生きるために
「うみー!」
プチ王子は父の臣下達と海に来ていた。ペンギンの基本、「泳ぎ」を教わるためだ。
「殿下、あまり遠くに行かないでくださいね。ここには生息していないですが凶暴な…」
「わかってるよ、遠くに行くとこわいモンスターがいるんでしょ?お父さんから聞いてるよ。」
南極にはベビーペンギン以外にも様々なモンスターが生息している。比較的おとなしい他種のペンギンやカニクイアザラシと遭遇する分にはいいが、ヒョウアザラシやオオトウゾクカモメといった凶暴なモンスターは危険だ。これらは魔力で体を強化し、他のモンスターに襲いかかって捕食する。万が一遭遇してしまった時のためにも泳げなければならない。
「それでは泳ぎ方をお教えします。殿下、ちゃんと聞いてくださいね。」
「はーい!」
餌を摂るため。敵から逃げるため。生きるためにペンギンは泳ぐ。
手本を見て、真似をして、アドバイスを受け実践する。プチ王子はだんだんと泳げるようになってきた。
「殿下、そろそろ休憩にしましょう。お母様からお弁当と飲み物をたっぷり預かっていますよ。」
「ごはんだー!」
あっという間に平らげるプチ王子。そしてまたすぐ泳ぎ出す。元気でいいな、と臣下達は思った。午後に向け、彼らも栄養補給をする。
デザートが1つ余った。
「殿下、最後の一つ食べますか…殿下?」
そこにプチ王子の姿はない。
◇
「ふー、やっぱり食べてすぐ動くと疲れちゃうな、陸に上がろっと。」
プチ王子は砂浜に上がり、横になる。
「ゴッゴッゴッ」
獲物を発見したヒョウアザラシが唸る。いつの間にか、安全地帯からは離れていた。
「え゛」
飛び退くプチ王子。しかし陸側に追い詰められていく。海に逃げることはできなくなってしまった。
足は恐怖に震え、息が詰まる。このままでは捕食されてしまう。生存本能が音を立てる。
「戦わなきゃ」
体格では到底敵わない。武器を探す。彼の目に入ったのは…
「…骨?」
今も残る、伝説。王子の危機に、剣は永き眠りから目覚める。
「抜け…ろっ!」
ザンッ
「グ?」
ヒョウアザラシの目に入ったのは、持ち上げられた魔力の結晶。強い。生きるためには逃げなければならない、本能がそう言っている。
「ゴアァァァ…」
叫びながら海に逃げて行くヒョウアザラシを見ながらプチ王子は呟く。
「なにこれ…」
◇
プチ王子と一緒に海にいたうちの一人が城に戻っていた。
「陛下、申し訳ございません!少し目を離してしまったが故…」
「いや、通信の魔道具を持たせなかった私の責任だ。気に病むことはない。私が行こう。」
王が城を出た時、ヒョウアザラシの叫びが耳に入る。
「…まずい!」
最悪の状況も考えうる事態に王は走り出す。魔法も使えない我が子がもしヒョウアザラシと遭遇していたら。生存を祈り加速する。
しかし、砂浜に着いた王の目に入ったのは想像と全く違うものだった。そこにあったのは、無傷でタイタニックセイバーを掲げる、我が子の姿。
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