タクシー1

「どちらまで行きましょう?」

「長原町の1丁目まで」

「はい、かしこまりました」


「今日は娘のピアノの発表会があるんですよ」

「それは楽しみですね」

「まあ娘といっても妻とは10年近く前に離婚していてるんですがね」

「そうなんですか」

「娘は私の顔なんて覚えてないだろうなぁ」

「奥様は娘さんに会わせてくれないんですか?」

「そうなんです。

私の事が心底嫌いなようで

直接連絡することができなくて

弁護士を通すことになっているんです」

「それはお辛いですね」

「まあ私が悪いんですけどね

仕事が忙しくてなかなか家に帰れなくて、、、

たまには早く帰ってきて欲しいっていう

妻の訴えにも腹をたてて怒鳴ったりしてしまって、、、

私は妻と娘を苦労させたくないと思って仕事を頑張ったつもりなんですが」

「それは難しい問題ですね、、、あっこの辺りでよろしいでしょうか」

「はい、あそこの信号渡ったところで止めてください」

「1680円になります」

「じゃあこれちょうどで

運転手さん話聞いてくれてありがとうね

俺もなんでこんな話しをしはじめちゃったかわからないんだけども

今の話全部嘘なんだ」

「!」

「娘もいないし結婚もしたことないんだよー

じゃあありがとうねー」

「!!!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る