第1話 ダンジョン配信者

 私の名前は綾瀬優里。高校に通いながら、ダンジョン配信者【Ayu】としてourtuberもしてるんだ。


 あっ、ダンジョンっていうのは、今から七十年くらい前に突然出現した、私たちの文明とは違う技術で造られた巨大施設のことね。ダンジョンってのは海外で付けられた名前だから、日本語では“迷宮”で翻訳されてたかな。

 

 中には地球上にはいない“モンスター”って呼ばれる未知の生き物がいたり、不思議な鉱石とかがいっぱい採れたりするの。そんなむちゃくちゃな場所だから最初は政府が調査してたんだけど、少し前から免許を取った人限定で、一般の人も中を探索できるようになったんだ。


 で、今はそのダンジョン内部で配信を行う“迷宮配信”がすごく流行ってるわけ。何で流行ってるかって聞かれても困るけど、やっぱりダンジョン内は免許を取得したいわゆる“探索者”の人しか入れない分、普通の人には今でも珍しい。そんな身近にあるのに中々行けないファンタジー空間の内部を気軽に見れるからこそ、迷宮配信はブームになったんだと個人的に考えてる。かくいう私も、先輩の迷宮配信者の動画に影響されて始めたし。


「あっ、そろそろ時間かな」


 配信を始める前に、今一度周りをぐるりと見渡す。私がいるのは東京にある【上野ダンジョン】の上層エリア、通称“きらめきの森”。簡単に言うと、十階建てのビルと同じくらいの高さの木がうじゃうじゃ生えてるエリア。ダンジョンは大抵の場合上層、中層、下層に分かれてて、下に行くほど危険度が上がっていく。だから私のいるここは比較的安全なエリアなんだけど、それでも何が起きるかわからないからね。周囲に気を配るのは探索者として当然のことなのです。


 ピピッ……ピピッ……


 周囲を見終えると同時に、撮影用の自動追尾ドローンのアラームがなった。配信開始時刻のお知らせである。最後にパパっと髪と声、それと配信中に使う変装用魔法ガワをチェックして、撮影開始ボタンをONにした。


「あー、ゆー、レディ?皆さん、こんにちは!ようこそ、Ayuのアトリエへ~」


《イエス、レディ!!!》

《きちゃ!》

《こんにちは!》

《待ってたぜい》

《[¥500]今日も頑張ってください》


 配信を始めると、さっそくリスナーの人たちがコメントを送ってくれる。ちなみに私のリスナーのことは“お弟子さん”と呼ばれている。私がアトリエの親方マスターで、リスナーが弟子といった感じ。


 ま、それは置いといて。ふむふむ、今日の同接数は五千人くらいかな。休みの日にも関わらずこれだけの人数が視聴してくれているのは、やっぱり嬉しい。よし、今日も頑張ろう!


「開始早々たくさんのコメントありがとうございます!ペイチャの方も、本当にありがとう!後でまとめて読ませていただきますね」


 お金を払ってくれているペイチャも含め、ホントはゆっくりコメントをしたいところなんだけど、ダンジョンは一回に探索できる時間が決まってるからね。とりあえず今は、サクサク進ませていただきます。


「とりあえず今日の探索場所を紹介します。今私がいるのは【上野ダンジョン】の上層エリア“きらめきの森”です!今日はここで【クリスタルビートル】をゲットしたいと思います!」


《おお、クリスタルビートルか~》

《キラキラしててかっこいいよね》

《どんなモンスターなの?》


「えっとね、わかりやすく言うと“おっきいオウゴンオニクワガタ”みたいな感じかな。アレをもっとピカピカにして、宝石感をマシマシにしたやつ!」


《宝石感マシマシは草》

《ラーメン屋のトッピングかよwwwww》

《あー、なるほど。イメージできたかも》

《確かにアレはそんな感じだな》


 リスナーさんの中には探索者の人もいるのか、私のヘタクソな説明でも何となくは伝わったみたいだ。


 私の配信は主にダンジョンで素材を採取して、それを元にアクセサリーとかを作るという内容だ。そのため宝石のような体をしたクリスタルビートルは、まさにピッタリのモンスターなのである。幸いダンジョン内のモンスターは絶命すると何故か一瞬で消え、死体の代わりにオブジェクトを残してくれるので、グロ耐性の低い私でも安心して素材を採取することができる。


「まぁでも、実際見た方がわかりやすいよね。それじゃあさっそく―――」


 出発!と言おうとしたところで、遠くから何かの声が聴こえた。始めはモンスターの鳴き声かとも思ったけど、どうやら人の声みたい。誰かを探しているのかな?リスナーさんたちにもその声が聴こえたのか、コメント欄がにわかに騒ぎ始める。


《なんだ?この声》

《他の探索者さんかな》

《一緒に来た人とはぐれたとか》


(だといいんだけどなぁ)


 普通に考えれば、はぐれた仲間を探す探索者の声だと思う。でも、さっきも言った通りダンジョン内ではわからないから。念のため懐の護身用ナイフに手を伸ばしつつ、謎の声に耳を澄ます。


「お~~~い、あゆぅ~~~~~」


 あれ?これもしかして、私を呼んでる!?


 慌てて声のした方を見て、私は自分の目を一瞬疑ってしまった。


「颯太にぃ!?なんでここにいるの!?」


 何とそこには、今朝まで家にいたはずの私の従兄いとこが、エプロンをつけたまま大きな樹の下で突っ立っていた。


 

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