笑えればいいな

 小さい頃から、「仮面」を作ってきた。

 何とかして本心を隠して、同調してみんなと同じを装う。


 私はそれがばれたことがなくて、家で仮面は取れてしまうけど、外でちゃんとうまくやっている。


 その経験が、家でうまくいかされたことは無いけど……。でも、私はちょうどいい「距離感」を作れている。


 親しくなり過ぎず、嫌われ過ぎず。ペアを作るとき、あまりが出たらそのあまりの子と組める。

 でも、あまりが出なかったら一人。それぐらいがちょうどいい。友達って、そんなふうだと思ってる。


 これまで幾度となく、人生で笑ってきた。


「やばい、あの教科の教科書忘れた」


 その一言で、周りの人が笑えば笑うし、慰めていたらそれに近しいことをする。合わせていく。そして、それで失敗したことはないんだ。


 色々あった。

 誰かの悪口に対して共感するように言われて、あはは、と笑いながら言葉を入れ替えてその場をしのいだ。


 険悪な雰囲気を作らずうまくできるように、たくさん考えて、そのたびにデータを集めた。もう今度は失敗しないんだ。


 失敗しない。特に大きな出来事も全くない。ずっと笑っていられる。それだけの人生。怒鳴られることはあっても、外でブツブツつぶやいたらダメ。病んでるアピールだと言われて話しかけてくれなくなる。


 言葉選びを一生続ける。


 間違いをなくすために、人の反応をよく見る。考えてから反応する。

 絶対、これが鉄則。


「……あはは」


 笑い声が自然と口から漏れた。

 別に、人に相談するほどヤバいわけでもない。誰でも抱える普通のこと。わがまま言っても、だめなんだ。


 わがままは、最後まで言わないことにする。

 するり、と体が反転する。風が気持ちいい。風圧で自然と口角が上がった。無理やり笑っているようで、おかしいな。


 意識が飛ぶ。


 次の人生は、きっと笑えるはずなんだから。

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