第7話 異世界チームネーミング
俺は後ろに振り返り、若い探求者チームを見た。
後衛の少女一人に、前衛の少年二人の三人チーム。
全員生存している。
「た、助かったぜ。ありがとう」
負傷していない少年が頭を下げてきた。
武器が破壊され、負傷した方の少年は、少女の水系統と思しき魔法で自然回復力を強化しているようだった。
この異世界では回復魔法の使い手は貴重だ。
ダンジョン蔓延る異世界という危険な場所にも関わらず、回復薬というのが一般流通していない。
回復薬と言うのはとても貴重な物で、錬金の魔法を使える極少数の魔法使いが生涯に百本作る程度と言われる。
そして、その貴重な回復薬は大体、国が独占して貴族向けとして保管されている。
一般的な回復は、このチームの少女のように水魔法で自然回復力を促進して、細胞を修復させたり免疫力を強化することなのだ。
「俺たちは【風の導き手】。リーダーのジェイムズだ」
【風の導き手】。素晴らしい異世界チームネーミング。
俺は旅先でチームに加わることはあったものの、チームを作ったことがなく、基本的に一人で旅をしていた。
ちなみに今までで加わったチームで最高の名前は【災禍を鎮める者】だ。
彼ら【風の導き手】の胸元や腕を見ると、ブロンズ級を示す証がつけられていた。
「ブロンズ級か」
ミスリル級、ゴールド級、シルバー級、アイアン級、ブロンズ級の順で探求者の位が高くなる。
低級であるほど自分の級を明かしておくという慣習が、この異世界のダンジョン探求者達の間にはあるのだ。
「ああ。昨年、訓練校でカッパー組を卒業して、今年探求者になったばかりだ。さっきのオーガも初めて出くわした。いきなり三体のオーガは終わりを覚悟したぜ」
ブロンズ級のジェイムズは、顔にへばりつく汗をぬぐいながら頭を下げてきた。
「だから助けてくれありがとう。ところで俺たちとは違って相当な腕前とみた」
「そうだな。少なくともシルバー級以上だ」
【風の導き手】のメンバーから感嘆の声が上がる。
シルバー級ともなれば、一度の仕事で数名のチーム全員が一月暮らせるほどの報酬を貰える仕事がある。
探求者たるもの皆、成り上りたいのだ。
「シルバー級……!! 上層で知り合えるなんて凄い。なんてチーム名なんだ。教えてくれ」
「チームは特に組んでいない。俺は外からアトラス連邦に来た探求者だ。探求者たるものダンジョンには目がない故、ただダンジョンを見に来ただけだ」
「そうなのか。外からなのか。それにしても凄まじい身のこなしだった。もしかして、【戦士】か。初めてみるぜ。俺は風魔法を使うんだ」
「おいおい、自分が特別有名でもない限り、見ず知らずの相手に自分の魔法を明かすのは良くない。訓練校で習わなかったか。次からは黙っておけよ」
「ああ、すまない。助けてもらっていたから気にしなかった。今度から気を付けるよ。お礼は今は何もできないけど、もし地上で会ったときは飯を驕るぜ」
魔法は一人につき一つ。
チームでもない相手に自身の魔法を伝えるのはとても悪手なのだ。
とはいえ、彼は前衛を務めていたのだから、前衛で有利な魔法であるということは容易に想像がつく。
せめてもの礼としてオーガの素材は残しておくからと、リーダーのジェイムズが言って【風の導き手】のメンバー達と共に休息スペースを目指して去っていった。
そしてティナとヘレナが俺に追い付いた頃には、ブラック・オーガの素材も、はぎ取り終わっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます