第6話 戦士
三階層目に到着すると、先ほどまでの狭苦しい洞窟とは一転変わって、青空に草原、岩、森が広がっていた。
「あら、外に出ましたの」
「ここは、この階層内に安全地帯があるという印の階層だ」
俺たち探究者は、この安全地帯を休息スペースと勝手に呼んでいる。
「ティアは小規模と中規模ダンジョンしか探索したことがないから経験していないだろうが、大規模ダンジョンには休息スペースという安全地帯が存在するんだ」
「ああ、何と神々しいご慈悲。例え我が身の資源を人類に奪われようとも人々へのお気遣いがご立派ですわ。さすがダンジョン様ですわ」
ティアはきらきらとした目で青空を見上げて、ダンジョンに向かって祈りを捧げている。
やばい女だ。
俺たち一行が三階層の休息スペースに向かって進んでいる途中、突如として魔獣の咆哮と共に、若い男女の叫び声が聞こえた。
「お二人方、こちらです」
その音ですぐに何かに感付いたのか、ヘレナがその叫び声の元に誘導してくれた。
そこには上層には珍しく人間の体格と筋肉量を遥かに凌ぐ、半裸の魔獣の蛮族――オーガ。
それも複数体の黒い肌のオーガが、少年少女の若い探求者チームに襲い掛かっていたのだ。
チーム内の少年の一人は既に武器が破壊されて負傷もしている。
「上層にブラック・オーガ。中層級が出てくるとは、さすがゼニス級。侮れん」
「いえ、おかしいです。アイガ・ダンジョンでもオーガが現れるのは中層。七階以降です。しかも黒となると、もっと深い。これは上層のいる者たちにとって危険です」
魔獣の出る階層は他のダンジョンと変わらないみたいだった。
ヘレナは誰かを探すようにあたりを見回す。
「【番人】は何をしているのでしょう。リュード殿、彼らに助太刀しましょう」
ヘレナの助言によって、助太刀開始。
「了解。あれ程度であれば俺が先に向かって片付ける」
この異世界において、魔法は一人一つ適性のある根源魔法を十歳の成人の儀にて授かるものだ。
ティアであれば、木魔法。
俺であれば、身体強化魔法だ。
「あとで追いついてこいよ、二人とも。――身体強化―――」
魔法を起動するには最低でも【声】、【想像】、【身体動作】、【思想】・【信仰】のいずれかを経由する必要がある。
俺は最も単純で出力が安定している【声】をキーにしている。
何より術名を声に出すというのが異世界に来ている感じがして気持ち良い。
一瞬で体の中に魔法が巡り、俺ほどの練度があれば、通常の身体能力の十数倍という底上げがされる。
能力が底上げされた体で駆け出す。
竜巻が起きた後のような土煙を上げながら凄まじい勢いで、若い探求者チームとブラック・オーガの間に割り込んだ。
腰の鞘に納めていた剣を引き抜き、オーガの腕を受け取ると同時に引き裂き、数度の剣の振り回しでオーガの首や腕を次々と飛ばしていく。
最後のオーガの一体の胸を殴って内臓をえぐり出し、オーガと呼ばれた魔獣を絶命に追い込む。
人を超越したような驚異的な身体能力。
非魔法的な圧倒的暴力。
この異世界では、俺のように体を強化する魔法を持つ者を【戦士】と呼んでいる。
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