第2話

 うめえ、うめえ、とレオスは次から次へと気持ちいいほどに料理を口に運ぶ。


 その様子を見てカルタはいかにレオスがご飯を食べていなかったのか悟った。


「あの」


「ん、どうした?」


「本当にレオスさんですよね……」


 カルタは写真で一度、レオスを見たことがあった。

 あの時のレオスは十七歳であり、現在に比べてかなり子供っぽい顔をしていた。

 

「当たりめェだろー。俺がレオスだ」


「うっ、疑ってるわけじゃないです。ただ……信じられなくて……」


「何がだよ」


(なんかこの人、怒ってるよー)


「いやっ、レオスが冒険者をやってるだなんてって……」


 レオスは料理を口に運ぶのをやめ、カルタを見た。


「金がそこを尽きたんだ」


「え?」


「魔王を討伐した時にな、一生働かなくていいほどの報酬をもらったんだ」


 魔王を倒したのだ。

 なんも驚くことはない。

 当たり前のことなのだから。


「は、はあ……」


 ただ、なぜお金がそこを尽きたと言うのだろう。


 彼の言うことが理解できずにいるカルタ。


「なのに気づいたら金が一銭もなくなってた」


 深刻な表情でそう言うレオスに、


「いやいや、なんで!?」


 と、ツッコミを入れるカルタ。


「それがわかればどんだけ楽か……まあ、尽きたもんはしょーがねェだろ。だから、冒険者として金を稼ぐことにしたんだ」


「な、なら──」


 カルタはカバンから一枚のクエスト用紙を取り出した。


「ん?」


「レオスさん、どうですか? 俺と一緒にこのクエストを受けませんか?」


(レオスさんとなら、このクエストをクリアできるかもしれないッ)


 レオスはクエスト用紙を手に取り、見る。


「砂龍バル=サンドラの討伐ねェ」


 目を細めるレオス。


「はい、バル=サンドラの皮は希少で高値で取引されているんです」


「なるほどね」


 レオスはクエスト用紙を自身のカバンにしまった。


「え……」


「んあ、このクエストは受ける。だが、お前とは受けん、一人で受ける」


「なッ、なんでですか!?」


「お前、あんな盗賊なんかに手こずってたじゃねーかよ。そんなやつと誰が危険度5のクエスト受けるかよッ」


 危険度は全てで10ある。

 ただ、6以上はなかなか見ることはなく、基本的には5が一番上とされている。


「たッ確かにそうですけど!? でも、いいじゃないですか、俺とクエストを受けても!!」


「いいや、無理だ」


(砂王バル=サンドラか……久しぶりの危険度5の魔物との戦いだが、まあ、大丈夫だよな……)


「なッなら、ご飯を奢るのやめます」


「はあ!?」


 慌て出すレオス。


 ふん、とやってやったぜ、という雰囲気でドヤり出すカルタに、レオスは舌打ちをする。


(このクソガキが……)


「カルタっつったか。お前、何歳なんだ?」


「十五歳です」


(十五歳でこの魔力……なかなかやるじゃんか)


 レオスは木製ジャッキに入ったビールを飲み干して、


「よしッわかった。一緒に受けてやろうッ」


(よしよし、しゃああああ──ッ!!)


 カルタは心の中でガッツポーズを決めたのち、


「じゃあ、レオスさん、二人で頑張りましょうね」


「お、おう……まあ、なるべくお前の出番はないようにするが」


「それでも取り分は半分ですよ?」


「はいはい、半分にしてやる。んじゃ、明日、クエスト受けに行くぞ」


「は、はいッ!!」


(やった、俺があのレオスさんと一緒にクエストを受けられるんだ……)


 カルタの気持ちは興奮により高まっていた。

 

「あッなあ」


 少し申し訳なさそうにレオスは言う。


「なんですか?」


「今日の宿代くれね?」


 と。


(あれ、俺の知ってるレオスさんってこんなに頼らなかったっけ……。なんだろう。本当にレオスさんなのか!?)

 

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