第23話 贄の行き着く先は……

 朝いつものように学園に登校していると何か騒がしい。


 耳を澄ますとどうやら国の秩序を守る国営騎士団が学園を調査しに来ていたようだ。


 国営騎士団……常に国のために忠義を尽くす性分なため国民からの指示は高い。


 だがお堅く厳しい一面があることから僕は苦手意識を持っている。


『騎士団がなんの用だっていうんだよ』


『まさか泥棒!?』


『やだ〜こわーい』


 などなど声は様々。


 誰もどういう状況かは把握できていないみたいだ。


 そんなわけで僕はいつものように屋上近くの教室に入る。生徒数は僕とソフィーだけで寂しい雰囲気が出ていた。


「……もうすぐしたらソフィーが来るだろう。出来る系男子として彼女にアピールせねば」


 歪んだ机の配置をし直し、塵が落ちていれば即座に掃除。


 そんな小さなところから人間は精神を鍛えられる。


「──遅いな」


 ホームルームの時間が近づいているにも関わらず一向に姿を見せないソフィー。それどころか教師の姿さえ見えない。


 僕は窓から外の様子を伺う。


 何人もの騎士団。しかも武装しているし……。


「ん……?」


 すると教室の扉が開く音がした。


 そこにいたのはソフィーでも教師でもなく武装した騎士団数人。かなり殺気だった様子で僕を睨んでいた。


「レイン・クラムだな」


「え? あ、はい」


「おい、捕えろ」


 騎士団Aは顎で指示を飛ばすと数人の騎士団で僕の体を固めてきた。


「えっと……これは?」


「貴様にはソフィー・フラウン誘拐の容疑が掛かっている」


「ほえ?」


 ゆ、誘拐? 僕が? それにソフィー誘拐されたの!? え、え、てことは僕は……。


「い、嫌だ! そ、そんなのあり得ない! そんな事絶対に!」


 ポヨヨに言ったことが実行されてしまう。まずい!


「暴れるな! 逃げようとするだけ貴様の容疑がより確実なものとなる。我々も生徒を疑いたくない、大人しくしていてくれ」


 しまったつい興奮して暴れそうになった。


「あ……すみません」


「連れて行け」


 僕はガタイの良い騎士団達にガッチリと掴まれたまま連行される。


 その間色んな生徒に色々な目を向けられたが気にする暇なんてなかった。僕はあの約束をしてしまったことにひどく後悔しているのだ。


 そして僕は大量の騎士団に監視されながら馬車に乗せられ輸送された。




 ───────────────────




 僕は騎士団本部の地下に幽閉され、そこで違法な取り調べを受けることになった。


 暴力は当たり前で血まみれになる自分の体を見て頬が緩みそうになる。ちなみに何日経ったのかわからない。感覚が鈍くなっているのか気づいたら取り調べは終わっている。


 だが次に目を覚ましたら取り調べを受けている。


「うらぁあ! さっさと吐きやがれぇ!」


 喉が乾燥して声を出しづらい。もう何日も飲まず食わずだ。自分の血を生き水として生き長らえるしかない。


「うぁ……」


「なかなか吐きやがらねぇなコイツ」


「たいてい痛めつければ吐くんだがなぁ。黙ったっきりで何も口にしねえ」


 何も状況がわからないんだから吐くもなにも出てくるのは血だけだ。


 それより女装が確定した方のことが僕にとっての絶望だ。ふざけんなよあの時の僕。


「ほらほらさっさと吐いたほうがこんな陰気臭い地下牢で死ぬことねえぞ」


 ぶっとい針を肋の下に深く刺されて内臓が損傷する。これはまずい……これ以上出血すると脳細胞に傷がつく。


 仕方ない、こうなったら……。


「グッ……」


「おいおいそれはやめとけ。死んじまったらまた新しい身代わり用意しなきゃなんないだろう?」


「けっ……もう死んじまったよ。心臓が止まっちまった」


「やりすぎだぞ馬鹿野郎! 上にはどう報告するんだよ」


 心機能を停止させて魔力で脳に酸素を送り続ける。仮死状態だがいずれ意識が飛ぶだろう。そこからは運ゲーだ。


「知らねぇよ。騎士団の連中には自殺したって報告しておけ」


「面倒な処理しなくちゃなんねぇだろうがよ」


「とりあえずコイツ運ぶぞ。こんな傷だらけのを騎士団の連中に見られるのはまずい。バレないよう処理すんぞ」


 僕は拘束が解かれて箱に詰められる。


「よしこれは運んでおけ」


 男たちが向こうで話している。僕の意識もそろそろ……やばい。




 ───────────────────




 1人の男は荷物をとある場所まで運び出した。地下道を経由してどこかの広場に運び出した。


「うっ……相変わらずの激臭だ。この場に捨てられるのはさぞ恐ろしく身の毛がよだつだろうな」


 男はキャリーに乗せた荷物を持ち上げ近くの穴に投げ落とした。


 しばらくして水を踏み潰すような音が聞こえると男は顔をしかめた。


「まだ処理されてないのか。最近は食いつきが悪いな」


 そう言葉を残して男は去っていった。


 水の滴る音、いや血の滴る音。


 レインの体は強い衝撃を受けて魔力が膨張する。そして全身の体を補強すると傷のなくなったレインの体が現れる。


「ふぅ……なんとかなったようだ。魔力瘴気を大量放出するというなんともリスキーな方法だったけどよかった」


 周囲はレインの魔力瘴気で霞んでいた。


「おっと……血でビチャビチャだ。それにこの場所……」


 地下からさらに地下に落とされたこの場所はどうやら死体処理場らしく様々な死体が転がっていた。どれも死後2日から10日ほど、あとは何ヶ月放置されていたのかわからないほど腐りきった死体もあった。


 そのほとんどが若い女性、もしくは少女の物。男女比率は1対5ぐらいだ。


「うぇ……こんなこと言っちゃなんだけど汚いね」


 死体は形を保っているものは多いがそのほとんどが高所からの落下に耐えられず、見えないところはぐちゃぐちゃだろう。


 レインは周囲を見渡して様子を確認するが……。


「暗くて見づらい」


 明かりは最低限。それも管理されていないのか昔ながらの電球が命の刻限を迎えようとしていた。


「上は高いけど届かないってほどじゃないね。ジャンプすれば届きそうだ」


「ぅ……ぁ…………っ」


 するとその時、暗闇の向こうから誰かのうめき声が聞こえた。


「──ッ!?」


 生きているものはいないだろうと思っていたレインは素で驚く。


「ぁ……ぁあ……」


 彼は声のする方へ歩き、手の平に魔力の炎を宿らせた。


 すると遠くで微かに呼吸をしている人物を見つける。


「大丈夫ですか……」


 そんなわけないのに彼は足元に気をつけながらその人物に接近する。人物の顔を確認するとどうやら声を漏らしていたのは少女だったようだ。


 顔が腫れ上がり片方の眼球は抉られているのか赤い瞳が覗いていた。


 血が溢れる口には歯はなく赤黒く固まっていた。


「ぁ……ぅ……うぇ……」


 レインは無駄だと思いながらも少女に魔力を流し込む。


「血が足りない……全身を治したところで衰弱死だな」


 出血と痛みを止めるだけでレインはそれ以上何もしなかった。


「これで苦痛はない……ゆっくり休むと良いよ」


「ぃ……ん……ぁ、ぅ……ぁ、んぁ……ぃ」


 レインは何かを話そうとしている少女に耳を傾ける。


「『白髪、危ない……贄、礼拝堂、地下……』」


「ぁぅ……え、ぇ……あぇ……へぇ」


「『助けてあげて』か……」


 レインが全てを聞き届けると少女は安らかに呼吸を始めてやがて静かになった。


「一体何が起こっているんだ。この死体廃棄場といい、礼拝堂? 彼女はそこの地下から来たのか?」


 不気味な音が背後から聞こえる。


 ゴォォォオっと吸い込まれるような不気味な音だ。向こうには血に濡れた檻がひしゃげて破壊されていた。


「……向こうに近づくのはやめておいたほうが良いかな。特に今は……」


 レインは遥か向こうに感じる膨大な魔力を感じとった。この世の生物ではあり得ない量と失の魔力。


「この少女、名前も知らないけど可哀想だな。弔ってあげたいけどこんな場所じゃ不服だろう……」


 レインは周囲を見渡して少女を抱える。


「1人ぐらいならなんとかなるか……。残りのみんなはごめんだけど出してあげられそうにないや。それじゃあね」


 レインは物凄い脚力で飛び上がり大穴から抜け出した。その後は出口を探して外へ脱出することに成功した。

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