第10話 簡潔性

 廃墟は砂に埋もれ、その前で酒を酌み交わす詩人を待つのみ。しかし、1人の魔術師と1人の魔属が手を繋ぐと砂は石畳の隙間に落ちていった。そして淀みが現れる。

 崩れた石畳に囲われた淀みが揺れた。巨体が縁から飛び跳ねる。その生き物は鰐として知られていた。淀みは魔力が触れたために現れたものである。その前は一つの砂の吹き溜まりに過ぎなかった。

 石畳は庭の池に水を貯めるための水路の縁を覆うものだ。鰐は今まで廃墟の奥に眠っていたのが這い出してきたのだろう。

 鱗ではなく(通常の鰐とは違い)陸棲の肌をしてい。そして、人を見るその目は感情を示す瞬きをしていた(鰐には瞬膜がある)。

 鰐は杖を待ち、二本の足で立ち上がり、二つの存在の前の通路を塞いだ。

 威嚇として牙を見せ、同時に右手を回すと中空から布を生じさせた。左手は冠を取り出し、両手を合わせて獣の顔にはベールをかけた。布は上衣となり、そこに隠れた首から下は隆起が生じ、女となっている。彼女は一つの言葉もなくただ杖を石畳に置いた。

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