第27話 強さのヒミツ
「うーん、やっぱりあれだなぁ」
「どしたん優里?熱心にスマホ見つめてるけど……って、これちょっと前の琴先輩のニキさんコラボ回のやつじゃん。ホントにニキさんラブだねぇ~」
「ちょ、止めてよ恥ずかしいから!」
「ニキさんラブは否定しないのウケる」
YOROZU先輩とももなな、そしてエプロンニキによるコラボ配信からしばらく経ったある日の昼休み。私が教室でお弁当を食べながら動画を見ていると、購買から帰って来た七奈が意地の悪い笑みを浮かべていた。周りに人がいなかったら鼻つまみの刑にしてる所だよ全く。後、私がエプロンニキこと颯太にぃが好きなのは今更だし。でもそれは恋愛云々とかじゃないから。家族に対する当然の愛情だから!
「てかなーんでそんなアーカイブ見てんの?」
「んー、別に大したことじゃないんだけどね。何て言うか、颯太にぃって妙に戦い慣れた感じしない?」
私の言葉を聞くと、七奈の表情が少し真面目になった。あっ、やっぱり同じ事感じてたんだ。というか、むしろ私と違ってバリバリ戦闘系の探索者である七奈の方がよりわかる部分があるかもしれない。
「優里、これ一緒に見てもいい?」
「いいよ。ちょっと巻き戻してから流すね」
肩を寄せ合い、私のスマホを二人の真ん中辺りに置いて再生する。今映っているのは、琴音さんの補助のため、エプロンニキが【高尾山ダンジョン】内でシダー・オクトパスと戦闘している場面だ。ドローンに内臓されている高性能カメラを使ってようやく捉える程度の、めっっっちゃ早い剣裁き。いくら学生時代によくダンジョンに入っていたとはいえ、ただ探索者として活動していただけでできるようになる技とは思えない。他にも戦っているシーンが映るが、動きに一つも迷いがない。上手く言えないけど、颯太にぃには探索者にありがちな素人っぽさがない感じがするんだ。
動画を見ながらその事を七奈に伝えると、同意するように力強く頷いた。
「わかるよ。ウチの感覚だけど、ニキさんの動きは“プロ”に近い。あぁ、プロって言うとアレだけど、例えば迷宮管理局の人らみたいな。ウチらみたいな独学じゃなくて、ちゃんとした訓練受けたんじゃね?って感じがするよね」
「ちゃんとした訓練……」
今の言葉はすごく腑に落ちた。そう、颯太にぃの動きはきちんとしたベースがあるように感じるんだ。でも、それを一体誰に、もしくはどこで教わったのか。本人に聞くのが一番なんだけど、何だか話を切り出しにくい。でも凄く気になるので、ここ最近は颯太にぃの戦闘シーンがある過去の配信アーカイブを漁っていたのだ。
「なるほどねぇ。それであんなに熱い視線をスマホに送ってたわけか」
「そう言われると何か危ない人みたいじゃん!」
目をクワッ!と開いて画面を見つめている自分を想像し、頭を抱えたくなった。今更だけどめっちゃ恥ずかしいじゃん……クラスメイトの視線から逃げるように机に突っ伏してると、LAINの通知音がなった。慌ててスマホの画面を確認すると、まさかの事務所の先輩である【
“突然の連絡失礼いたします。エプロンニキこと瀬川颯太様のことでお話したいことがあるのですが、本日の放課後お時間をいただくことは可能でしょうか”
「「コワッ……」」
偶然にしてはあまりにもタイミングの良すぎる内容に、二人してドン引きする。真衣先輩はいつもこうだ。まるで未来を見通しているかのように、意味深な言動や振る舞いをしてくる。本人は否定しているけど、絶対千里眼とか未来予知みたいな能力を持っているに違いない。正直この誘いは怖くもあるけど、颯太にぃのことを知りたい私には渡りに船だ。七奈は放課後に補習があると言うので、私だけ白鶴神社に行くことになった。その旨を返信すると、やたらと良い笑顔の鶴がお辞儀をするスタンプが送られてきた。もしかして白鶴神社オリジナルスタンプ……?
***
放課後。約束した時間に白鶴神社の社務所を訪れると、巫女装束を着た真衣先輩が出迎えてくれた。
「ようこそおいでくださいました。もう十一月で外も寒いですし、早く中にお上がりください」
「お邪魔します。あっ、これお土産です」
「ありがとうございます。まぁ、羊羹ですか。父の大好物です!後で家族でいただきますね。いただき物を奥にしまうついでにお茶の用意をして参りますから、優里ちゃんは座ってお休みになっててください」
丁寧にお辞儀をして、真衣先輩が奥へと引っ込んでいく。目に映る細かい所作一つ一つに品を感じるのは何でだろうか。それに年齢関係なく誰でも敬語なのも凄いと思う。でも後輩の身としては逆に緊張するから、もっとくだけた話し方をして欲しいのが本音だ。まぁ、私のことを「ちゃん」付けで呼んでくれるようになったし、これでもかなり改善?された方ではあるんだよね。
そんなことを考えながら大人しく座って待っていると、真衣先輩がお茶とお茶うけを持って来てくれた。一言お礼を言ってそれらをいただきながら、最初は二人でたわいのない雑談をして時間を過ごす。
やがて湯吞の中が半分くらいになった頃。真衣先輩がおもむろに口を開いた。
「優里ちゃん。LAINでお伝えした通り、今回お呼びしたのは瀬川様のことについてです。でも、お話ししようと思った内容はあくまで私の推測にすぎません。加えて、お話ししたことが全くの的外れの可能性もあります。それでも構いませんか?」
珍しい真衣先輩の神妙な面持ちに、こっちまで緊張してくる。とはいえ、ここまできた以上話を聞かないという選択肢はない。「大丈夫です」と言いながら、決意が伝わるように深く頷いた。
「承知いたしました。では単刀直入に言いましょう。瀬川様は【
「へ……?」
予想外すぎる言葉に、私は過去一間抜けな声を出してしまった。
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