第11話 骸骨兵士
バルジャンさんとのコラボ配信の舞台となった、東京都港区にある【青山ダンジョン】。迷宮の近くに墓地があることが影響しているのだろうか、このダンジョンの内部は“あの世”を連想させる景観が広がっている。
俺たちがいる中層エリア“戦士たちの亡きヶ原”もそうだ。見渡す限りの荒野には、墓標と思われる大きな石がそこら中に立てられている。そして、それら群がるようにして、今日の討伐対象【スケルトン・ソルジャー】が現れた。
「っしゃあ!いくぜええええええ!!!」
「ちょっ、速っ!」
隣にいたバルジャンさんの背中が、一瞬の内に離れていく。いきなり置いていかれるワケにはいかない。俺も駆けだそうと足を踏み出し―――
(ッ!)
甲高い金属音が辺りに響く。動作を始める僅かな隙を狙って、側面から別の【スケルトン・ソルジャー】が攻撃を仕掛けてきていた。俺は反射的に刀を抜き、骸骨の剣士の凶刃を何とか防ぐ。
《うおおおあぶねぇ》
《よく防いだなエプロンニキ》
《スケルトン・ソルジャーは意外と厄介なんよ》
コメントにもあるように、骸骨の姿をしたモンスター【スケルトン・ソルジャー】は非常に知能が高い。人間のように武器を使うし、今攻撃してきたヤツのように奇襲してくるのは当たり前。加えて……。
「痛っ」
突如飛来した弓矢が右耳を掠める。おそらく視界の先に見えるもう一体から放たれたものだ。このように、複数個体で連携して戦うのがソルジャーたちの特徴だ。しかも、コイツらは頭部(というより頭蓋骨?)を潰さない限り何度でも全身の骨をくっつけて復活するというオマケ付き。ダラダラと戦えばジリ貧になるのは明確だ。
「うっし、効率的に行くか」
元々スコアアタック対決だしな。手早く倒していこう。
「せいっ!」
鍔迫り合いをしていた目の前のヤツを蹴り倒し、体勢をくずしたところを一突き。まずはこれで一体目。
「次ッ」
脚に魔力で強化し、先ほど矢を放ってきた二体目に全速力で接近。矢をつがえる前に頭部を一閃。そして撃破。よし、体も慣れてきた。
「まだまだ!」
当然の如く背中側から襲ってきたヤツを、体を回転させながら真っ二つにぶった切る。ソイツが持っていた剣を先に拝借してから頭部を破壊。奪った剣は視界の右端に見えたヤツに向かって
「――――!?」
おおよそ言葉には聞こえない呻き声を上げ、眉間に刃が突き刺さったまま四体目が灰塵となって崩れ去る。これで攻撃が落ち着いてくれれば嬉しいが、ダンジョンはそれを許さない。
今度は足元の地面が割れ、裂け目から這い出るように二体ものソルジャーが現れた。しかも持っているのは槍。リーチの上ではこちらが不利だ。
「おいおいズルいだろそれ……」
俺はクレームを入れるが
「っぶねぇ」
地面を舐めるように体を低くし、二つの穂先が首を貫く寸前で回避。ついでに片方のソルジャーに足払いをかまし、体勢を崩す。
「そぉれっ!!!」
倒れたソルジャーを背負い投げ、もう片方のヤツに思いっ切りぶち当てた。投げ技をモロに喰らい、重なるように倒れた二体をまとめて串刺しにする。これでプラス二体、合計六体撃破だ。
《エプロンニキ止まらねえwww》
《何で平然と奇襲に対処できるんですか……?》
《ニキTUEEEEEEEEE!!》
《まじで慣れてるヤツの動きだな》
《[¥7000]惚れました》
《これバルジャンと良い勝負じゃね!?》
《あれを見てもそう言えるか?》
個人的にもかなり動けていると思うし、視聴者も盛り上がってくれている。だが、肝心のスコアが俺が六に対してバルジャンさんが十一。ほぼダブルスコア程度の差を付けられてしまっている。
「でもあんなの見せつけられたらなぁ……」
視線の先では、蒼いロングコートをはためかせたバルジャンさんが、踊るように敵を葬り去っていた。
「オラオラオラァ!!!どうした、この程度じゃ俺は止まんねぇぞ!!!」
魔力の炎を拳や脚に纏わせて戦う徒手空拳。これがバルジャンさんの戦闘スタイルである。凄まじい鍛錬によって鍛え上げられた格闘術ももちろん強力だが、何より恐ろしいのはそれに付随する濃密な紅蓮の魔力だ。
彼が正拳突きを放てば炎の柱がソルジャー複数体を同時に貫き、蹴りを繰り出せば半径十メートルが一瞬にして焼け野原と化す。更には単身ソルジャーの群れの中に飛び込み、ブレイクダンスのように体を躍動させる豪快な技まで披露してくる。激しい動きに煽られた炎は荒波となって骸骨たちを吞み込み、怨嗟の声を上げさせる間も与えず葬っていった。
《うおおおおおおおお!!》
《やっぱバルジャンヤバェwwwww》
《炎の魔法も派手で配信映えするし、何より爽快感がパない》
《[¥3000]バルジャン最高!!!》
《[¥10000]モンスター火葬代》
《火葬代は草》
《勝負あったな》
《エプロンニキも凄いけど、流石にバルジャン相手には分が悪かった》
視聴者の言う通りだ。配信上での魅せ方も、探索者としての力量も、あちらの方が一回りも二回りも上だ。このまま勝負を続けても、勝てる確率は万に一つもないのはわかってる。よくわかっているんだ。だけど――――――
「おい、視聴者がもう俺の勝ちだって言ってるぞ。アンタはそれでいいのか?」
白髪の青年が、こちらを焚き付けるように指を動かして煽ってくる。
「んなわけないでしょ!勝負はここからです!!」
探索者として。いや、一人の“漢”として、ここで引き下がるわけにはいかない!
「いいねぇ!やっぱアンタは俺の見込んだ通りだったぜ!!さぁ、残りは五分。最後の一分一秒まで存分に楽しもうや!!!」
《FOOOOOOO!!!》
《いけいけ~~~!》
《負けんなエプロンニキ!》
《勝てよバルジャン!》
《マジでジャ〇プ系漫画みたいになってきたw》
《拙者こういう展開すこすこ侍》
《[¥2500]この勝負アツすぎる》
《トイレ行けねぇwwwww》
視聴者も、バルジャンも、そして俺自身も、ボルテージは最高潮だ。このままいけば、この配信はきっと良いものになる。心のどこかで、俺はそう確信していた。
オオオオオオオオオオオオッ!!!!!
「「ッ!?」」
けれども、迷宮の神は片方に天秤を傾けるとは限らない。極限まで熱を高めた俺たちに冷や水を浴びせるかのように、耳をつんざく轟音が荒野を震わせる。
聴いた者全ての心を凍てつかせる、亡霊の慟哭。それは、命亡き戦士たちを束ねる存在の出現を告げるものであった。
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