第20話 好き……って、こと!?
あれから数十日は経った。
僕は晴れてソフィーとの正式な従者契約をすることに。
一時的に僕のクラスが上級クラスである金クラスになろうとしていたが、ソフィーの障害の関係上僕はブタ箱クラスのままだった。
教室はソフィーと僕の2人だけ。
常に換気をして先生がガスマスクを持ってくるほどソフィーは危険な生徒のようだった。
そんな環境にガスマスクなしでぶち込まれたお陰で僕は魔力瘴気による耐性を徐々につけることに成功した。
完全に耐性を手に入れればもう彼女には用はない。
しかしせっかく仲良くなれたんだし何事もなければ卒業までは一緒にいようかな。
「レインさんは平気なのですか……?」
へ、兵器?
なんだその質問。
「兵器……ですか?」
君の瘴気に耐え続けていると入っても兵器ほどじゃないんじゃないかな。
「……実は
衝撃のカミングアウト……ではない。それは契約のずっと前から把握していることだし、何よりソフィーが瘴気を放っていたから契約したんだ。
「そうなんですか?」
だが当然僕は平凡な召使のため知らないフリをする。
「はい……レインさんからは伝えなくても良いと聞いてはいたんですけれど、それでもご説明しなきゃなと思いまして……」
「気づかずに猛毒を吸い続けたってことですか?」
「そうなってしまいます。この数日間騙していたことを深くお詫びいたします」
「いやいや謝罪する必要はないですよ。元々説明を聞かなかった僕も悪いですし、それにもう今さらって話じゃないですか」
すべての元凶はエリンだけどな!
ブタ箱組を騙してソフィーの召使にさせようとしたんだから。僕じゃなかったら騎士団に駆け込んでいるとこだよ。
「今さら……ですがこれ以上レインさんに瘴気を吸わせたら……」
「死ぬってことですよね。……でもいいんですよ。僕は好んでソフィーさんの召使になったんですから」
「好んで……!?」
瘴気耐性……そう、ただこれだけのために!
従者契約は卒業後に解除だからどのみち人生を縛られるわけではない。
「そんな……それではなおのこと瘴気を吸わせることはできません」
そう言って何故か彼女は教室の隅っこへ離れる。
「どうしてですか、僕は本気だったんですよ! 自分のためなら全てのことに本気になれるんです! この考えが伝わらないのなら僕との契約は切ってくれて構いません! それでも僕は自分のために追い求め続けます」
僕は隅っこで小さくなっているソフィーに近づく。
「あ、あの……ちょっと……ち、ちち、ちかっ……」
彼女は手を前に突き出そうと震える腕を伸ばしたり引いたりを繰り返す。
少し攻めすぎてしまったようだ。僕の覚悟を踏みにじった彼女を考えさせるつもりだったが顔を隠すほど追い詰められるなんて……。
「すみません、少し熱くなりすぎてしまいましたね」
「い、いいんです……! わ、私も……気づけてなかったと言うか……その……」
「安心してください……僕は死にはしませんから。どんなことがあろうとも自分の夢を追い続けます」
「──はい……」
なぜ恥ずかしそうにしているのかはさておき僕の覚悟が伝わったようだ。死んでも手に入れておきたい瘴気耐性。僕の体が君の瘴気を覚えるまで一緒にいてもらうぞ。
「あ、あの……」
「ん?」
彼女は紅潮し顔で僕を見つめる。少しやりすぎた、嫌われてないといいけど。
「えっと……」
「どうかしましたか?」
なんか……言いたいことがあれば素直に言ってほしいんだけどな……。
「や、やっぱりなんでもないです!」
彼女はそう言うとトイレのある方に走って行ってしまった。
「──大かな」
僕は周りに誰もいないことをいいようにカッコよくそう呟いた。
───────────────────
「ぷんぷりぷんぷーん。ポヨヨはさいきょーのせいめいたーい♪」
毎日ご機嫌のポヨヨはいつものように廊下で歌を披露する。レインの放し飼いによる影響かポヨヨはいつの間にか学園のマスコットキャラクターになっていた。
「う?」
するとご機嫌な彼女は背中を誰かに突かれた。ウキウキな彼女はニコニコの笑顔のまま後ろを振り向いた。
しかしその顔は直ぐに絶望した顔となる。
「な、ななな!?」
「久しぶりねポヨヨ。10ヶ月振りかしら?」
「あ、あああアイネルさん……」
ポヨヨを突いた人物は裏にありそうな笑顔を見せたアイネルだった。
ポヨヨは飛行をやめて廊下に足をついた。
「ここではネールと呼んで」
「あはははは……ネールさんの着こなす制服は随分の美しいことで……あ、天気が良いですね」
「みんなと変わらないわよ。後それに今日は生憎と空一面の曇りよ」
「ガビーン……ぽよよよ」
「ここでは目立つわ、場所を移してお話しましょうか?」
ネールは地に足をついたポヨヨを抱きかかえて逃さないようにホールドした。
「ぽよっ!? 今からポヨヨはどうなっちゃうんですかぁ。うぉぉぉぉぉおんおんおん」
情けなく泣き叫ぶ。
「どうしたのよあなた。いつもの元気はどこにいったの?」
「ポヨヨは料理されちゃいますぅーうぉぉぉおんおんおん!」
「料理? 学園に来てからは自炊を心がけているわよ。よかったら部屋に上がる?」
「料理はやぁぁだぁぁ!」
ネールの胸の中で暴れるポヨヨ。力がなさすぎてすぐに押さえ込まれる。
「あら……見ないうちに好き嫌いが多くなったのね」
「そういうことじゃないですよぉ……ポヨヨに好き嫌いないですぅ……」
空き教室に連れ込まれたポヨヨ。
彼女を椅子に座らさせたのちにネールは問うた
「作戦を聞かせて頂戴。彼はもう動いているんでしょう?」
「ふぇ? さ、作戦?」
ポヨヨはなんのことだろうと頭の回転を早めるが本当になんのことかわかっていない。
「彼はすでにソフィー・フラウンに接触しているわよ。作戦があるなら教えて頂戴」
「ん? ん? あのう……何を言っているのかわからないんですが……スパイごっこでもしているんでしょうか?」
「あなた彼から何も伝えられてないの?」
「伝えられてないと言うか、なにをしているのかすらもわからないんですけど……」
「ナーヴィス神教会の話よ? あなた達、急にいなくなったから大きな情報でも掴んだのかと思っていたのだけれど……」
ポヨヨは唇を尖らせて首を傾げた。
そんな彼女をネールは撫でる。
「う……ポヨヨは何も聞いてないですよ?」
「じゃあ彼は単独で動いているの?」
「動いているっていうか楽しんでいるっていうか……うん」
ポヨヨは下を向いて頬を膨らませる。
「なら彼に伝えて、準備はできているって」
「準備?」
「ここ、リゼリアに潜む神教会の端くれを狩る準備ができたと」
「うぇ? 神教会に敵はいないんじゃなかったんですか?」
「何を言っているの? 私たちの敵は神教会とその神官よ」
「あれ……」
ポヨヨはここで何かに気がつく。
ネールが冗談で話しているようには見えなかったのだ。
「どうかしたの?」
「な、なんでもないですよぉ……」
「準備ができたこと彼に伝えておいてね。それじゃあ」
用事が済んだのか彼女はポヨヨをおいて去っていってしまった。
「もしかしてレインさんが言った嘘って……」
ポヨヨは眉を上げ、困った表情で呟く。
「本当だったんですね」
彼女は呆れた表情で窓から見える空を見た。そこには雲一つない青空が覗いていた。
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