覚えた?魔法と影の主

 おそらく魔法を覚えることができた俺には、一つの疑問が頭にあった。

 それは…


 勢いで魔法を覚えちゃったけど、俺…

 いったい何の魔法を覚えたんだろう…

 

 先生に言われたまま動いて…

 そして、あの魔導書のついテンションが上がちゃって…

 そしてそして、魔法を覚えてしまったみたいだけど…


 さっきの魔導書…

 一体、何の魔法の魔導書何なんだろう。

 

 これもし、もしもだけど…

 しょうもない魔法だったらやばいよな…

 絶対に、やばいよな…


 俺の心に、不安が募り始めてくる。


 今まで、じいちゃんの最後の言葉を守って魔法を覚えずにここまで来た。

 

 個人に定められた…

 一画の紋章しかない俺にとっては、たった一度しかない魔法を覚えるための機会。

 その魔法が使えないものにならいためによく考えて魔法を覚えなさいという、じいちゃんからの最後の言葉…

 なのに何も考えず…

 しかも何かも分からないままただ流されて…

 

 いやでも、当たりだったら良いんだ。

 当たりだったら…

 

 ただ、覚えた魔法が当たりかどうか知るためには…

 やっぱり…

 

 魔法を、使ってみるしかないよな。

 

 「うん、そうだな…

 それしかないよな…」


 思い立ったら吉日。

 ということで、今から魔法を使ってみようと思う。


 俺は右手を前に出して、出した手に左手を添える。

 そして…

 そして…


 ここからどうすればいいんだろう…

 というかそもそも、魔法ってどう使うんだろうか…


 俺は今まで魔法を覚えてこなかった。

 だから当然、魔法を使ったことなんてない。

 そしてそんなやつが、魔法の使い方なんて知るはずもなく…


 いや、きっと良い感じにやれば使えるはずだ。

 そうだ、そうに決まってる。

 

 俺は知りもしない…

 やり方も分からない魔法を使うために、さっきと同様それっぽいポーズを取る。

 そして手の平から何か出ないかと、手の平を思いきっし広げた。

 

 そして…

 ん-、ん-と、何度も唸る。

 ただそれで出てくるのは、口から出している変な唸り声だけ…

 悲しいことに、他にはなんにも出てこない。


 「あれ…?」


 な、なんで、なんで出てこないんだ?

 もしかして不良品、か…?

 不良品だったのか?


 俺は意味もないのに、つい両手を見てしまう。


 まずい…

 これはまずい…

 

 次第に、さっきまで心にあった不安がとてつもない大きさになっていく。

 たった一度しない魔法…

 それが不良品かも、と…


 周りを見返すチャンス、チャンスだったのに…

 それなのに、不良品で結局は魔法が使えないまま…

 これ…

 よりイジメられるだけでは…!?


 いつの間にか、気づけば不安が焦燥感へと変わっていた。


 だから俺がもう一度魔法をと思った、その時…

 ガチャ…

 扉の開く音が聞こえてきた。


 その音に、身体がビクッと反応した。

 そしてそれによって、今俺がどういう状況にいるのかを思い出した。


 先生の指示で、この部屋に入った。

 ただこの部屋は、生徒は立ち入り禁止…

 それなのに中に入って、しかも勝手に魔導書もどきを使った。

 

 どう見ても、どう考えてもまずい。

 しかも俺は、他の先生からは拒絶に近い状態にある。

 それなのに、今のこの状況…

 問題以外の何ものでもなかった。


 部屋の音が聞こえた瞬間…

 俺は周囲を見回して、隠れられるところがないか探す。

 でも壁にはびっしりと物があるのに、物陰になりそうなところがない。

 だから唯一隠れられそうな場所はただ一つ、ドアの陰だけだった。

 俺はそこに、望みを託して隠れる。


 ギィと開く扉…

 ドアが開くことで、真っ暗な部屋に外からの光が入ってくる。

 

 四角い扉の形をした光…

 その光に、一人の人間の大きく伸びた影が刺し…

 その影と光に、心が強く木霊する。


 ドクドクドクと心臓が鼓動し、自分が緊張をしているのが伝わってくる。

 でも思うことはただ一つ…

 

 頼む…

 どうか、どうか見つかるな!!!


 ただ、俺のそんな願いは届かないのか…

 光に映った影が大きく、そしてドアの形の影を越えてくる。

 どうやら、影の主が入ってくるみたいだ。


 俺の心臓の音はより強く…

 危険信号でか、汗も感じ始めた。

 

 ただ影の主の歩みは留まることはなく、ドアを越えて人の像が見え始める。

 

 頼む、頼む!!

 どうか、見つかるな!!!

 

 俺がそんな祈りを願う中、人の像は進み…

 そしてその像の主は、光によって写された。


 その主は、先生だった。


 はぁー…


 その姿に、安堵感が襲ってくる。

 一気に気持ちの緊張が解け…

 バクバクと木霊していた心臓の音が、より大きく聞こえる。

 俺は自重していた体重を後ろの壁へ預け、大きく息を吐いた。


 「フェデ、いるか…?」

 「うん…」

 

 俺の返答に先生がこっちに振り返って、そして膝をついてから…

 「そ、そこにいたんだな…」

 そう言葉をこぼす。

 ただまだ言葉にぎこちなさがあって、体調は悪いままみたいだ。

 

 「う、うん…。でも他の先生かと思って、死んだかと思ったよ…」

 「それはすまんな…。それで、魔法は覚えれたのか…?」

 

 やっぱりここにあった魔導書で、俺に魔法を覚えさせようとしてくれていたらしい。

 

 「覚えたよ?でも、使って良かったの?あんな高価なもの…」

 

 そう、魔導書は高い。

 一つで、人一人の人生を…

 下手したら、一家族の人生を余裕で賄えるくらいには…


 ただ、俺の質問で先生の意趣が変わる様子はないらしく…

 「いいんだ。それでいいんだ…」

 言葉から迷いというものが感じ取れない。

 でもやっぱり、先生の言葉は歯切れが悪い。

 

 「先生、ほんと大丈夫?体調、絶対にやばいよね?」

 「大丈夫だ。お前は何も心配しなくていい。何も…」

 

 先生は、そう言ってくる。

 ただ呼吸が乱れていて、息も肩でしている。

 そんな姿をみているから、心配でしょうがない。

 

 「でも…」

 「いいんだ!!」

 「はい…」


 なんで…

 なんでそんなに苦しんでいるのだろうか…

 そして、なんでそんなに必死なんだろうか…

 俺にはよく分からない。

 本当に、よく分からない。


 そしてそんな先生を呆然と眺めていると、先生から…

 「フェデ…、早く部屋から出ていけ。」


 それは、いきなりの言葉だった。


 本当に、今日の先生は分からない。

 ただ、この状況がやばいのも事実ではある。

 でも、目の前で先生が苦しんでいるのも事実で…


 だから俺がこれからどうするかを戸惑っていると、先生が…


 「ぃいから、早く出ていけ!!!」

 「はいぃぃぃ。」


 先生からのいきなりの怒鳴り声で、ビクッと身体が反応し…

 先生からの勢いに押されるまま、俺はそんな言葉だけを残して部屋から飛び出した。


 そして最後、俺が見た先生の姿は…

 「ぐぅ」といううめき声をあげながら、胸を苦しそうに抱えてる姿だった。


 

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