Play.2『筋肉万象』

「うーん、新しい復活場所まで来れたけどさ。んっ、んっ、んっ……」



(ベッドへ横に寝転んだギャルが、伸ばした足を開閉させる。その度に小さく息が漏れる)


(あなたはベッドの揺れを背に感じながら、ゲームを続ける)



「やっぱり道中の弱そうな敵も侮れないね。んっんっ……」


「きみの油断もなおらないし。んっんっんっ……」


「そうだ、筋トレでもする?」



(ギャルはベッドに腰かけて、あなたの左肩に足をぶつける)



「なんでって? ほら、健全な肉体には精神が、じゃなくて……鍛えた肉体に? いや、精神がどうたらこうたらだっけ……?」


「あ、今笑った? きみに笑われるのは不本意だなー」



(左肩に何度も足がぶつかる)



「つまりさ、私が言いたいのは精神と肉体に並々ならぬ関係があるってこと。注意散漫なきみが鍛えればゲームもすいすいってね」


「そもそも、ちょっとぷにってきてない?」



(ギャルに身体を触られて、あなたは軽く暴れる)


(聞こえる声が右に左に、遠くに近くに動く)



「こら、じっとして。ここも柔らかいし、ここも柔らかい。肩は硬いね。ゲームのやりすぎでこってる?」


「別にゲーム自体は楽しいし構わないんだけど、身体を悪くする要因にはなるしさ。一鳥二石でやってみなって。さあ、立つよ」



(あなたは腕を引っ張られて立ち上がる)



「ゲームはしながらでいいから。せっかくの新作を遊ぶ時間に邪魔しちゃ悪いし。 え? もう邪魔してるって? へぇ、私がいることに不満があるんだ。そうじゃない? うん、訂正が早いのは素直でよろしい。じゃ、筋トレしよっか」



(ギャルが背中に回って、あなたの腰に手を当てる)



「コントローラーは握ったまま、ゲームに集中ね。スクワットなら邪魔せずできるかな」


「はい、ゆっくり腰を落として。浅いと膝を悪くするから深く、深く……かかとに体重をかけよう」


「姿勢は真っ直ぐに。ちょっと後ろの椅子に座る意識でお尻を出す」


「あ、敵にやられちゃったね。ゲームのためにやってるんだから。気を抜かない」


「スクワットは、しっかり補助してあげる」



(ギャルと身体が密着する。声がすぐ後ろで聞こえる)



「数えていくよ。いーち、にー、さーん、よーん、ごー、ろーく、なーな、はーち、きゅー、じゅう。はい、休憩」


「急にやりすぎるのもよくないもんね。刻んでいこう」


「まだ続けるのかって? 逆にもう疲れた、なんて言うつもり? あんまり情けない姿を見せると、女の子に呆れられちゃうよ? いいの? 大丈夫? うん、困るよね」



(からかいを含む笑い声)



「だったら続き、しよっか。達成感を得られるし数字は戻さないよ。さあ、腰を下ろす。じゅーいち、じゅーに、じゅーさん、じゅーよん、じゅーご、じゅーろく、じゅーなな、じゅーはち、じゅーきゅう、にじゅう。いいよ、偉いよ」


「身体が熱くなってきたかな。今がチャンスだね。筋肉が喜んでる。活かすも殺すも、きみのやる気次第。どうする? いくよ、いっちゃうよ? ほら、一緒に腰を動かそう」


「頑張れ、にじゅーいち、にじゅーに、にじゅーさん、にじゅーよん、にじゅーご。しんどいね、しんどいよね」


「でも、私は続けるから。きみはギブアップ? もしかして、女の子に一人でさせちゃう気? 一緒にやりたくないの? うん、そうだよね。やりたいよね。じゃあ、まだ頑張ろっか」


「にじゅーろく、にじゅーなな、にじゅーはち、にじゅーきゅう、さんじゅう。はい、休憩だね。ん? 終わりじゃないのか? 私はきみがこんなところで諦めないのを知ってるけど」


「ゲームを遊ぶ手は動かす。お、不意打ちは上手く避けたじゃん。筋肉のおかげだ。結果が出たのなら、ね?」


「さんじゅーいち。震えてるのは効いてる証拠。さんじゅーに、さんじゅーさん、さんじゅーよん、さんじゅーご……もうちょっとだよ。さんじゅーろく、さんじゅーなな、さんじゅーはち、さんじゅーきゅう、よんじゅう」


「止まらないよ。最後の十回、よんじゅーいち。しんどい? 私もしんどい。よんじゅーに、よんじゅーさん。ラストスパート、よんじゅーよん、よんじゅーご。ここで腰を下ろしたまま我慢」


「ゲームでも大事だよ。ついつい、勢いでとどめにいったりさ。そういうときは大抵、反撃を受けて意気消沈するし」


「はい、上がって……よんじゅーろく。五十回も目前だ。よんじゅーなな、よんじゅーはち。あー、終わっちゃうね。ほら、焦らず噛みしめて」


「よんじゅーきゅう……よんじゅーきゅう、よんじゅーきゅう。え? どうかした? よんじゅーきゅう、よんじゅーきゅう……限界だって? 限界は越えるためにあるんだよ。今私、かっこいいこと言ったね」


「まぁまぁ。段々よんじゃなくて、ごの文字を発したい口になってきたから。さ、よんじゅーきゅう……よんじゅーきゅう……よんじゅーきゅう……わっと……!」



(あなたは立てなくなり、ギャルを巻き込んで後ろに倒れる)



「ふふ、私も疲れちゃった」



(ベッドの上で向き合い身体が密着する)



「汗ばんだ男と女がベッドで腰砕けか。死にゲーって面白いね。関係ない? だとしたら、この状況は何? 筋トレのせい? うん、それはそう」

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