ダンジョン国家をぶっ潰せ! ~ダンジョン持って帰れると約束したから、うきうきで異世界転生したら、俺も含めて世界最強のダンジョン国家をぶっ潰そうとする連中ばかりだった~
第13話 「テノン・パル」という組織に物申す淑女
第13話 「テノン・パル」という組織に物申す淑女
イレギュラー魔獣の追加調査のため、ミントとガイアスは四階層以降に向かい、俺はティア達が逃げ延びたであろう休息スペースに向かった。
休息スペースでは、逃げ延びた探究者チームが切り傷を治療している最中だった。
その治療されている中に、ティアの姿があった。
彼女は、両手で剣を掴んだかのような切り傷を負っていた。煌びやかな戦闘服も泥だらけだ。
そして、ティアを治療している水魔法の使い手にも見覚えがある。
【風の導き手】に所属している少女だ。【風の導き手】も生存できていたようだ。
「無事、とは言えなさそうな状況だな」
「はい。こちらに向かう途中、イレギュラー魔獣の一体遭遇しましたが、ティア殿のご健闘により難を逃れました」
ヘレナが答えながら、ティアが討伐したというイレギュラー魔獣を指さす。
「ラビットのイレギュラー。元は無害に近しいところだが、ティアの様子を見るに、準一等級といったところか」
休息スペース内で一際目立つ、断頭された、大きな一角を生やした巨大なラビットのイレギュラー魔獣の頭部が置かれている。
ラビット系の魔獣は逃げ惑う相手を追いかける習性があるため、逃げるのには苦労しただろう。
治療を受けている最中にも関わらず、ティアが鼻を高くして、宣う。
「ふふ、私も中々にやりましてよ。これもそれもダンジョン様のご加護。貴方が思うほど私は足手まといではございませんわ」
「そうらしいな。評価を改めようじゃないか」
ダンジョンの空の頂点に、仮想の太陽が上がる頃には、四階層以降にイレギュラーが発生している形跡はなく、今回のイレギュラー群生騒動は終結した。
無事、地上へと戻ることができた。
◇◇
イレギュラーラビットの頭部を手土産に地上に戻り、協会内でダンジョン内で獲得した全ての素材を換金した後、協会近場の酒屋で『祝生還会』を開くことになった。
縁が出来てしまった【風の導き手】も誘ってみたが、彼のチーム三人のうち一人の少年が犠牲になっていた為、ジェイムズと少女の二人チームとなっていた。
今日は傷心を癒すべく宿に戻ると言って、立ち去っていった。
酒場。
今朝方のイレギュラー騒動のためか、夜になっても人気は少なく活気がない中、イレギュラー地帯から生還した事に俺たちは、蒸留酒をソーダで割った酒で乾杯した。
一気飲みしたティアが怒りを表すように酒が注がれたカップの底をテーブルに叩き下ろす。
「この度の異常事態。【テノン・パル】だが、【パルン・テノ】だか知りませんが、ダンジョン様のお怒りに触れたようですわね」
ティアは令嬢らしからぬ態度で熱く語る。
「私がダンジョン様をご管理するのであれば、万の人員を投じて、毎日供物を捧げて、毎日掃除して、御祈りを捧げますわ」
万の人員って。費用対効果どうなっているんだ、それは。
ダンジョンをただ堕落させているだけではないか。
「ティア、口を慎め。その【テノン・パル】に所属している人間が目の前にいるぞ」
「いいえ、ここははっきりと申し上げるべきです。貴方達は、ダンジョン様をないがしろにしておりますわ」
ティアに指さされたヘレナは、蒸留酒をソーダで割った酒をぐびぐびと飲み干し、お代わりを注文してから、顔色一つ変えずに答える。
「この度の事態、我々は百周年記念祭の妨害ではないかと考えています」
妥当な線だ。ダンジョンの怒りよりか理解できる。
「先に言っておきますが、今回の件、イース帝国は関わっておりませんわ」
「我々もイース帝国からの妨害ではないことは確認しています。そもそも、イース帝国にダンジョン暴走を人為的に発生できるほどの技術がないことは判明しています」
技術がないと断言されるとは、悲しい。
ティアも祖国を貶されて、少し、しょぼんと肩を落としている。
「詳細は伏せますが、【カラス】は既に動いています。以前より監視していた敵対勢力への捜索も強めています。しかし、我々の中にもティア殿のようにダンジョンの動向を気にしている者達がいるのも事実です」
「と言うと。何を気にしているんだ、その者達と言うのは」
「ご存じかもしれませんが、十年前にこの首都で起きたダンジョン暴走、【緑の日の悲劇】。ダンジョン外壁の防衛壁を越えて、市街地にも被害が出たダンジョン暴走です。【テノン・パル】の被害も甚大で、当時のアトラスの【番人】の師団長および、他の師団の部隊も一部が全滅しております。ガイアス様が上層まで顔を出していた災害級魔獣を討伐して、ダンジョン暴走が収束したとの事です。そして、その時期にも今回と同じようにダンジョン内でイレギュラーが多発した時期があったとの事です」
十年前。俺はイース帝国で身体強化魔法の練度を上げるべく、のほほんと、この異世界の親元の畑でスローライフを送っていた時期だ。
何も知らない。
「ヘレナ殿は当時からアトラス連邦の【テノン・パル】に所属を? いや、その若さだから所属していないか」
ヘレナの着込んでいる黒い軍服は年季が入っているようだが、彼女の容姿の若さから十代後半と言った年齢だと推測できた。
「当時の私は、そのダンジョン暴走で両親をなくし、孤児となっていたところを【テノン・パル】のダンジョン管理要員強化プログラムの一環で【テノン・パル】に引き取られ、そこで教育を受けていました。ですから当時のことはあまり覚えておりません。いえ、思い出したくもありません」
ヘレナから重い過去を語られた。
「それは大変な時期だったな」
「はい。大変でした」
ヘレナはお代わりした酒もぐびぐびと飲み干し、またお代わりを頼む。
俺は、水を飲み干し、ダンジョンでは味わえなかった野菜が盛られた肉料理を口に頬張る。
ティアは、そんな俺をじーっと見てくる。
俺は相手の闇には踏み込む気はない。
ヘレナも踏み込んでほしくないと願っているに違いない。
何はともあれ、来週は騒がしくなりそうな事を予感させる。
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