第30話 先にあるモノ

 茨城県にある【ひたちなかダンジョン】上層エリア、“四季彩しきさい花園はなぞの”。名前に四季とある通り、このエリアは春、夏、秋、冬の四区画に分かれている。四季の名が付けられた区画は各季節に相当する気温に変化し、区画ごとに季節の草花に擬態したモンスターが生息しているという、景観の美しさとは裏腹に趣味の悪いエリアである。


「でもまぁ、見てる分には楽しいよね。ただの花畑だし」


「いや、ホントに花見たいなら外にあるから……」


「ハイハイ、見てないで早く始めるよ。ほい、颯太」


 優里と雑談しながらモンスター花畑を眺めてみると、梓がヘッドカメラを渡してきた。個人的に会社のを練習で使うのは嫌だったので、今回は彼女の予備を借りることにしたのだ。渡されたカメラは想像以上に小さくて細長く、耳にかけて装着するためのパーツが付属している。ヘッドカメラと言うと勝手に頭に巻いて装着するタイプをイメージしていたが、こういう形のものもあるんだな。


「むしろ最近は耳かけタイプの方が流行ってるかも。その方が動きの邪魔にならないしカッコいいからね。で、使い方なんだけど……」


 各種諸々の説明を受け、最後にカメラを装着。そのまま撮影のコツを聞く。と言ってもカメラには優秀な手振れ補正機能があるらしく、そこまで気を付けることはないらしい。撮影した映像の確認も専用のアプリを使えばすぐにスマホへ転送してできるそうので、ミスった時の撮り直しも簡単だ。


「あっ、もちろんレンズに泥とか付いたら映像に何も映らなくなっちゃうから、レンズ周りの汚れは適度に気にしておいた方がいいよー」


「わかった、ありがとう。後は実際に撮影しながら確かめてみるよ。白鳥さんと優里も待たしちゃってごめんな。そろそろ行こうか」


 ヘッドカメラについて一通り学んだところで、やっとこさ俺たちは最初の地点から動き出した。





    ***




「およそ三百メートル先、【ツクシマン】が三体ほどいます」


「了解。ありがとマイマイ」


 白鳥さんの報告を受け、俺たちは足を止めて警戒態勢に入る。今回は彼女の相棒である魔法生物マジック・モンスター、白狼の【珂雪かせつ】を先行させて周囲の偵察を担ってくれていた。ちなみに、マイマイとは梓による白鳥さんのあだ名だ。“真衣”から取ったんだなきっと。


「颯太、勘づかれる前にこっちから仕掛けて倒しちゃおう。優里ちゃんとマイマイはサポート、お願いね」


「了解!」


「「わかりました」」


 梓の指示に従い、二人で先行する。先ほども言った通り、このエリアは季節の草花に擬態したモンスターが生息している。これから接敵する【ツクシマン】も名前の通りヒト型のツクシのようなモンスターで、今いる春区画にピッタリな見た目をしているがかなり弱い。強いて言うなら、浴びると若干の痺れを感じさせる胞子を放ってくるぐらいだろうか。優里の魔法で殲滅しても良いが魔力が勿体ないので、近接得意な俺らで倒すのは確かにベストだな。


「いた。行くよ!」


「応!」


 パッと見棒人間なモンスターの背中が近づいたと同時に、すぐさま抜刀。自分で驚くほどのスムーズさでツクシマンを切り裂き、一太刀で二体を葬り去る。ヤバい、めっちゃ絶好調だわ。梅雨に入る前くらいから始めたランニングの効果もあってか、俺は積極的にダンジョンへ入っていた学生時代の感覚を取り戻し始めていた。


「こっちは終わった!そっちは」


「キッチリ倒したよ。それに見て、アレ」


「ん……?」


 彼女が指さす方には、俺たちのお目当てである【メガチキン】たちが、肩を寄せ合うようにして隅っこに固まっていた。


「あー!いるじゃんメガチキン!」


「沢山いらっしゃいますね!でも……」


 ツクシマンが倒されたのを確認した追いかけてきた二人が、同じくメガチキンの群れを見て歓喜の声を上げる。が、白鳥さんの方は怪訝そうな顔をしていた。


「昨年、メガチキンの群れは春にいました。車内で梓さんから聞いた話では、群れは春から冬、冬から春へと区画を順番に移動するのでしたよね。であれば、本来群れはここではなく次の夏にいるはずでは?」


「確かに……一体どういうことなんだろう」


 考えられる可能性は二つある。一つは、単純に群れの移動が終わってなかっただけ。引っ越しの準備、と言っていいがわからないが何らかの理由により、例年より群れの移動が遅れているパターン。普通に考えればこっちだろう。そしてもう一つは、移動先である夏区画に何らかのが発生し、移動ができない。もしくはためらっているパターン。そうであって欲しくはないが、何せ今年の俺はよくダンジョン内のイレギュラーに遭遇している。可能性は低いといえ、絶対にないと断言もできないだろう。俺の考えを伝えると、三人も同意してくれた。


「もう春区画終盤まで来てるし、とりあえず夏区画まで向かってみよう。見に行ってみてヤバそうなら即撤退して即管理局に通報。いいね?」


 四人で方針を確認し、移動を再開する。メガチキンの群れを刺激しないよう遠回りをし、時折出てくるモンスターを片付け(というかほぼ俺一人で斬り伏せていき)ながら、十五分程度で俺たちは区画の最終地点に辿り着いた。


 “四季彩の花園”各区画は巨大な門で区切られており、人やモンスターが近づくと自動で開閉される仕組みになっている。ここをくぐれば、次はお待ちかねの夏区画だ。門に近づく前に、梓がパーティ全員を見渡す。


「みんないるね。水分はしっかり取った?」


「スポドリ飲みました!」


「魔力量は大丈夫?」


「まだまだ余裕でございます」


「武器の不備はない?」


「あと何体でも斬れるな」


 リーダーの問いに、各々が最高の笑顔で返答する。突入準備はバッチリだ。


「よし、なら行こう!!!」


 四人で並んで前に立ち、それに応えるように門が開かれる。さて、夏には何があるのやら。怖いもの見たさな思いも感じつつ、俺たちは堂々と門を通過した。その先にいたのは――――――


「「「「あー……」」」」

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