第7話 ダンジョングルメ

「アー、ナンダカチョッピリオナカガスイテキタナー」


《いや雑ゥ!!!》

《フリがひどすぎるw》

《逆にやりずらいんじゃないのコレw》


 無事にダイヤモンドタートルのドロップアイテムも回収し終え、配信も中盤を過ぎてきた頃。びっくりするほどの棒読み具合で、Ayuが今回の配信目標の一つである“さねふくの商品の紹介”のために、俺に振ってくれた。それはありがたいんだが、にしても雑だなオイ!

 

 まぁ、こういう茶番も配信を面白くする上で必要なんだろう。つくづく大変な職業だと改めて感じさせられた。


「そうだな。じゃあ小腹を満たすついでに、ここらで少し休憩にしよう。後数分で迷宮内待避所セーフティポイントにも着くはずだ」


「おけ~」


 迷宮内待避所セーフティポイントというのは、迷宮内に数か所設けられている、モンスターが寄り付かない魔法が施された休憩所のことである。魔法が施されてる、と聞くと立派な建物を想像する人もいるかも知れないが、実際は掘っ立て小屋のようなこじんまりとした場所である。各待避所は常に迷宮管理局の職員が常駐して管理・保全され、場所についても同局が公開している地図に全て記載されているため、探索者たちはいつでも利用することが可能になっている。


「や~と着いた~。疲れたねぇ~」


「かれこれ一時間近く歩いたからね」


 待避所に着いた俺たちは、施設内の隅っこの座席に腰を下ろした。


「あっ、待避所内の撮影・配信許可は得ているのでご安心を~」


《さすがビジネスマンニキ。段取りは完璧だね》

《これには杞憂民もニッコリ》

《細かいかもしれないけど、こういうのはあながちバカにできんよなぁ》


 配信を見る視聴者の中には、過度に近所迷惑や権利関係等を気にしてくれる“杞憂民”と呼ばれる人たちがいる。恐らく彼らは配信者のことを心配してくれているのだろうが、時々しつこくコメント等で言及してくることで、配信の雰囲気が悪くなってしまうこともある。だから、こうして事前に言及しておくことで余計なトラブルを防ぐことができる、とAyuのマネさんが教えてくれた。それが功を奏したみたいだ。


「それじゃあエプロンニキ。さっそく御社の商品をいただこうか」


「望むところ!今日持ってきたのはこちらです」


《これは?》

《銀色のパックに入ってるな。レトルトカレーみたい》

《あっ、俺これ食べたことあるかも》


「“手軽においしい迷宮食シリーズ”の人気ナンバーワン商品“豚汁”です!」


「お~~~?」


 目の前にいるAyuがキョトンとした顔をしながら、一応小さく拍手してくれる。その反応をみるに、やっぱ知らないよな。


 ただそれも仕方ないことなのである。弊社の主力商品“迷宮糧食”は一般向けのも販売しているが、メインの購買層は迷宮管理局や消防庁の迷宮救助隊のような官公庁。あるいは民間の迷宮調査会社といった方々である。配信者であることを除けば基本一般人であるAyuがこの商品を知らないのも、当然と言えば当然であった。


「ごめん、これ初めて食べるんだけど、どうやって調理するの?」


「フフッ、驚くなよ。まずこの銀色のパックの赤い点に指で触れるんだ。それからすこーしだけ魔力を流す。すると……」


 魔力を流して数秒後。ボンッという音と同時に、銀色のパックが膨らんだ。


「ほれ、完成だ。開けてみろ。熱いから気をつけてな」


「へ?これで終わり?」


 Ayuは驚いた顔でパックを受け取り、おずおずと開けた。


「うわ、凄い!めっちゃ湯気出てるじゃん!みんなも見てよホラ!」


 ドローンのカメラにパックを近づけ、配信画面にホカホカの豚汁が大きく映し出される。


《おー、めっちゃうまそう!》

《マジで出来たてじゃん》

《迷宮糧食ってこんな簡単にできんのな。しかも早いし》

《これ災害の時とかの非常食にもいいかもね》

《見た目の割に結構量入ってそうなのも良い》


「コメントでも言われてるように、簡単に手早く調理できるのがウチの商品のアピールポイントだね。今は主に官公庁とか向けに販売してるけど、これからはもっと一般向けにも販売していきたいって担当者も言ってたよ」


「後は、それこそお弟子さんが言うように、災害時の非常食としても普及してくれたらありがたいよね!じゃあ説明はこんなところで、実際に食べてみようよ」


「冷めたら勿体ないしな。せーの」


「「いただきます!」」


 二人で手を合わせ、さっそく豚汁を飲んでみる。


「うーん、美味しい!お味噌の味もしっかり効いてるし、具材もゴロゴロしてて食べ応えある!」


《具材が大きめなのは嬉しい》

《普通のレトルトだと汁だけみたいなやつもあるもんなぁ》

《カレーとかだとほぼルーだけとかなw》

《あるあるw》

《[¥500]豚汁代》

《[¥1000]飯テロ代》

《飯テロ代とは》

《Ayuちゃん意外と食レポ上手ね》


「へへーん、そうでしょ~。友達からも「あゆの食べてる姿見てると、少し幸せな気分になれる」って言われるんだ~」


「それはただ美味しいそうに食べてるだけでは……?でも、それだけ嬉しそうな顔を見せてくれるなら、こっちも持ってきて良かったと思えるよ」


 そう言いながらチラりと時計を確認すると、もうすぐ配信終了時間が迫っていた。それとなくAyuに目配せしてすると、「大丈夫だよ」という風にウインクされた。って、あっちの方が配信は慣れてるんだから、時間管理ぐらいちゃんとしてるよな。危うく俺が杞憂民になるところだった。


「このまま豚汁を飲んで温まっていたいところだけど、そろそろ時間だね。いつも通り、今回入手した素材を使ったブローチ作りは次回の配信でやりますので、ぜひぜひチェックしてくださ~い」


《はーい》

《2時間あっという間だった》

《制作パートも楽しみ!》


 Ayuのアクセサリー企画は基本、素材入手のためのダンジョン探索回と、実際にアクセサリーを作る回の二回に分かれている。ペイチャ読みに関しても、二回分合わせてアクセサリー制作回で行うのが通例だ。もちろんお弟子さんたちもそれはわかっているため、コメント欄は次回の配信を楽しみにしている内容であふれていた。


「では、最後に今回の配信に来てくれたエプロンニキから一言!お願いします」


「はい!皆さん、そしてAyuも。今回はありがとうございました!一緒にダンジョンを探索したり、食事をしたりできて凄く楽しかったです。先ほども言った通り、迷宮糧食の普及に向けて弊社一同頑張って参りますので、どうかよろしくお願いします!!改めまして、本日はありがとうございました!」


「こちらこそ、ありがとうございました!尚、今回案件をいただきましたさねふく様は公式Switterもやられてるとのことですので、皆さんそちらも要チェックですよ。それでは、最後はエプロンニキも一緒に~~~」


「「おつあゆ~~~~~」」


《おつあゆ~》

《おつあゆ!》

《ありがとうございました!》

《エプロンニキもまた来てね!》

《身内コラボ第二弾待ってます》

《おつあゆ~~~~~》

《[¥5000]楽しい配信をありがとうございました!おつあゆです》


 こうして無事に、俺にとって初の配信出演が終了した。今回の配信は同時接続数が最大一万二千人、高評価も二千以上ついたということで、成果は上々と言って良いだろう。過去の配信と比べても高い評価を得られて、Ayuも大喜びしていた。


 ちなみに、後日さねふく公式Switterアカウントのフォロワー数も千人以上増え、弊社の広報部もお祭り騒ぎとなった。

 

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