第25話 実食ッ!

「「いただきます」」


 VSさねふく三本勝負、一戦目のダンジョンヌードルをさっそくYOROZUとももななが食べ始めた。今回はドローンではなく事務所のスタッフさんが撮影しており、カメラを近づけてくれるおかげで配信画面いっぱいに二人が麺をすする姿が映し出されている。


《ウマそうに食べるな~w》

《ももななちゃんのアップ助かるハァハァ》

《おまわりさんこいつです》

《ラーメンASMR》

《お味のほどは?》


「いやぁ、想像してたより美味しいッスね!おみその味もしっかりしてますし、コーンとかの具材もそこそこ入ってるッス。何より驚いたのは麺に喉ごしがあること!これは食べ応えあるッスよ~」


 予想以上のベタ褒めに、カメラマンの横で配信を見守る弊社の商品開発担当者が小さくガッツポーズをする。特に麵の喉ごしは商品開発が力を入れていた部分と言っていたので、キッチリ言及してもらえたのは嬉しいだろう。アラフォー男性の口元が緩んでいるのを見て、こっちも釣られてニヤけてしまった。絵面ヤバいなこれ。


「でも携帯性を重視した分、量がちょっと少なく感じるッスねぇ。バリバリ体動かす探索者にはもの足りないかも。ももちゃんはどうッスか?」


「ウチ的にはこれで十分だけどな~。てかニキさん、このラーメンホントに美味しいね。なんていうか、インスタントなのにすっごくラーメンラーメンしてる~」


《ラーメンラーメンしてるwww》

《語彙力ゼロで草》

《量が少ないのはネックかもなぁ》


 YOROZUさんの指摘するように、内容量が少ないのは弊社でも懸念していた点だ。ただ、現時点の持ち運びしやすい迷宮糧食としての利点を維持しつつ、内容量を増やすのは今の技術では難しいのである。すぐにどうこうできる問題でもないので、悔しいがこの点はこれからの課題として取り組んでいくとだけ、配信では言及しておいた。後、ももななさんは褒めてくれたって事でいいんだよな?


「なるほど。まだ改良の余地アリってことッスね!わかりました。もうちょいレビューしてもいいんスけど、どうせ全体の振り返りは最後にやるんで、ちゃちゃっと次の勝負にいきましょう!」


「承知いたしました。では、弊社が送り出す次の商品はこちらです!」


 俺はカバンの中から、三本勝負の中堅ポジにあたる商品を取り出した。


《小っっっさ》

《なんやコレ》

《まさかのあめ玉?w》

《[¥3000]ヨロちゃん、ももちゃん、あめちゃんあげよか~》

《[¥1500]あめちゃんあげるでぇ》

《大阪のおばちゃん沸いてて草》

《しかもペイチャ払ってるw》


 商品が映し出されるとコメント欄が困惑に包まれた。それもそのはず。配信画面には、まさしく個包装のあめ玉サイズのモノが二つほど机の上に置かれているだけだからである。フッフッフッ、良い反応だ。


「えっと、ニキさん。これは……?」


「まさかのホントにあめ玉ー?」


「お二人とも。これはあくまで商品を持ち運びしやすいように小さくした状態にすぎません。先ほどのダンジョンヌードルと同じように、数秒ほど魔力を流してみてください」


 視聴者と同じく頭に疑問符を浮かべてる二人に、状態を戻すよう催促する。俺の言葉に従って二人が商品に魔力を流すと、あっという間に直径十センチ程度の大きさまで膨らんだ。


《でっかくなった!》

《迷宮糧食でこの手のは珍しい》

《こっちも王道やな》


「弊社が近年発売した中で一番のヒット作、“ダンダンバーガー”です!」


 基本、迷宮糧食は保存のしやすさを考えて生産する。そのためバリエーションが偏りがちになっていますのが長年の問題であった。そこで、迷宮糧食の可能性を広げるべく、弊社がこれまでノウハウをつぎ込んで開発した意欲作。それがこの“ダンダンバーガー”である!商品名の由来は一つは「ダンジョン」から。もう一つは魔力込めると「だんだん」膨らんでいく商品の特徴をかけており、開発部トップのおじさんが三日間かけて考えた珠玉の名前である。


「特殊な保存方法やパッケージング技術を使用し、ダンジョン内でも劣化しない迷宮糧食としての基準をクリアして生み出されたのが、こちらのハンバーガーです。さらに、魔力を利用することで最初にお見せしたように、あめ玉サイズまで小さくすることも可能となっております!」


「おぉ、これは中々画期的な商品ッスね!迷宮糧食ってどうしても似たようなヤツになりがちッスから、たまにはこうしてジャンクフード的なのを食べれるのはマジで嬉しいッス!」


「ヨロ先輩、体にワルそーな食べ物好きだもんねぇ。いっつもコ〇トコで売ってそうなお菓子みたいなの食べてるし、エナドリも五本くらいカバンにストックしてるのも見たよ~」


「ちょっ、ももちゃん!?それはマジで言わないお約束でしょ!食生活を直せってまたマネさんに怒られるから!!」


《草》

《先輩にも容赦ないももななちゃんw》

《前も怒られたのに、まだ食生活改善してないのか(困惑)》

《コ〇トコのお菓子は草》

《あんな甘ったるいもんよく食べれるな……》

《エナドリ常備してるのヤバすぎィ!》

《そんなんじゃ早めに召されちゃうぞYOROZU》


 どうやらYOROZUさんの食生活は悲惨なことになっているようだ。そんな人にハンバーガー食わせて大丈夫か……?とはいえ仕事である以上、食べてもうう他にはない。焼け石に水だろうが、せめてカロリーが少ない方の味を渡しておこう。


「一応ダンダンバーガーはチーズとテリヤキの二種類あるんですけど、YOROZUさんはテリヤキの方を食べてください。僅かですが、こちらの方がカロリー抑えられるので」


「あっ、その、どうもすんません……」


《エプロンニキに気を遣われててワロタ》

《ガチで気まずそうな顔してるYOROZUに草》

《(´・ω・`)アッ……》

《(´・ω・`)ソノォ……》

《(´・ω・`)スミマセン……〈Ayu〉》

《顔文字再現いらんわ!w》

《三連続やめーやw〉

《Ayuちゃんもよー見とる》


 コメント欄をよく見ると、愛しのマイカズンAyuこと、優里のコメントもあった。マジかよ見てくれているのか!これはより一層頑張らねば。視線をチラリと横にやると、同じく彼女のコメントを見つけたももななさんが、いたずらっぽく笑みを浮かべた。そしてこちらに顔を向けると、いきなり体を近づけてきた。


「!?!?!?」


「いえーい、Ayuちゃん見てるぅ?今ウチは~、ニキさんと一緒にいま~す」


《ファーーーwwwww》

《これは小悪魔系女子》

《NTR展開キタ━━━━━━━━!!》

《悪い子やでぇ》

《よりによってNTR側かよwww》

《盛り上がってまいりましたァ!》

《<◉><◉>ユルサナイ……〈Ayu〉》

《ヒェッ……》

《Ayuちゃんピキピキで草》

《あゆえぷは互いに愛が重いんだよなぁ》

《実はAyu側も面白がってるだろコレw》


 Ayuがコメントしたことに乗じたももななさんのNTR男ムーブにより、コメント欄の流れが一気に加速した。自身や視聴者の好みを理解した上で撮れ高を生み出す、配信者として最高の立ち回りである。しかも当の本人は視聴者が盛り上がったのを確認すると、小声で「ありがとうございました♡」と囁いてそそくさと定位置に戻ってしまった。ももなな……恐ろしい子ッ!こうして一人の小悪魔によって視聴者が阿鼻叫喚(?)となる中、三本勝負は佳境を迎えるのであった。





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