第17話 巫女さんはからかい上手?
「皆様、ごきげんい“かんなぎ”~。セブンナイツ所属、
「皆様、初めまして!ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、エプロンニキと申します。本日はよろしくお願いします!」
《きちゃ》
《いかんなぎ~》
《なぎ~》
《こんにちは!》
《ニキがゲストで来ると聞いて》
《ついに琴ちゃんの配信にもエプロンニキが来たか》
《楽しみ~》
《[¥2000]期待を込めて》
《巫女とエプロン着たリーマンが並んでるのちょっと草》
はい、というわけで結局コラボすることになりました。前回の反省もあってもうちょい難航するかと思ったが、案外早く実現したため内心驚いている。とは言っても、弊社とセブンナイツ間でみっちり検討と打ち合わせはしてるけどね。
それでもスムーズに事を進められたのは、やはり白鳥――いや、“御社”さんが事前に綿密な段取りを組んでいてくれていたことが大きいだろう。企画内容やダンジョン探索のリスクマネジメントはもちろん、「異性間のコラボ」による炎上の懸念まで対策してくれていたのには驚いた。というか手際よすぎてちょっと引いた。あの子、本当に大学生だよな?ともかく、これだけお膳立てしてもらったのだ。こちらもそれ相応の働きで返さないと。気合いを入れつつ、力みすぎずに安全第一で頑張ろう。
「エプロンニキ様、本日は改めてよろしくお願いします」
「よろしくお願いします。あの、打ち合わせの時も気になってたんですけど、呼び方は“様”付けで固定なんですか……?」
「もちろんです。いけませんか?」
「いや、そうじゃないですけど、恥ずかしいというかなんというか……」
「じゃあこのままいきましょう!よろしいですね、エプロンニキさ・ま?」
《ニキさっそく遊ばれてて草》
《いいぞ琴ちゃん》
《ニキには存分にもてあそばれてもらおうw》
《琴ちゃんにからかってもらえるなんて羨ましいぞニキ!》
《からかい上手の琴音さん》
何だかさっそく御社さんに遊ばれているが、視聴者の方が喜んでくれているので良しとしよう。でも様付けはやっぱ恥ずいわ!
「ふふ、このままニキ様の慌てた顔を見ていたいところですが、時間も限られているので企画説明と参りましょう。といっても、
「えーと、確か“観光地化”されたダンジョンでの魔法のかけ直し。でしたっけ」
「その通りです。正確には、“モンスター避けの魔法”になりますね」
《おー、いつものやつだ》
《確か魔法の腕を買われて、管理局から正式に依頼されてるんだっけ》
《マジか!?》
《ウチの琴ちゃんは凄いんだぜ》
《でもそんなんで配信のネタになるのか?》
《おっ、初見か?》
《琴ちゃんの魔法はたまらんぞ》
視聴者のコメントにもあるように、今回の企画は御社さんのお仕事のお手伝い。具体的には、ダンジョン内に施してあるモンスター避けの魔法をかけ直したり、効果の具合を確かめることである。
日本各地にあるダンジョンの中には、内部が広くないため既に調査、モンスターの駆除共に完了している場所もある。そうしたダンジョンは整備された後に観光スポットとして活用され、探索者免許のない人も入れるように開放されていることが多い。とはいえ、観光地化してもダンジョンであることには変わらない。万が一再びモンスターが出現しても一般人に被害が及ばないよう、こうしたダンジョン内部の通路等にはモンスター避けの魔法を施すことが法律で義務付けられている。
御社さんはこのモンスター避けのものや防御用といった、いわゆる“補助魔法”と呼ばれる魔法の達人だ。その腕前は迷宮管理局に認められるほどであり、彼女は定期的に当局の依頼を受け、主に関東圏の観光地化されたダンジョンの魔法整備を担当している。モンスター避けの魔法の効果は約一年ほどで切れてしまうので、定期的にかけ直す必要があるのである。
そして何より、御社さんは使う魔法がとにかく美しい。俺も事前にアーカイブで過去の回を視聴したが、圧巻の一言に尽きる光景だった。配信の企画として成り立つのも納得の素晴らしさなので、初見と思われる視聴者さんは楽しみにしておいてほしい。と、口にはせずに心の中で呟いておいた。
「さて。説明を終えたところで、今回訪れた迷宮をご紹介しましょう。こちらです」
御社さんの声に合わせ、映像がダンジョンを映したものに切り替わる。
「東京都八王子市の名所、高尾山。その麓にあります【高尾山ダンジョン】です!」
《おぉ~》
《雰囲気あるな》
《入口デケー》
《こんな山の中にあるんだ!》
《小学校の頃遠足で行ったわ》
《逆に都内住みなのに一度も行ったことないw》
緑豊かな山中にぽっかりと空いた大穴のような、巨大な洞窟。それが今回の舞台である【高尾山ダンジョン】の姿だ。一見すると何の変哲もない洞窟だが、内部はまた印象がガラリと変わるそう。俺も昔一度来たことがあるくらいなので、正直うろ覚えだ。だから今回は初めて来たのと同じ心境で、楽しみながら挑もうと思う。
「なお、今回は事前の告知通り案件配信となっております。お仕事の後はさねふく様からいただいた商品をニキ様とレポートしたいと思いますので、そちらもどうかお楽しみに」
ごく自然な流れで、御社さんが弊社の案件であることも伝えてくれる。本当に器用な人だ。逆に俺は手先も生き方もちょっと不器用なので、少し羨ましいかも。
「それでは参りましょう。ニキ様。お手伝いのほど、よろしくお願いいたしますね」
「もちろんです!任せてください」
わざとらしくガッツポーズして見せると、御社さんが優しく微笑んでくれた。おかげで場の空気も良い具合に和んだだろう。最後に改めて装備品を点検し、俺たちはゆっくりとダンジョンの内部に足を踏み入れた。
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