第3話 バズる。そして部署を異動する
Ayuこと我が従妹の優里の配信に入り込んでしまった翌朝。俺はやたらとうるさいスマホの通知音で目が覚めた。
「げぇ……」
画面を開くと、会社の同僚やら中高の同級生と思われるヤツらからの「昨日の配信見たぞw」という旨のメッセージやDMがアホほど届いていた。
加えて、SNSやourtubeを見れば「#エプロンニキ」がトレンド入りしていると共に、昨日の配信の切り抜き動画が拡散されていた。当の事故ったAyuの配信アーカイブに至っては、一日足らずで三十万回再生を超えている。
「これがバズるってことか……」
正直甘く見ていた。自分の存在がネットを通して世界中に拡散されるのが、ここまで恥ずかしいとは!しかもバズった理由が配信を事故らせたというネガティブなものなだけに、余計にいたたまれない。
一応、優里の所属するourtuber事務所【セブンナイツ】には、彼女のマネージャーを通して昨日の内に謝罪させてもらった。マネさん曰く「撮れ高めっちゃあったんで気にしないでください!」とのこと。こちらに気を遣ってのことだろうが、それでもそうした言葉をいただけるだけありがたかった。ちなみに優里にはめちゃんこ怒られた。配信に入り込んだことではなく、主に俺が探索者だったことを隠していたことについてだったが。
「けど、ホッとしてる場合じゃないよなぁ」
そう、こちとら会社勤めのサラリーマンである。そんな一介の社員が勝手に顔出しをして配信でバズったとなれば、会社にも多大なる迷惑をかけていることだろう。もちろんこちらにも昨日の内に上司に電話して謝罪と事情説明はしてあるが、電話越しの上司の声は呆れていた。あぁ、出社したらどんなお小言を受けるのか……ヤバい、想像しただけで胃が痛い。
とは言えバックレるわけにもいかず、自分の分と一緒に優里の分の朝食を作り、書き置きを残してトボトボと家を出た。
***
「お前、申請書出してないよな?」
「あっ……」
出社早々我が営業部長に呼び出された俺は、迷宮に入る際の“事前申請書”を出していないことを指摘された。民間人によるダンジョン探索が一般的なものになってきたとは言え、ダンジョンが危険な場所であることには変わらない。そこで、我が社の規定ではダンジョン探索前に、日時や理由等を伝える申請書を出すことが義務付けられている。のだが、俺はその事をすっかり忘れていた。加えて無断でダンジョンに入ったことが、配信事故でバズったために会社にバレるという最悪のやらかしである。となれば、やる事は一つしかない……!
「申し訳ございませんでしたァ!!!」
地面に突き刺さるかのような勢いで、全力で頭を下げる。やらかした人間が最初に行うのは、真っ先に謝罪をして誠意を見せること。新人研修の時に指導してくれた先輩の格言に従い、俺は部長の前で見事な直角お辞儀を披露した。
「どんな処分でも受ける覚悟です!」
「あ た り ま え だ」
直接見ていなくとも感じ取れるほど、部長から凄まじい怒りのオーラが放たれる。下手したらダンジョンのモンスターより怖いくらいだ。ダメだ、もうお終いだぁ。
「ったく、本来ならこのまま処分を言い渡すところだったんだがな。今回は別だ。瀬川、お前は明日から広報部に“異動”だ」
「異動、ですか……?」
予想外の展開に、思わず下げていた頭を少し上げてしまう。処分ではなく、異動?一体どういうことだってばよ。
「あの、何故に私は広報部に?」
「昨日のお前のアレを見て、広報の人間がぜひお前を引き入れたいと言ってきたんだよ。それで上が相談して、お前に処分を下す代わりに異動させることが決まったんだ。全く、ウチは変にフットワークは軽いよな」
全く同感である。
「ともかく、お前に拒否権はない。大人しく荷物をまとめて、とっとと広報部に行ってこい」
「あ、はい。わかりました。部長、今までお世話になりました!」
「おう。まぁ次のところでも頑張れや。じゃあな」
あるぇ……何か軽くない?これでも入社時からずっといた部署なんですけど。俺ってそんなにどうでもいい存在だったのだろうか。確かに営業成績はいつもノルマちょい上くらいで大したものじゃなかったけども。でも、もう少し寂しそうにしてくれても良くない?
まぁともかく、俺はバズった結果、何故か勤め先で部署を異動することになったのであった。なんでやねん。
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