第29話 両手に花×3

 YOROZUさんとのコラボからしばらく経った十一月。弊社ではSNS用の短いCMを製作することが決まった。CMではダンジョン内の映像を使用したいらしく、探索者免許を持つ俺が撮影係に任命された。そこはプロを雇えよ……とも思ったが、ダンジョン内を撮影できるカメラマンは少ない上にギャラも高いので仕方ないのかも。映像は探索者視点で臨場感のあるものにする、という構想であるため、俺のような素人がヘッドカメラで撮った映像でも問題ないと担当者は判断したそうだ。クオリティを気にしなくていいのはありがたいが、どうせなら良い映像を撮りたい。そう考えた俺は、とある人物にヘッドカメラによる撮影を教わりたいとお願いした。すると……


「いいよ。その代わり、少しでいいから私の手伝いをしてくれないかな?」


「もちろんです!」


 と、一発で快諾してくれたので、俺はその人物と一緒にダンジョンに入ることになった。目的のダンジョンは少し遠方にあるため、俺はその人物の車に乗せてもらい、二人で向かう予定


「あの、何で二人とも付いてきてるの……?」


 助手席から後ろに振り向くと、なぜかジト目なマイカズン優里と、妙にニコニコしている白鳥真衣さんが二人仲良く座っていた。


「別に……暇だったから、私も手伝ってあげようかなって思っただけ」


「ふふっ、わたくしも似たようなものです」


「モテモテだねぇ瀬川君」


「ちょ、からかわないでくださいよ木村さん!」


 ごめんごめんと言いながら笑い続けているのは、俺が今回コーチングをお願いしたダンジョンourtuber、【秋風カエデ】こと木村あずささんだ。彼女は“トレジャーハンター”として知られているように、ダンジョン内の貴重な素材を採取する様子を配信して人気を博している。そして配信とは別に、ヘッドカメラで撮影したダンジョン内の映像を短いショート動画として度々アップしており、そちらも人気コンテンツとなっている。


 俺も動画をいくつか見たが、どの動画も臨場感がありつつ見やすい映像に仕上がっていた。もちろん編集によるものも大きいだろうが、一番は元の動画のクオリティだろう。カエデさんの映像こそ、弊社のCMが目指すべき所では?そう考えた俺は、アキチカの時の縁で彼女にヘッドカメラの指南を頼んだのだ。


「でもさ、ただ撮るだけならそこまで気にする必要ないんじゃない?てか何ならアタシが撮ってああげようか


「いえ、それには及びません。仕事だからってのありますが、どうせなら自分の力でやり遂げたい。そっちの気持ちも強くて」


「なるほどね。りょーかい、そういうことなら瀬川君の気持ちを尊重するよ。あ、後アタシのことは“梓”でいいし、タメ口もモーマンタイだよ。たぶんアタシら同い年でしょ?」


「え、本当ですか!?俺二十五ですけど……」


 俺の問いに、運転席の彼女はサムズアップで応える。マジかよ。俺より断然大人びて見えたから、てっきり年上だと思ってた。いいなぁ、俺も大人の色香ってヤツを纏いたいぜ……こういう思考がガキっぽいんだな。


「わかった。なら俺のことも“颯太”って呼んでくれ」


「オーケー颯太。改めて今日はよろしく!」


 そう言って梓はルームミラー越しにウィンクを送る。クゥ~~~カッコいいなぁオイ!!女性人気が高いというのも頷けるイケメンっぷりだ。しかも大仰な振る舞いが様になっているのがまたニクい。こんなん惚れてまうやろ!


「颯太にぃ~~~?」


「あらあら、すっかり鼻の下が伸びていらっしゃいます」


 またしても後ろから視線を浴びせられる。君たちさっきから俺への当たり強くない?これ以上変なことを口走って睨まれるのもコワいので、到着まで二人の視線から逃れるように体を縮こませて車中を過ごした。




   ***





 都内から車で二時間弱。俺たちは目的地である茨城県のひたち海浜公園、その中にある【ひたちなかダンジョン】に到着した。どうやら来月にこのダンジョンの上層で、セブンナイツに所属するourtuber全員で配信を行うらしい。今日はその下見も兼ねて、わざわざ茨城まで足を運んだというわけだ。


「あの、来月の配信って毎年やってる“忘年会イベント”のことですよね」


「そうそう。ひたちなかダンジョンって、【メガチキン】が沢山いるので有名でしょ?アタシらは毎年七騎士メンバー全員でアイツらを一、二匹倒して、ゲットした卵を使ったすき焼きパーティーを配信するってのが年末の定番!でも、メガチキンの群れって毎年ちょこちょこ移動するからさ。だから事前に群れの様子を確かめておくってのも恒例なんだ。今回は、その手伝いをお願いしようかなって」


 【メガチキン】とは名前の通り、軽自動車くらいの大きさがある鶏みたいなモンスターだ。ダンジョンに生息するモンスターは絶命すると塵となって消え、遺体の代わりに牙や肉といったオブジェクトを遺す。メガチキンの場合は巨大な卵を遺すのだが、それがまた絶品なのだ。セブンナイツの年末イベントは毎年会社の仕事納めと被るし、アーカイブもないので見れていなかったが、アレをすき焼きに使って配信していたのかぁ。絶対美味しいじゃんそれ!それに、梓の言うようにメガチキンはモンスターの中では珍しく群れが移動するので、配信時にグダらないよう事前に場所を確認しておくのも納得だ。


「よかったら今年は颯太も参加しない?ファンの間ではすっかりエプロンニキも七騎士メンバー扱いだし、アタシらも歓迎するよ!今年はたぶん二十七日とかだったと思う」


 梓の言葉に、白鳥さんと優里もウンウンと頷く。もちろん俺も参加したい。けどダメだ。一介のサラリーマンである俺に、仕事納めの日に有休を取る度胸はないッ!


「めちゃくちゃありがたい話だけど、生憎その日は仕事納めなんだ。ごめんな」


「そっか。残念だけど仕方ないね。じゃあその分、今日はしっかりヘッドカメラの使い方、教えてあげるね!」


「ありがとう。俺も年末のイベントが成功するよう、全力で三人を手伝うよ!」


 こうして俺と梓、優里と真衣さんという異色のパーティで、ひたちなかダンジョンに挑むことになった。前のやからしを反省して今回はちゃんと事前に会社へ申請したし、持ってきた装備品も整備済みだ。万全の準備をして、俺たちは内部へ足を踏み入れた。

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