行動を見極める、ぐらいしか方法がなー。死んで死んで死んで死んで、っていう繰り返しだ」


「うーん、他にアイデアかー。たとえばさ、画面を見る目、操作する手が大事なのはわかるでしょ? そのふたつに並ぶのが音を聞く耳だと思う。きっとタイミングを計るのに役立ってるはず」


「あ、私にいい考えがあるんだけど。聞きたい? 聞きたいよね? お願いしますって頼める?」


「しょーがない。きみに土下座で足を舐められたらね。そこまでしてない? まあまあ、身を任せなよ。えいっ」



(あなたとベッドの間に、ギャルが無理やり身体をねじ込んで座る)


(さらに視界が暗くなる。あなたの目をギャルが手で押さえていた)



「いわゆるトレーニングだね。コントローラーを持つのはともかく、目に頼りすぎてるのかも。一度、限定的に耳で集中してみるのはありでしょ」


「画面が見えないと無理? そこは私の的確な指示で導くし。きみが乗ってるのは、信頼と実績に厚い大船だよ」


「復活場所はわかるよね。まずは想像力を働かせて。そうそう、真っすぐ歩く。短い橋だからぶれずにね。右にボウガンを持った敵がいて、ロックオンなら楽でしょ」


「盾を構えれば矢を弾く音が聞こえるし。近づくと音も大きくなって……今。ほら、攻撃が当たる音だ。雑魚は三回で倒し切れたね」


「うん、上手じゃん」



(耳元で優しい囁き)



「マップは頭に入ってる? とりあえず後ろを向いて。真っすぐ、右に修正で走ろう。降ってくる火炎瓶を避けて部屋の中。群がる雑魚を前にローリングですれ違えば、各個撃破できてたでしょ?」


「おー、やるじゃん。今度はきみが先に動いてみて。そこは鍵が閉まったままの扉で、左に向いたのは正解。へぇ、走り抜けるんだ。火炎瓶はまだくるよ」


「階段を上がって、ジグザグに動くのは賢い。距離感は掴めてる? 音を参考に方向を確かめよう。次は下りる階段だったね」


「ほら、頭上で矢が飛んでくる音が聞こえるよ。待ち構える敵は盾を持ってるし、他にも敵が……んー、囲まれてやられたか」


「どうだった? 意外に進めたよね。もう何度か試そうよ」


「ちょっと黙ってみるから。一人でやってみて」


「……」


「……」



(あなたが操作を行うたびに、ギャルがリアクションで吐息を漏らす)


(右に行けば右耳に、左に行けば左耳に。熱を感じる)



「……」


「……ふぅ」



(突然、ギャルが状況に関係なく息を吹きかける)



「手元が狂った? 想像外のところで問題は起こるものでしょ? 敵には感知範囲が設定されてて、微妙な行き来で動き出すし」


「でも耳を鍛えたら異変に気づけるよね。鎧の音や歩く音、注意すべき点は数多い。私が邪魔、じゃなくて……障害……妨害……うん、手伝いが正しいか。あえて間違った指示を出すことで、きみの成長を促すわけだよ」


「さ、始めよう。まずは後ろ? いきなりバックしちゃうんだ。正面はダメ? 顔を合わせてゆっくり、時間を気にせずやり合うのもいいのに」


「ちゃんと反応を聞いてね。きみの手で鳴く声を頼りに、先へ先へ……丁寧によく探って……」


「右かな左かな。中に入って……また出るんだ。間違えちゃった? そう、必死に動くだけじゃ行けないよ。いいところはどこだろうね……」


「ふーっ……」



(耳へ息が吹きかけられる)



「びっくりした? 不意打ちは効くでしょ。でも耐えてくれないと困っちゃうから」


「二人の共同作業だもん。一緒に気配やサインを確かめて……深く感じながら……ね?」



(ギャルは、くすくすと小さく吐息で笑う)



「ふぅ……意地悪しないでって? 頭がバカになる? いいじゃん、なりなよ。わけがわからなくなるまでやっちゃってさ。ぎりぎりの状態なら感度も……ビンビン、でしょ?」


「あ、今の……とっても上手」


「そこ……際どいとこ当たったね」


「ん? 手応えなかった? 大丈夫、焦らずに行こう」


「ヒント、欲しい? ふーっ……」


「ふふ、そんなにビクビクしないでさ。時には堂々と、激しくしても行けるよ」


「奥のほうも大丈夫。コツン、て音がした?」


「コツン、コツン……ほら、よく聞いて。そこは気をつけないと……逝っちゃうかも」


「うん……ここで上を攻めるんだね。その先は無防備なとこ……」



(期待がこもる吐息)



「さすが、的確な指使い……あ、そう……念入りに……反応を、待って……」


「来るよ、来る……来るけど……もう少し……」


「きみになら……ん、軽く……我慢できない?」


「ラストスパート、一気にやれる?」


「動くよ……行け……行け行け、行っちゃえ……!」


「うん……そう……いいよ……」


「行け、行け行け行け……こっちも、来るから……行け……!」


「あっ……ふふ、行ったね……」



(ギャルの手が離れて視界が戻る)



「快感で晴れやかな顔になってるじゃん。私も汗かいちゃった。すっごく、良かったよ」

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