第24話 エプロンVSマスターVS……?
「ヨロヨロ~。セブンナイツ所属、探索者界のアイテムマスターことYOROZUッス!今回はちょー有名なあの方が来てくれました!」
「皆さんこんにちは、エプロンニキです!本日はYOROZUさんの舌も唸らせる、弊社自慢の商品を紹介しに参りました。よろしくお願いします!」
《ヨロヨロ~》
《きちゃ!》
《待ってました》
《よろ~》
《[¥2000]異色のコラボに期待を込めて》
《ご無沙汰やんけエプロンニキィ!!!》
アキチカでの偶然の出会いから約一ヶ月。遂にYOROZUさんとのコラボが実現した。謎の男に襲われた後に名刺を交換し、その翌日にまさかの向こうからコラボを持ちかけられたのである。あまりの行動の速さに面を食らったが、弊社としてもそろそろ知名度だけでなく自社の商品も宣伝したいと考えていたので、渡りに船で承諾。社内で何度も協議を重ね、アイテムマスターにレビューしてもらうのに相応しい商品を厳選してこの日を迎えた。これまで日の目を見ることが無かった
「てな訳で今日はこの二人でお送りする予定だったんスけど……」
「?」
「じゃーん、ももななでーす。事務所で打ち合わせしてたら面白そーな企画やってたんで来ちゃいましたー。ぶい」
《かわいい》
《ももななちゃん!》
《ももちゃキタ━━━━!!》
《これは嬉しいハプニング》
《ダブルピース助かる》
《助かるニキは何が助かったの……?》
《エプロンニキめっちゃ焦ってて草》
はい、初っ端から抜かりました。今回の企画は弊社の商品を実食してレビューを貰うだけなので、ダンジョンではなくセブンナイツ事務所の一室をお借りして配信している。そのため、先ほどまで別室で打ち合わせをしていた【ももなな】さんが飛び入り参加してしまうという事態が発生してしまった。いや、撮れ高的には大歓迎のイベントなんだけどね!?カバンの中を見る限り、彼女に食べさせる分がないかもしれないんよ。もしそうなったら配信の面白さは半減してしまうので、何とか避けたい所。
とりま急いで持参した商品の個数を数えると、何とかももななちゃんの分もあった。ちょっと多めに持ってきて正解だったぜ……
「ということで、ももななちゃんが急遽参加してくれました!って、いきなり来るんじゃないよももちゃん!ニキさんもすんません!コイツ割と自由人でして……」
「いえいえ、気にしないでください。今確認したら丁度お二人分ありましたんで、企画に支障は無さそうです。それに、評価してくれる方が多いのに越したことはありませんから」
「イエーイ、さねふくのご飯食べれるの楽しみ~。ありがとニキさん。太っ腹~」
《ももちゃん気楽すぎて草》
《お前のせいやぞw》
《基本後輩ムーブ多めなヨロがちゃんと先輩しとる》
ももななさんがのほほんとしている横で、YOROZUさんが何度も謝ってくれる。そんな彼を宥めつつ、若いのにきちんと先輩やってる彼に対し「偉いなぁ」という視聴者さんと同じ感想を抱いていた。でも、ため息つきつつ数字が取れそうなプチハプニングを嬉しそうにしている辺り、君も大概だからね?
ちなみに、迷宮配信者【ももなな】とは初対面であるが、中の人?である百原七奈ちゃんは優里の友達なので、当然知り合いである。何度か家にも遊びに来てくれたので、夕食を共にする機会もあった。こういうの言ったらSNSとかで燃やされそうだから黙っとこ。後、配信中はさん付けしとこ。
「はぁ、まぁいいや。ともかく今回はこの三人でお送りします!もちろん今回の配信はさねふく様からの案件配信ッス。企画内容はニキさんが言ってくれた通り、数あるさねふくの商品から厳選されたものを、自分たちが実食して評価するッスよ。自分正直ッスから、手加減無しでいきます。覚悟はいいッスか?」
「もちろん!むしろドンと来いって感じですよ!」
「オッケーッス!なら早速いきましょう。“アイテムマスターVSさねふく三本勝負”、まずは一品目をどうぞ!」
パバン!というバラエティー番組とかでお馴染みの効果音に合わせて、俺は一つ目の商品を取り出した。
「弊社の人気商品“ダンジョンヌードル”です!」
《おおー?》
《カップラーメンだ!》
《意外と普通、というか定番のもの出してきたな》
さねふくの一番槍を務めるのは“ダンジョンヌードル”。名前の通りカップラーメンを迷宮糧食としてアレンジしたものである。しょうゆ、しお、みそと王道三種を揃えた味が好評なのはもちろん、売上も毎年全ての商品の中で一番を誇っており、名実ともに弊社のナンバーワン迷宮糧食だ。
「最初なんでもっと奇抜なものを出してくるかと思ってたんで、ちょっと意外だったッスね。ありゃ……?」
机の上に並べられたヌードルを手に取り、僅かに目を細めるYOROZUさん。これはもしや、早くもヒミツに気づいたか。
「あの!このダンジョンヌードル、ちょい細めの形してるッスよね?もしかしてこれって、ポーションホルダーに収まるようになってませんか」
大正解だ。“ポーション”というのは、ダンジョン内で採取できる植物を利用して作られる薬品のことである。正確には“迷宮第一種医薬品”という名前なのだが、RPGに登場する同名の回復アイテムを想起させることから、次第にポーションと呼ばれるようになった。この薬品は液体状になっており、患部にぶっかければ大抵の傷は治る万能薬である。そのため探索者には必須のアイテムとなっており、ダンジョン探索時に容器を持ち歩くための“ポーションホルダー”なるアイテムも頻繁に使用されている。
弊社のダンジョンヌードルは探索時にも気軽に持参できるよう、そのホルダーのポケットにピッタリ入るサイズで生産されている。そのちょっとした一工夫が長年愛されている理由の一つではあるのだが、まさか一目見ただけで言い当てられるとは!アイテムマスターの名は伊達じゃないな。
《はえー凄い(小並感)》
《探索者の気持ちを考えたデザインなんだな》
《それを初見で当てるYOROZUもヤベーなw》
「それに、自分のを持ってこなくてもフタに小さいフォークが付いてるのも良い感じ。ダンジョン潜る時はできるだけ身軽にしたいもんね」
「おっ、ホントだ!外国のカップラーメンとかではよく付いてるけど、日本の商品で付いてるのは珍しいかも」
「ありがとうございます。小さなことではありますが、商品そのものがあれば食事ができる、というのもダンジョンヌードルをオススメしたい点ですね!」
俺がパッケージの説明を終えたタイミングで、ももななさんがもう一つのセールスポイントに触れてくれる。何とプレゼンのしやすいことか!高校生とはいえ、やはり彼女も配信のプロ。半分素人の俺が話しやすいよう立ち回ってくれている。
おかげで同接数二万人というプレッシャーのかかる状況でも、安心して商品紹介できていた。
「おっし。それじゃあ外見の感想はこれくらいにして、いよいよ実食といきましょう!ニキさん、やっぱりカップラーメンならお湯は必要ッスか?」
「いえ、お湯は必要ありません!パッケージの真ん中辺りに銀色の点があるので、そこに触れて十秒ほど魔力を流してください」
こちらの指示に従い、二人がヌードルに魔力を流す。ちなみにYOROZUさんはみそ味、ももななさんはしお味を選んだ。
「終わりました!」
「終わったよ~」
「そうしたら、フタのところに緑の四角いマークがあるのわかりますか?ここが赤色になったら完成です!大体三十秒から一分くらいでできると思います」
《早ッ!》
《ちゃんと温まってるのかソレw》
《[¥500]前に同じ商品食べたけど、バッチリ温まってたぞ》
《経験者は語る》
《わざわざペイチャで教えるの草》
《Ayuちゃんの時の豚汁もそうだけど、魔力で調理できるのは良いよね》
今回は魔力で調理したが、この商品はお湯を注いでもオーケーである。その場合は三分ほどかかってしまうのは許してほしい。その点も言及しつつ視聴者さんとワイワイしていると、あっという間にフタの四角マークから色が抜けた。
「完成だ!ではでは、オープン~~~!」
「おーぷん~~~」
きちんと配信画面に赤色になったマークを映した後、二人同時にヌードルのフタを開ける。瞬間、カメラを曇らせてしまうほどの湯気と一緒に、豊かな香りが部屋全体を包み込んだ。
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