肉を切らせて骨で断つ
ベビーペンギン王国に語り継がれる伝説がある。
かつて王国を大津波が襲った時、黄金の巨大な魚が現れた。鯛の姿をしていたという。
鯛は津波の行手を阻むかのように体を横に向けた。流れ来る流氷が鱗を削り、身を裂く。
しかし鯛は動かない。
刹那、波が引く。それは第二波の予兆。鯛は体を翻し、もう片方の身で受け止めにかかる。
しかしそれは鱗が取れて剥き出しになった白身を王国に向けることになる。
その痛ましき姿にペンギン達は涙を流し、よだれを垂らした。
津波は収まり、王国は難を逃れた。海岸に残ったのは巨大な鯛の骨のみ。
ペンギン達はがっかりした。
◇
しかし、王というものはやはり違うのだろう。
津波から王国を救った鯛。その様子を見ていた王国の創始者、つまり初代のペン大王はこう言った。
「偉大なる鯛の功績を後世に残すため、骨を凍らせて保存しよう」
自ら現地に赴き、そして目にする。純粋なる魔力の塊。
これをただ凍らせておくだけというのはもったいない。王はそう思ったという。
「中骨から剣を作ることはできないだろうか?」
王の発言は前代未聞のものであった。しかし彼に忠誠を誓う者達は。
『仰せのままに』
一晩経った。誰も徹夜で作れなんて言ってない。しかしそれは剣の形になっていた。できてしまったものは仕方ない。仕上げに王が魔法を掛ける。永遠にこの世に残すために。
「
その魔法は、対象の温度が0°C以上にならなくなるというもの。最後に水をかけて凍らせる。
「完成だ…」
その剣の名は、タイタニックセイバー。
◇
初代ペン大王はタイタニックセイバーを絶対に手放さなかった。
年老いて王位を息子に譲った日の夕方、彼は新しい王と友に海岸に向かっていた。
「父上、こんな時間に散歩なんてどうしたのですか?もうすぐ夕飯の時間になります。母上に怒られますよ?」
返答はない。海岸に着いた時、前王となった彼はタイタニックセイバーを砂浜に突き立て、柄頭に両翼を置いてこう言った。
「息子よ、この国を頼んだぞ」
「もちろんです、父上。さあ帰りましょう。みんな待ってますよ…父上?」
彼は立ったままこの世を去った。
砂浜に突き刺さったタイタニックセイバーはなぜか誰も抜くことができなかった。毎年抜こうとする取り組みが行われているが、現代まで抜けていない。
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