Play.3『素麺性理論』

(一度、部屋を出て行ったギャルが戻って来る)



「さあ、クリアも目前かな。何をしてたか? 内緒だよ」



(定位置のベッドに腰かけたギャルが、ゲームをするあなたの腕を揺らす)



「先はまだまだ? 私がいないとダメダメなんだから。まあ、知ってたけど一筋縄じゃいかないか。でも動きは随分よくなった。勝手はわかっても難しいのが、死にゲーの醍醐味。高い壁を乗り越える気持ち良さね」


「それに加えて、途中にも達成感があればモチベーションは上がるんじゃない? うんうん、ご褒美は大事ってこと」


「今、手こずってるのは鎧の強敵だ。とりあえず目標はそこに設定して、ご褒美の内容を決めよう」


「何がいい? 私が考えるの? ふーん、なんでもよかったのに。ラッキーを棒に振っちゃうのは、きみらしい間の抜け具合だ。じゃあ……」



(ギャルがベッドを下りて、あなたの左隣に座る)



「ほっぺにキスとかどう?」



(肩に手が回り、左の耳元で吐息交じりな囁き声が聞こえる)



「口ごもってどうしたの? ほら、進んでよ……ちゅ……」



(頬には触れず、キスの音だけが鳴る)



「ご褒美の想像はできた? 一度で済ますのは味気ないかもね。雑魚を倒すごとに、だと多いのか。興奮が止まらなくて鼻血出ちゃうね」


「きみもエッチなとこあるし。私を押し倒したりさ。さっきのは筋トレで足が限界だったから? むしろ私が後ろに引っ張った?」


「つまり、私がエッチな女の子だって言いたいんだ。違う? 否定されるのもなんだかなー」


「ちゅ……ちゅ……。ほーら、エッチじゃない清楚な女の子がキスのご褒美を待ちきれず、したくてしたくて練習中だよ」


「ちゅ、ちゅ……ちゅ、ちゅー。ほっぺに当たったらどんな感触だろうね」


「ちゅ、ちゅ、はぁ……期待が高まってきた?」


「ちゅ、ちゅ、ちゅー……ちゅっ。あ、当たりそうになった」


「ちゅー、ちゅちゅっ。キスにも種類ってあるよね」


「ちゅっ、ちゅっ……ちゅ。ほら、ご褒美の変更する? もっと欲望に任せていいのにさ。大サービスだよ?」


「ちゅ……と思ったけど。さっきから簡単に死んじゃってるじゃん。なるほど、きみには刺激が強すぎたんだ」



(肩の手と共に、ギャルが離れる)



「まったく。どっちが清楚なんだか。でも大丈夫。妄想逞しい、むっつりにとっておきの用意をしてるし。ちょっと待ってて」



(立ち上がったギャルが部屋を出ていく)


(あなたが一人でゲームをしていると、ギャルはすぐに戻ってきた)



「へい、お待ち」



(その手にはそうめんを盛った皿と、つゆのセットを持つ)



「そろそろ小腹が空いてきたでしょ。ゲームに熱中すると結構エネルギー使うよね」



(ギャルが皿を小さなテーブルに置く。そのテーブルを移動させながら、あなたの右隣に座る)



「清楚系な男の子に向けた、ご褒美企画第二弾。強敵を倒せたら、私お手製そうめんを食べる権利が与えられます」


「うん、ただ茹でただけ。でも水にさらして氷で冷やすときには素手だし。嬉しくない?」


「無言はイエスと受け取るよ。そうそう、さっき作ってて内緒にしたやつ」


「さあ、頑張って攻略しなきゃ。時間制限ありのご褒美だよ。どういうことって? それはね……」



(ギャルはつゆと箸を持ち、少量のそうめんを取る)



「ちゅる、ちゅるる……!」



(耳元でそうめんをすする音が聞こえる)



「無難に美味しいね。隣で食べてると気になるでしょ。ほら、お腹の音が聞こえてきた」


「ちゅるるる、ちゅるっ……んふぅ。焦ると操作にミスが生まれるし、焦らないとご褒美が遠のく。難しいね」


「ず……ずぞぞっ! んんっ……ちょっと欲張り過ぎたか。下品になったかも。あ、そのほうがいいとか? 世間的にねじ曲がった性癖を開示するのは、私だけにしときなよ。うんうん、否定したい気持ちは受け取っておこう」


「ちゅる……ずずっ! 意外とまともに音を出すのは大変だね。きみには嬉しい話か」


「ずぞぞぞ、ずぞっ、ず……ぢゅる! んー、んふ。あんまり時間がかかると、私のお腹が膨れちゃうんだけど」


「また強敵のところに戻ってきた。かっこいいとこ見せてよ」


「ちゅるる、ちゅるっ! 量を意識すれば綺麗な音を出せるね」


「さ、頑張れ、頑張れ。簡単に逝くのは禁止だから。我慢ね……あ、その突きは気持ちいい。待って……うん、上手だよ。そこが隙……いい、いいよ。もう少しで逝けそう……突いたほうがいい……そう、逝く、逝くよ……あっ……!」



(熱のこもった吐息が耳にかかる)



「頑張ったね。ご褒美がそんなに欲しかったんだ」


「よしよし、じゃあ口を開けて。あーん」



(口元へ差し出されたそうめんを、あなたは食べる)



「美味しいでしょ? 女の子に食べさせてもらったら余計にね。もっと? ふふ、欲しがるじゃん」


「あーん。ちゃんともぐもぐするんだよ。恥ずかしがらなくてもいいのに」


「もうひと口、あーん。綺麗に食べれて偉いね。このご褒美には満足かな?」


「でた、無言のイエス。罵倒じゃなくても喜ぶなんて、便利な思考回路積んでるよね」

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