第15話 眼帯レディ
「久しぶり、颯太くん。と言っても、つい最近ダンジョンで会ったばっかりだけど」
「理沙!おぉ、久しぶりだなぁ」
贈与式当日。会場について周囲をキョロキョロ見回していると、意外な人物に声をかけられた。
「いや待て。最近ダンジョンで会った?もしかして、この前俺たちを助けてくれたのって……」
「やっと気づいたか。そうだよ、颯太くんたちを救助したのは私たちの部隊。全く、結構大変だったんだからね」
「その節は大変お世話になりました!ありがとうございました!」
体育系部活の後輩の如く、理沙に向かって全力で頭を下げる。救助された時、どうりで聞き覚えのある声だと思ったわけである。学生時代から彼女には何度も助けられたが、まさか社会人になっても世話になるとは。本当に頭が上がらない。
「別にいいよ。それが仕事だし。それどころかあのモンスターを倒してくれたのだから、むしろ
いかにも冷静沈着といった雰囲気の理沙が、目を細めて微笑む。凄まじいギャップ萌えである。うーん。昔から思ってたけど、やっぱコイツめっちゃ美人だな。
「こんにちは、瀬川さん。先にいらしてたんですね」
「こんにちは武石くん。先に着いたといっても、ついさっき来たばかりだけどね。だからそんなに差はないと思うよ」
理沙と話していると、今しがた到着したらしいバルジャンさん――の中の人、
「あ!そちらは先日僕たちを助けてくれた篠崎さん、でしたよね。改めまして、武石昇です。あの時はありがとうございました」
「……」
「篠崎さん?」
あっ、マズい。そう思った瞬間、理沙がとんでもない早さで俺の後ろに隠れた。
「……尊いッ!!!」
あーあ、やっぱりこうなったか。学生時代のことを思い出し、思わずため息をつく。こういう部分は学生時代から変わってないのな。
「あの。俺、何か失礼なことしちゃいましたかね……」
「気にしないでくれ。仕事モードの時はともかく、普段のコイツはただ“推し”に自分の姿をさらしたくないだけだ」
「あー、そういうことでしたか!なるほどなるほど……」
武石くんが困惑するのも無理はない。普段の様子からは想像できないが、理沙は昔から重度の“迷宮配信者オタク”なのである。どれくらいかと言うと、“推しを陰から守りてぇ!”という理由だけで迷宮管理局の採用試験を受けるレベルだ。しかもセブンナイツの箱推し。そして彼女はいわゆる“壁のシミになって推しを見守りたい”って感じのタイプである。
そんな彼女がいきなりセブンナイツのメンバーに直接話しかけられたのだ。思考がオーバーヒートしてしまったのも無理はない。だからって俺の後ろに隠れるなよ!こんなんでよくもまぁ武石くんを救助できたものである。大事な場面で切り替えられるあたり、その辺の自覚はしっかりできているのだと思いたい。
それから式が始まるまでの数分間。隠れるのはやめたものの、理沙はずっと俺の方を向きながら武石くんと会話していた。いやどんな絵面だよこれ。
***
「ってなことがあってさー。ともかく、久しぶりに理沙とも会えたし、式も無事に終わって良かったよ」
「ふーん」
その日の夜。食卓を一緒に囲みながら、俺は贈与式での出来事を優里に話していた。ちなみに、今日の夕食はご飯とみそ汁。それに焼き鮭とちょっとした煮物である。作ったのはもちろん俺。今日は式に合わせて時間休を取っていた分、早く帰れたからな。優里は学校で忙しい分、夕飯くらいは俺が作らないと。
「で、その篠崎さんとはどういう関係なの?」
「だから言ったろ?ただの友達だって。別にそれ以上の関係はないよ。あえて言うなら友人というより親友かな。大学からの付き合いだけど、理沙とはかなりウマが合ったし、一緒に過ごしてて楽しかったからな。よく飲みに行ったり、協力してダンジョンを探索したりはしたよ」
って何そのジト目。優里がこちらを疑いの目で見つめながら、もきゅもきゅと白米を食べている。小動物みたいで可愛い。というか、何でそんなに気にするのだろうか。やっぱり思春期の女の子ともなれば、異性とのアレコレみたいな話題が好きなのかな。難しいお年ごろである。
「……怪しい。颯太にぃ。篠崎さんとの話、もっと聞かせて」
「いやだから、特にそういうエピソードは……」
「い い か ら !」
それから小一時間ほど優里に理沙との関係を問い詰められた。やはり乙女心は難しい。年頃の娘さんを持つ世のお父さんの苦悩を体感しながら、冷めに冷めたみそ汁をのどに流し込む。なぜだろう、いつもよりしょっぱさを感じたような気がした。
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