第20.5話 暗躍
「おう、来たか篠崎」
「お疲れ様です」
規制線として張られているテープをくぐると、先に来ていた先輩に声を掛けられた。ここは【高尾山ダンジョン】の最終地点。先日、生息していないはずのモンスターが、突如として出現する事件が起きた場所だ。迷宮管理局に所属する私、
「これが例の?」
「あぁ」
先輩が見つめる先にあるのは、小さな祠。モンスターの撃退、及び犯人確保に尽力してくれた琴たそ――いけない、仕事中だった。“白鳥”氏によれば、この祠に安置されていた勾玉を犯人が奪ったことで、モンスターが出現したのだという。加えて祠に施されていた魔法障壁が既に壊されていたらしい。現場に出て三、四年ほどしか働いていない私でもわかる。この事件は絶対に厄介な裏があると。
「警察が行った聴取では、祠の障壁を壊したのは撮り探の男ではないのですよね?」
「現時点ではな。だがまぁ、あの撮り探野郎が来た時には障壁は破壊されてたみてぇだし、自ら“ボクにそんな腕前はない”とも断言したそうだ。十中八九、障壁破壊は別のヤツの仕業で間違いないだろう」
「なるほど。ご丁寧に監視カメラも一緒に壊されてたみたいですし、ここは私が視るしかないかー」
「……悪いな」
バツが悪そうに頭を掻く先輩。気にしなくていいと何度も言っているが、それでも気にしてしまうようだ。
「それじゃあ早速始めますね」
眼帯を外し、改めて祠を視界に入れる。瞬間、右側に映る世界が逆再生した映像のように動き出す。私の右目に宿る【
ここで少し、身の上話をさせてほしい。この世界には魔元素を体内に取り込んだことにより、特異な能力を発現する体質【魔特体質】の人間がいる。私もその体質を持つ一人で、能力は右目に発現した。探索者免許を取った高校二年生の頃である。この右目は非常に厄介で、能力のオンオフができない。そのため視界に何かが映る度に、過去の光景が流れ込んでくる。一見便利な能力に思えるが、実際はデメリットの方が目立った。例えば駅のトイレに入ったら、数分前に見知らぬ他人がお花摘みをしていた場面を強制的に見させられる。何てこともザラにあった。
そのため一時期は精神的に病んでいた。けど、通院していた病院の先生が熱心に診てくれたことで、右目を塞げば映像が見えなくなることが判明した。だから私は普段眼帯をして、能力の発動を防いでいるのである。始めは眼帯をするのが恥ずかしかったが、それを着けることで普通の生活を送れるようになり、気づけば羞恥心など何処かへ行ってしまった。それに、上手く使えばこうして捜査で役立つこともある。辛いことも色々あったが、最近は能力のおかげで救われている部分もある。今の私と【流転眼】は良い関係を築けていると思うのは、自惚れだろうか?
「どうだ。何か視えたか?」
「いいえ、まだですね。もう少し待ってください」
先輩の言葉で気を取り直し、再び映像を注視する。現在、二日ほど前まで遡ってみたが、特に怪しい人物は見当たらない。ん?この人影は……
――――ザザッ!!
「!?」
突如、映像に乱れが生じ、壊れたテレビのような灰色の画面とノイズが視界を埋め尽くした。体中を駆け巡る不快感と吐き気に、たまらず右目を手で覆う。
「篠崎!?大丈夫か?」
体を支えようとしてくれた先輩を手で制し、外していた眼帯を着け直す。一度大きく深呼吸をして新鮮な空気を取り込むと、先ほどまでの気持ち悪さは存外早く息を潜めてくれた。
「すみません先輩。祠の方の犯人の顔はわかりませんでした。どうやら犯人は自身に認識阻害の魔法をかけていたようです」
「何……?」
私の報告を聞いた先輩が苦い顔をする。当然だ。発動させる上でイメージが重要な魔法において、抽象的な事象を生み出すものほど難易度は高くなる。ましてや“自身の認識を歪ませる”などというのは、途轍もなく高度な魔法だ。それをこのようなイタズラ程度の犯行を隠蔽するのに容易く使用してしまうのだから、犯人は恐ろしく魔法技能に長けた人物に違いない。どうやら嫌な予感は当たったみたいだ。
「その上、今回も颯太くんの配信絡みか」
以前【青山ダンジョン】内にて起きた、異常成長を遂げたモンスターが出現した事件。世間にはまだ公表されていないが、調査の結果モンスターが歪な成長をしていた原因はスケルトン・ジェネラルに人為的に魔力が注入されていたことによるものだと判明している。そしてこの事件も、発生したのは颯太くんが出演していた配信中に発生している。嫌な偶然だと思いたいけど……
「面倒な事に巻き込まれちゃったのかもね、私たち」
この場にいない友人に、私は小声で愚痴をこぼした。
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