第22話 お宝発見
カードショップとコンカフェに支配されたとはいえ、秋葉原にはまだ僅かに電気街だった頃の面影を残す場所が存在する。それが線路の高架下である。パソコンのジャンクパーツやら何やらが売っている個人の店が点在しているが、その一角に地下へと続く階段がある。
戦利品を携えホクホク顔の勇と合流した俺たちは、その階段を下って目的地である秋葉原地下街、通称“アキチカ”に足を踏み入れた。
「「雰囲気ある~~~」」
こんなに揃うことある?というくらい見事なハモリで、勇と日向さんが感想を教えてくれる。その気持ちは大いにわかるけどね。
配管剥き出しの天井に、来客を怪しく照らすネオンの光。多種多様な服装の人々が軒を連ねる商店を賑わし、地下街の薄暗さをかき消すような陽気な空気が満ちている。このアキチカは、探索者向けの武器や防具やアイテムを販売する商人、武具の修理、整備、改造を担う職人などが数多く店を構えている。しかも、店で販売している商品の多くは一般的な探索者向けショップでは出回らないレア物や、曰く付き(違法なものではない)の中古品ばかりだ。そのため、経験豊富なベテランやアイテムマニアといったディープな探索者が、掘り出し物を求めて足繫く通う場所と化していた。感覚としては、古着好きな人が下北沢に行くようなものだろうか。
「ダンジョン帰りって感じの人も沢山いますね!」
「アキバからダンジョンのある上野までは電車だとすぐだからかな。探索終わりに少し足を伸ばして、武器の修理とかを依頼してから帰るって人も多いんだよ」
「なるほど~!」
辺りを見回しながら、目を輝かせている日向さん。どうやらお気に召してくれたみたいだ。
「さっきネットで調べたって言ってたけど、どこか行きたい店とかあるの?」
「いえ、特には。実を言うと、余りにも店が多すぎて迷っちゃったんですよねぇ」
「そっか。なら、俺が個人的に覗きたい店があるんだけど、そこ行ってもいいかな?」
「ぜひぜひ!むしろその方がツウな感じがしてありがたいです!」
ツウっていうほどの店でもないんだけどなぁ。ま、いいか。
「勇。悪いけどちょいと時間くれ。そんなに長くは掛からないから」
「お、おう。別に気にしなくて……いいぞ……」
慣れない雰囲気に戸惑っているのか、少し落ち着かない様子の勇。確かに厳つい見た目の探索者とかもチラホラいたりして、ソワソワしちゃうのは想像がつく。実際話してみると良い人な場合が多いけど、外からじゃわかんないよな。と、思案はそこそこに、とりあえず二人の同意が得られたので、さっそくお目当ての店に顔を出した。
「おーい、店長いるー?」
レジに声をかけると、奥から金髪のモヒカンに黒いタンクトップといった出で立ちの、中々にインパクトのあるオッサンが出てきた。
「オイオイ、誰かと思えばカタナボーイじゃねぇか!久しぶりだなァ!!」
「その呼び方やめろって。久しぶり、店長。ちょっと見させてもらっていい?」
「あったりめぇよ!好きなだけ見てけや。ついでに何か買え。後ろの二人も、ゆっくり見てもらって構わねぇからなァ!」
見た目とは裏腹に朗らかな笑顔で、昔から付き合いのある店長が商品棚を指さす。店の名前は“ミスター・シューズ”。その名の通り、ダンジョンブーツを専門に扱う店である。
ダンジョンブーツとは、ダンジョンの探索、モンスターとの戦闘などを想定して作られた、迷宮探索用の靴である。簡単に説明するなら、超高性能な安全靴。サバゲーを嗜む人なら、コンバットブーツの強化版と思ってもらえればいい。くるぶしをすっぽり覆うハイカットの形状とがっしりとした厚いソールが特徴で、ダンジョン内の過酷な環境にも耐えられるよう頑丈に作られている。
そもそも探索者の装備は、わかりやすく言えばサバゲーをする時の格好に近い。動きやすい服装なのは基本として、プロテクターや手袋、体を守る防弾チョッキのようなベスト等を装着する。だから探索者の見た目は軍隊の兵士のようである。これはこれでミリタリー的なカッコよさはあるが、誰でも似たような印象を与えてしまう。そこで安全性に優れた装備を着用しつつも、好きな外見を構成した魔力の膜を被ることで配信映えを両立させた、
話が逸れたが、つまりは探索者のミリタリーな装備に合わせて、ダンジョンブーツという代物も生まれたということである。もちろん俺も探索メインの頃は履いていた。最近の配信ではその頃愛用していたブーツを使っていたが、それが劣化してきていたので、買い替えを検討しにこの店を訪れたというわけだ。
「凄い!タイタンのUDGーXに、コトミネのFN2000まである!これなんて、米軍が使ってたミウロスの七十年代モデルじゃない!?うわぁ~~~~~初めて見た!」
「よくわからないけど、何かカッコイイな。俺も一足買おうかな……フフフ」
店内に所狭しと並べられたダンジョンブーツの数々に、二人とも目を奪われている。特に日向さんは知識があるのか、ブーツを手に取る度に商品名を読み上げてはしゃいでいた。あんなにテンションが高い後輩の姿は初めて見たな。楽しんでいるなら何よりだけど。さて、俺も掘り出し物を探すとしますか。
「ありゃ。これは……」
ふと、一足のシューズが目に留まった。黒地に剣を口にくわえた狼のロゴがあしらわれており、シンプルだが重厚感のある見た目である。一応俺もそれなりに知識はあるが、自信がないので店長に聞いてみた。
「店長。まさかこのブーツって」
「へっ、相変わらず目ざといヤツだ。お前さんの想像通り、それはロムルスのルーポMC5000だよ。つい最近ウチに流れてきたモンだ」
「マジかよ!」
ロムルスとはイタリアのメーカーであり、ルーポは特に人気の高いシリーズである。しかもMC5000は九十年代後半に探索者の間でブームになったモデルで、今でも愛好家が多く値段も高い。加えて日本はシェアのほとんどを国内とアメリカのメーカーが占めているので、ヨーロッパのメーカーのダンジョンブーツは特に市場に出回りにくいのだ。昨今ならインターネットでも購入はできるが、俺は実物を履いてから買いたい派なのでその選択肢はない。
そんな俺がまさかのレア物との遭遇に、内心テンション爆上がりである。試し履きもさせてもらったが、サイズも履き心地もピッタリだ。これは買いなのでは?思わず声を潜めて店長に話しかける。
(ちなみにお値段は?)
(六万二千)
(高けぇよ中古だろ?せめて五万)
(バカ野郎!今ルーポはどのモデルも全体的に高騰してんだよ。六万が限度だ)
(そうですよ先輩!MC5000なんて日本の店頭じゃ滅多にお目にかかれません。それが六万なんて、かなりオトクですよ!)
いつの間にか参加していた日向さんも交え、商談を続ける。
(日向さんの言う通りではあるんだけども、こっちもお財布がちょいとね。五万五千なら出せる)
(それでも安いわ!まぁでもそうさな。久しぶりに来てくれたことだし、七千で勘弁してやる)
(替え用の靴紐と中敷きも付けて、な)
(ちっ、わーったよ。紐と中敷きも合わせて五万七千な。ったく、余計な知恵ばかり回るようになりやがって……)
店長は渋々頷いた。うぇーい、やったぜ。隣にいる日向さんとハイタッチする。これは中々良い買い物ができたのではないだろうか。料金を支払い、ご機嫌斜めなパツキンから商品を受け取る。おい、レジ袋を持つ手に力を入れるんじゃねぇ!
「良かったですね先輩!ルーポを五万円台で買えるなんて、滅多にありませんよ!」
「だね。日向さんも付き合ってくれてありがとう。勇も、待たせて悪かったな。それじゃあ他の店も回るか――」
「素晴らしいタイミングで訪れましたね、瀬川君」
三人で店を出ようとした時、突然見知らぬ男が俺たちの前に現れた。
有名ダンジョン配信者の従妹に忘れ物を届けたら、なぜか俺まで有名になってしまった件 渡り鳥いつか @yatagarasumaru
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