第4話 句読点
彼女はまだ幼さが残るほおに煤をつけて立ち尽くした。
間近で雷が落ちた木の如き硬直した体を揺らして怒り狂った人の群れが美しい表通りを埋めつくすのを見るしかない。また、一歩でも進んだらその流れに飲み込まれてしまうことを理解しながら。
おそるおそる辺りを伺い、小さな声で最初一声をあげる。後ろから豊満な婦人に押されれば今度は腹から声を絞り出し、見知らぬ男に押されれば必死に己が手をあげて皆々に押されるままに引き離された、先ほど自分の兄と判明したばかりの青年の名を呼ぶ。
しかし、答えるものもなく溺れるようにもがきながら小さな頭の中で恐らく彼は群衆の中に己と同じく飲み込まれたのだろう。
彼に私たちは一体どこへ行くのと問いかけたが、その涙声も同じ建物を目指す人々の熱狂にもみくちゃにされ飲み込まれ、熱い人の波の中で気づかぬまま、自らも怒れる波となる、、民衆の果実を奪い尽くした肥えふとり醜い王に退位を促す流れの一つとして存在している。その最中でも心から望むのは目に見える自らの街に兄や父と、そして、できれば既に死んだ母と平和に楽しく暮らすことであった。
その望みから引き離されていくことも破壊されてしまう通りや宮殿や寺院思い出の場所も居た堪れずに、誰かの隣人とも言えず、住人でもない、ただの波となり、ただただ涙しながら叫び続けるのであった。
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