家と看板

 先生に言われるまま保管室を飛び出した俺は…

 学校で他の誰とも出会うことなく、そして何事もないまま自宅の前までたどり着いていた。


 他の家から漏れ出る薄い光で、なんとか周りを見渡せるくらいの薄暗い周囲…

 そんな中、いつものように俺は鍵を開けて自宅の扉を開く。

 

 開けた瞬間、部屋の最初の数歩分だけが、か細い光によって照らされる。

 俺はその光を頼りに部屋へと入り、そして手探りで光の魔道具がある辺りを探る。

 そしてすぐにそれは見つかり、押すことで薄くて汚い光が部屋を照らした。

 

 照らされた先にあるのは、何も置いてない通路…

 そして、ベッド以外の何も置いてない部屋だった。


 俺はそんな部屋で…

 食事、寝支度を行い…

 そしてベッドへと横になった。


 俺は両親の顔も知らず…

 知っている家族はじいちゃん、ただ一人だけ。

 ただそんなじいちゃんも、俺が5歳の時に亡くなり…

 俺はそのまま山の小屋で住んでいたが、11歳になった今年、その小屋からこの街へと引っ越してきた。

 じいちゃんから聞いた、学校というものに期待して…


 そして引っ越してきたと言っても、この街のことは右も左も分からない。

 だけどお金だけはじいちゃんが残してくれてて…

 俺はそのお金とこの家の優しい大家さんに助けられて、今この家に一人で生活している。


 最初の頃は、寂しい気持ちが強かった。

 家の外に出れば、よく行くお店の人や学校への通り道で毎日会う人、そんな何人かの人とはおしゃべりできる。


 でも帰ってきたら一人…

 家には誰もいなくて、結局は一人ただ寂しく過すだけ…


 ただそんな生活も半年以上もあれば慣れてしまい…

 家では寂しいという感情は沈んだままで、ただぼけーとするだけ…


 ただ今日みたいに珍しいことがあった日なんかは、無性に誰かと話したくなる。

 

 イジメについてはここ数ヶ月前から…

 悲しい気持ちもあって、それを誰かに吐き出したくなる。

 でも先生以外の誰にも打ち明けることができず、ただ辛さが消えていくのを…

 辛さに慣れるのを待つだけ…


 ただ今日話したいのは、そんな暗い話なんかじゃなく…

 魔法、やっぱり魔法だ。


 魔導書を開いた瞬間に、本からあふれ出した文字…

 それが、俺の視界いっぱいに飛び回って…

 そして、俺の左手の紋章に入っていく。


 神秘的な上きれいで、すごくワクワクする光景…

 まるで、ここから先の俺の未来を祝福してくれているような…


 すごく誰かと話したい、共有したい。


 でも、誰ともできない。

 だから先生ともっと一緒にいたかった。

 でもできなくて…

 

 ただいつかは…

 きっといつかは…

 俺も友達とかと…


 そう期待すると…

 そう夢見ると…

 今のこんな寂しい状況でも、少しだけ楽しい気分になれる。

 今の寂しくて辛い状況でも、乗り越えて行けるような気がしてくる。


 そしてやっぱり気になるのは、俺が得た魔法が何だったのかだ。

 

 帰り道、色々試してみた。

 手を前に出したり、グルグルと手を振り回したり…

 でも何も起きなかった。

 

 不思議だ。

 本当に不思議だ。

 もしかしてあの魔導書、本当に不良品だったんじゃないだろうか。


 もしそうなら…

 そうなら…


 想像すると、すごく不安になってきた。

 

 暗くて良く見えてはなかったけど、黒くてぼろっちそうな本。

 壊れてしまって…

 いや、最初から本物じゃない可能性も…


 不安になって、俺はベッドに寝転がったまんまで手を上へと伸ばす。

 ただやっぱり、何にも起きなくて…

 だから、天井にただ手を伸ばしているだけの人になってしまった。


 まぁいいか。

 どうせ時間なんてこれからたくさんあるし。

 いつかそのうち使えるようになるだろう。


 そう思うと急に眠気が襲って来てしまって、俺はそれに襲われるまま眠りへとついた。



 

 朝起きて、俺は学校付近までたどり着いていた。

 

 今日もイジメられるのかと思うと、行くのさえ億劫になる。

 でも、昨日ので魔法を覚えた可能性もあって…

 

 イジメてくる奴らを…

 それを楽しそうに見てくる奴らを…

 何もしてくれない奴らを、もしかしたらぎゃふんと言わせれるかもしれない。


 そう思うと、いつもよりかは足取りが軽くなる。

 そして遠くない未来、きっと誰かと楽しく話せるかもしれないとも…


 いつもと比べて、俺はルンルン気分で学校の門を通り過ぎようとする。

 でも、俺たち学生の行き先を防ぐように看板が立て掛けられていた。


 えっと…


 『今日の授業は、どの学年も臨時休校とします。

 そしてすべての生徒は、この内容を読んだら至急、街の広場へと集まってください。』


 そう書いてあった。


 休みという言葉を見た瞬間…

 今も心に期待と意気込みはあるものの、休みという事実への嬉しさが湧いてくる。


 ただ疑問なのは…

 街の広場に集まれとの言葉…


 もしかして…

 貴族や近衛騎士などの、お偉いさんでも来たのだろうか…

 

 ほとんど情報がないせいで、逆に妄想が捗ってしまう。

 ただまぁ…

 来いという、実質命令みたいなものがあるんだし、どう考えても行くしかないよな…


 こうして俺は、街の広場へと向かった。

 そして俺はそこで…

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非力な魔法でも、俺は強くなることを目指す @yuu001214

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