第22話 もう覚悟は決まっている(キリッ)!

 ソフィーを見送ったあと僕は寮の前で待っているであろうポヨヨのために駆け足で帰ることにした。


「やっと来ましたぁ。心配しましたよー」


「従者契約を遂行してたんだよ」


「おーあのお姫様のことですね? 可愛いですよねえ、ハグされたいですぅ」


「まだ瘴気を纏ってるからだめ。教室に近づいてないよね?」


「もちろんです!」


 ポヨヨは一応僕のペット兼使い魔であり常に行動をともにするけど瘴気の関係上、学園で放し飼いにしている。


 面倒見なくていいから楽だね。


「そう言えば今日アイネルさんとお話しましたよ?」


「えっ……よく料理されなかったね。何か言ってた?」


「なんかいつでも準備できてるって言ってましたよ」


「はっ!?」


 いつでも殺す準備はできている!?


 なぜそれを僕に伝えたのだ。そんな事伝えてしまえば逃げ出すかもしれないんだぞ!?


 いや待て……これはおそらく忠告。今ここで逃げてしまえば背後から刺すという意味だ。彼女たちは僕から洗いざらい何故騙したのかを聞いたあとに殺すと思う。


 なんということだ、もう刃は僕の首まで迫ってきていたということか。


「な、なるほどぉ。準備はできているのか。流石、アイネルは仕事ができる……ね。うん、どうやって逃げ切ろうか」


「別に逃げなくてもいいんじゃないんですか?」


 ──確かに。


 わざわざ忠告するということはまだ僕にもチャンスが残されているというわけだ。ということはつまり……神教会が敵であるという証拠を提示すればいいというわけか。


 うん……絶対無理だ。見つかるわけがない。


「なんで逃げなくていいのか聞いても?」


「え? そんなの敵が本当にいたから以外にあり得るんですか? 神教会すべてがアイネルさんたちの敵なんですって」


 それは逃げ出す前に聞いたやつと同じだ。


 嘘を付くなら突き通せと……そういう脅してきているのか。


「……それ以外に何か言ってた?」


「準備ができたっていう一言だけですよ?」


 準備……これほどまでになんの準備か気になることはない。


「そ、そうなんだぁ。それじゃあ僕もそろそろ行動させてもらおうかなー」


 あの日についた嘘を……今こそ回収する時が来たようだ。彼女たちが納得してくれなくても僕はそれが敵だと貫き通す。


 確か捧げ物は女の子という設定だったか。ならその設定に沿って今リゼリア王都で問題となっている誘拐事件を洗いざらい探して……ん?


 誘拐事件といえば最近何人もの平民が行方不明になってるとか……。ほとんどが少女で気持ちの悪い趣味を持ったおじさんがいるなどと噂されていたけどもしかして……。


「ほえ? レインさんどうかしたんですか?」


 僕は天に拳を掲げ、そして額に手を充てがう。


「見えたぞ! 僕がすべき行動が!」


「おおっ! やっと動き出すんですね? あ、でもレインさんは何すればいいのかよくわかってないんじゃ……」


「いいや……神教会の変態が魔の手を伸ばすビジョンが見えたっ……!」


「おっほぉー! 何を言っているのかはわかりませんがとりあえず見えたんですね〜?」


「これで幾時かは安全に過ごせるだろう」


 僕がやることは誘拐された人達の解放だ。


 やっぱり生き抜くためには何事も得を積むことが大事と、そういうことだ。


 この世界を自分なりに生き抜くためにはそういう寄り道もしなくてはならないのだろう。


「やりましたねレインさん!」


「まずは情報……いや、世間の声に耳を傾けるところから始めるとしよう」


 僕は大袈裟にそこら辺に落ちていた新聞を手に取る。


「ふむふむ……」


「王都の誘拐事件って結構問題になってますよねぇ? ポヨヨもかじった程度でしか聞いてないんですけど月一で誘拐の危険度が上がるとかなんとか……」


「確かに記事によると月の中頃が誘拐件数が増えるようだ。そこから急速に減少し翌月の中頃まで誘拐件数は変わらないと……」


 月の中頃……丁度今月も中頃のピークか。誘拐が起きたら即座に情報を集めて、変態野郎をぶっ飛ばせば解決だな。


「あ……」


「どうかしたんですか?」


「そう言えば今日僕ソフィーを1人で帰しちゃった……」


「でもソフィーさんって貴族の方ですよね? 学園の敷地内に寮があるのでは?」


「それが今日は寄り道しようってことになって人街まで降りてきたんだ……」


 やらかしてしまったのかもしれない。


「女の子を最後までエスコートしてあげなければ下僕失格ですよ」


「でも彼女が1人で良いって言ってたんだ。1人になりたいときぐらいあるだろう」


「……なぁんですかそれは」


 それにここの王都には何百万という数の少女がいるのだ。万が一でも届かない百万に一の確率。そうそう当たるわけがない。今頃貴族寮に帰ってゴロゴロしているはずだ。うん……。


「安心しなよ、絶対ありえないから」


「確かに王都には何百万っていう数いますからね。地区も治安が良いところですしね」


「そうそう、僕が一度連れ出したところでありえないよ。もし誘拐されたら来年度からは女の子の格好して学園に登校するよ」


「うわっ! 見たかったですーそれ。もう少し現実的な確率で約束してくださいよぉ」


「ふっふっふー。残念だがこれはリスクとリターンが見合っているのだよ。女の子の格好なんて絶対にしたくないね」


「くそう、なのです!」


 そんな感じで僕らはいつも通りの生活を続けいつも通りの修行をしてベッドへと眠りについた。

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