ペンギン王子の冒険譚

千騎・紅蓮竜

第二王子、孵化

ここは南極のどこかにある、ベビーペンギン王国。雛の姿のまま成長するペンギンたちが、人知れず築き上げた文明。国王である「ペン大王」のもと、ペンギンたちは今日も平和に暮らしている。


ピキピキ ピキッ


「皆の者ー!大王様の足元を見よ!」


「卵の殻にヒビが入った!御生誕じゃー!」


パキパキ バキバキバキバキ バキッ


「ピ?」


ここにペンギン王国第二王子、孵化。


「産まれた…産まれたぞ…!チビ、よかったな…お前が楽しみにしていた弟だ!」


「無事に産まれてよかった…!父さんもお疲れ様。僕、立派な兄になれるように頑張る!」


卵を温め続けていた父のペン大王は側近に食事をとるよう勧められ、母は大王と第二王子のために料理を作っていたので兄のチビ王子がしばらく見張っていることになった。


「じゃあ頼んだぞ、チビ」


「任せてよ父さん!弟よ、騒がしくしてごめんな…あれ?」


両翼で抱えていたはずの弟の姿が無い。慌てるチビ王子。それを見て笑う大王の側近。


「殿下、頭の上ですよ」


「え!?」


なんとよじ登っていたのだ。感心しながらも困惑の方が強いチビ王子だった。


  ◇


それから三年が経った。第二王子はプチ王子と名付けられ、今日は魔力判定の儀式が行われる。ベビーペンギン達は魔法を使うことができる。3歳になったペンギン達は自身の魔力の量や適性を判定してもらい、学ぶ魔法を決めるのだ。


儀式の前にペン大王がプチ王子と話していた。


「王族のペンギンは代々温度操作の魔法の適性が高く、その技術を受け継いできた。上は燃やす、下は凍らすと拡張性が高く扱いやすい。チビも温度操作を選んだ。もちろん兄の背中を追うことを止めるわけではないが、他の魔法の適性が高かったらそっちを選んでもいいんだぞ。適材適所という言葉があってだな…」


「わかった行ってくるねー!」


「おい!…全く、せっかちすぎるぞ…」


魔力判定の方法はこうだ。利き翼で魔石を持ち、もう片方の翼で水晶を持つ。魔石から出た魔力は体の中を通って水晶に向かって流れる。魔石の魔力を芯に体の魔力も水晶に向かう。すると水晶の色が変わるので、その色で適性、濃さで量を判定する。


「判定にきましたー!」


「おお殿下、私は殿下の魔力判定に立ち会えて光栄で…」


「はやくー!」


「わかりました、早速始めるといたしましょう。こちらをどうぞ」


プチ王子が魔石と水晶を握りしめる。


「…色が変わらない?おかしい、他の魔石で試してみましょう」


しかし結果は変わらない。水晶のほうを変えても同じ。判定師は一つの結論に達する。


「魔力絶縁体質…」


体に魔力が流れない体質。すなわち体内に魔力があっても魔法が使えない。


「なにそれかっこいい!それがぼくの適性!?」


「て、適性と言えなくも無いですがしかし…」


「おとーさんに伝えてくるー!」


「殿下ー!」


彼が第一王子であったら大問題だろう。しかし彼は第二王子だ。


「おとーさん!ぼくね、マリョクゼツエンタイシツなんだって!」


「そうか、まあいいじゃないか魔法が使えなくても」


「ぼく、魔法使えないの…?」


彼は、誰よりも自由だ。


「ま、いっか!」

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