第26話 お口直し
確か中学三年生の頃の話ッス。高校受験で志望校に合格したお祝いに、親父が初めて回らない寿司屋に連れて行ってくれました。自分はただ無邪気に美味しい寿司を楽しんでいただけだったッスけど、親父は何かを見定めるように、一貫一貫丁寧に食べていたッス。そんな親父を見る店の大将は、ちょうど今隣で自分を見つめるエプロンニキと同じ表情をしていた……気がするッス。
「自分も人様から評価を求められる立場になったんスねぇ」
「あの、YOROZUさん?今何か言いましたか」
おっと、いけない。配信中だったッス。不安そうにこちら見つめるニキさんに「何でもないッス!」と元気良く返事をして、再び手元のダンダンバーガーにかぶりつく。うーん、美味しい。迷宮糧食ってヤツは保存が第一になる分、薄味になるのが当たり前。のはずなのに、先ほどのダンジョンヌードルもそうッスけど、さねふくの商品はどれもしっかり味が付いてるッス。個人的にはこれだけで花丸百点をあげたいくらい。けれども、先方が求めているのは“先”に繋がる評価ッス。だから感情に流され過ぎず、より良い商品になるような意見も言わないとッスよね。
「ダンダンバーガー、マジでウマいッス!ウマいッスけど、味が濃すぎるかもしれないッス。普段なら何も問題ないッスけど、ダンジョン内でバリバリ動いて疲れている時にこれ食べるのは、ちょいしんどいかも。ももちゃんはどう?」
「えー、ウチはこのくらいの味付けでオーケーだけどなぁ。むしろこれ以上薄くされたら萎える。てかYOROZUさん薄味がいいとか、ウチのパパみたいな事いうね」
「俺まだ胃もたれするような年じゃないよ!?」
《何気にももちゃんのパパいじられてて草》
《失礼だぞ七騎士コンビw》
《疲れてる時に濃い味がしんどいってのは同意》
ももちゃんとの掛け合いで、コメント欄も賑やかになる。てかマジの偶然だったけど、今回の配信にももちゃんを参加させてホントに良かった。いくらさねふくさん側に求められているとは言え、自分がマジレビューするだけじゃ途中でつまんなくなってたかもッスからね。彼女が適度にボケてくれるおかげで、より楽しい配信になってる気がする。せっかくイイ感じに来てるから、このまま最後まで突っ走りたいッス!
「なるほど、味付けに改良の余地ありと。ありがとうございます。では最後にお口直しも兼ねて、この商品を紹介しましょう!」
《いよいよ最後だ!》
《フフフ、ヌードルは四天王の中でも最弱!》
《三天王定期》
《お口直し?》
《デザート系か!?》
今日一番の笑みを浮かべてニキさんが取り出したのは、紫色の棒だった。
「迷宮甘味処シリーズ最新作“迷宮ようかんバー”です!!!」
《羊羹!?》
《しかもバーってw》
《ホンットにバー好きだなさねふくぅ!》
《琴ちゃんの時もチョコバーだったしなw》
《迷宮甘味処シリーズってなんぞ》
おぉ、これまた意外なものを出してきたッスねぇ。迷宮糧食でデザート系はそれこそチョコ系くらいしか見たことないから、羊羹は予想外の品だ。しかも普通のと栗羊羹の二種類ある。
「甘いモノでシメるのは最高ッスね!でも羊羹って、保存って面では一番難しそうッスよね?その辺りは大丈夫なんスか?」
「問題ありません!弊社のノウハウと技術、そして他社様と共同開発した特殊なパッケージを駆使して、温度変化の激しい迷宮内でも美味しさと鮮度を保った羊羹に仕上げました!その効果を実証するために、お二人に渡すようかんバーは事前に内部温度が五十度の容器に三十分ほど入れてから持ってきています。その事を踏まえた上で、召し上がってみてください」
「えぇ~、コワいなソレ。まぁいいや。じゃ、ウチは栗羊羹で~」
「ちょ、ももちゃん!?俺も栗の方食べたかったのに……」
これだからJKというのは恐ろしいッス。泣く泣くノーマルのようかんバーを手に取り、記載された矢印に従って包装を剥がす。すると、触れなくてもわかるほどプルンとしたようかんバーの頭部が顔を出した。
《めっちゃプルプルしとるw》
《こんにゃくみたいだ》
《ももちゃんバーを振るんじゃないw》
「凄い!ちゃんと保存できてるッスね!さてさて、お味のほどはいかがかな」
まずは一口。瞬間、小豆の香りが口いっぱいに広がった。そして見た目以上に弾力があり、それでいて口溶けはなめらか。その感触を楽しみながら噛む度に、羊羹特有の優しい甘みに包み込まれていく。感想は一つしかなかった。
「美味しい!美味しいッスよニキさん!!絶対ヒットするッスよコレ!!!」
「MVP!MVP!MVP!」
《ヨロのテンション爆上がりで草》
《コイツが褒めるってことは、相当美味しいんだろうな》
《食べてみたい~》
《ももちゃん語彙力失ってて草》
《何のMVPだよwww》
「ありがとうございます!さっき間違えて最新作って言っちゃったんですけど、実は迷宮甘味処シリーズって、このようかんバーが第一弾なんですよね。でも、これだけ褒めてもらえるなら行けそうですね!」
「「え……」」
とまぁ中々インパクトのある情報も飛び出したッスけど、その衝撃も薄れるくらい、迷宮ようかんバーの甘さに自分とももちゃんはしばらく酔いしれてたッス。あまりの美味しさに無言になってしまった時間があって、視聴者さんから「配信事故じゃねぇか!」とツッコまれたのは内緒ッスよ!
***
「それじゃあ最後に、今回の三本勝負の総括をしていくッス!まずはももちゃん、今日は突然の参加だったけど、どうだった?」
「マジでサイコーだったよ!美味しいモノも沢山食べれたし、ヨロ先輩やニキさんともお喋りできたからね。偶然だったけど、今回の配信に参加できてよかった!二人ともアリガト~。ニキさん、今度はウチと二人でコラボしてね♡」
「え!?まぁ、機会があればぜひお願いします……」
《最後にぶっこむなwww》
《マジでいきなりだったけどありがとうももちゃん!》
《ちょっとニキとの距離近くない?〈Ayu〉》
《Ayuちゃんwww》
《エプロンニキガチ勢で草生える》
最後まで自由に、それでいてわかっているムーブをし続けてくれたももななちゃんには感謝しかないッス。ニキさんを巡るAyuちゃんとのプロレスも、今回の配信が盛り上がった要因ッスからね。ホント、後輩ちゃんズには頭が上がらないなぁ。って、反省してる場合じゃないッスね。自分の配信なんスから、最後にキチンと総評しないと。
「YOROZUさんはいかがでした?実食を終えた上で、今日紹介した三つの商品の総評などをいただければ嬉しいです」
「そうッスね。三つの商品食べてて思ったんスけど、さねふくの商品は探索者ファーストすぎる面があると思ったッス。もちろん消費者のことを考えるのは大事ッスけど、それだけだとメーカーの個性が見えてこないと言いますか。“探索者への配慮”以外にもう一つ“さねふくの良さはコレだ!”と感じられる点があると、より消費者にアピールしていけると思うッス!」
《おお~》
《ええこと言うやん》
《[¥500]流石アイテムマスター!》
《確かに会社独自の強みってのは欲しいかも》
《何か特徴あった方が買う側も覚えやすいしな》
「ありがとうございます。消費者にアピールできるような会社独自の“強み”。これから見つけていけるように頑張って参ります!」
よかった。エプロンニキやカメラの横にいるさねふく商品開発部の方、視聴者さんたちも、自分も言葉にある程度納得してくれたみたいッス。普段好き勝手にやってるレビューと違って、案件配信はマジで緊張するんスよねぇ~。これは何度やっても慣れる気がしないッス。
「さて、同接数も二万五千まで回った所で、今回の配信も終了といたしましょう!ニキさん、ももちゃん。今日はありがとうございました。最後にいつも挨拶をお願いしたいッス。せーの」
「「「おつヨロ~~~」」」
《おつヨロ~》
《おつ~》
《お疲れ様でした》
《楽しかったぜい!》
《[¥2000]ももなな出演料》
《出演料は草》
《ギャラやっすw》
《[¥3000]三人ともありがとうございました!》
何とか無事に配信は終了。アーカイブの概要欄にさねふくのネットショップのリンクを貼っていたおかげもあってか、今回紹介した商品は三つとも売上が伸びたらしく、後日改めてさねふく様からお礼をいただきました。自分の活動が誰かの役に立てたなら、これほど嬉しいことはないッスね!
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