第8話 新たな出会い

 初(の正式な)配信出演を果たした土曜日から二日開けた火曜日。俺はとてつもなく爽やかな気持ちで出社することができていた。なぜなら前日にめちゃめちゃ寝たからである!いやぁ、まさか配信出演日は出勤日とみなされ、その分の振り返りとして月曜にお休みをいただけるとは。ウチの会社サイコー!!!完全週休二日制に感謝である。


 そんな感じで「おはようございます」と挨拶すると、広報部の同僚たちも明るく返してくれる。元々いきなり営業部からぶち込まれた俺を気づかってくれる良い人たちばかりであったが、先日の配信で弊社のSwitter公式アカのフォロワーが爆増したことで、より皆が優しくなった気がする。正直、フォロワー爆増に関しては、俺というよりAyuのおかげだとは思うけどね。


「おはようございます先輩!先日の配信、とっても良かったです!」


 自分のデスクに腰かけると、隣に座る日向陽菜ひなたひなさんが挨拶してくれた。ゆるふわショートヘアがチャームポイントの彼女は俺の後輩で、部署内では主にSNS、中でも写真の投稿が主流のEnstagramiの運用を担当している。実際その手腕は見事なもので、彼女が担当してから弊社のアカウントのフォロワー数を一桁から三百にまで増やしている。そんな俺よりよっぽど広報向きの日向さんから良い評価をもらえたのは、素直に嬉しかった。


「おはよう。こないだの配信見てくれてたんだね。自分ではまだまだだと思ってるけど、PRが上手な日向さんに褒めてもらえて嬉しいよ」


「いえいえ!私なんかまだまだですよ。それより見ました?先日の配信日に会社のSwitterアカで投稿したポストのリプ欄。何だか凄いことになってましたよ」


「凄いこと?とりあえずまだ見てないから、今確認してみるよ」


 デスクに置いてあるパソコンを立ち上げ、ブラウザでSwitterを開く。本当は会社のパソコンでこういうのを見るのはダメなんだけど、広報部の業務の一環ということで許してくれ。


「おぉ、これは凄い……」


 先日の配信後に投稿された、Ayuへの感謝と配信内で紹介した豚汁を紹介する弊社のポスト。そのリプライ欄に、とんでもない人物が紛れ込んでいた。


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 バルジャン@登録者80万人突破!感謝だぜ@bj_sevenknights


  おたくの会社のエプロンニキ、ありゃあ相当強いな!

  今度俺と勝負しようぜ!


 #バルジャン対戦相手募集

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 【バルジャン】。現在のSwitterアカウント名にもあるように、ourtubeのチャンネル登録者数八十万人を誇る、セブンナイツ事務所のトップ配信者。いや、それどころか日本有数のダンジョン配信者である。その配信内容は至極単純。ダンジョン内の強力なモンスターの討伐や、同じ探索者同士で手合わせを行うといった、ひたすらにバトルを繰り広げるといったものである。


 配信形態自体はダンジョン配信が流行り始めた当初からあるものだが、バルジャンの場合はレベルが違う。彼は戦うのが非常に“巧い”のである。モンスターを相手取る際の立ち回りも完璧な上、人間相手でも攻撃のタイミングや間合いの管理等が抜群に長けているのである。そのため戦っている姿を見ているだけでも面白い。


 加えて、得意な炎魔法を使ったド派手な戦闘スタイルや、厨二心をくすぐる蒼いロングコートをはためかせるイケメンフェイスな変装用魔法ガワもあり、配信映えも十分。そうした武器を駆使して、ダンジョン配信界隈や所属するセブンナイツ事務所を盛り上げてきた、カリスマ的ダンジョン配信者なのである。


 そんなまさに雲の上のような存在のバルジャンが、まさか俺に興味を示してくれるとは。しかもこの投稿に使われている#バルジャン対戦相手募集というタグは、彼がコラボ相手を探したりする時に使うタグである。


「これ、藤村さんは何て?」


「さっそくセブンナイツに連絡して、コラボを取り付けようとしています」


「マジかよ……」


 こんな大物の相手にもひるまず凸できる藤村さんは、やっぱり肝が据わっている。てか俺の意向とか聞いてくれないのか……なんだかいいように扱われているようで悲しくなる。


 でも、まだ可能性の話とはいえ、あのバルジャンと共演できるかと思うとワクワクする気持ちもある。その思いが表情にまで現れてしまっていたのか、日向さんに「何でいきなり笑ってるんですか!?」と驚かれてしまった。気を付けなければ。


「ダメだ。まずは目の前の仕事に集中しよう」


 俺は軽く自分の両頬を叩き、気を取り直して溜まっていたメールチェックから本日の業務を開始した。

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