第18話 実験体みっけ!

 なんともレアなケースに出会った。さかこの僕が女子とお食事をともにするとは……。


 エリンのお陰で緊張は九割ほぐれたけど彼女がまともだったらガチガチで会話すらできなかったのかもしれない。


 僕は生粋の陰キャと言うことだ。


 転生したからって性格が変わるわけじゃないのは言うまでもないね。


 それで昼食を終えた後は午後の実技なんだけど……。


「室内でさらに空調設備バッチリ……」


 ブタ箱コース時代は雨が降ろうとも外だったからなあ。


 それに比べてここは広くて眩しい光もない。剣だけに集中できそうだ。


 僕は道着に着替えて施設内を散策する。すると出会う人ほとんどに視線を向けられる。ゴニョゴニョと話しているが全部聞こえてる。


『なぜこんなところにブタ箱が?』


『ブタのニオイがすんぜ』


『迷子かなー』


 など明らかに敵意剥き出しな声もあれば、哀れに思う声があった。気まずい、早くソフィー来ないかなー。


 しばらく待っていると存在感の強い2人を見つける。金と銀の髪が並ぶ姿は目立つ。


 お陰で早く見つけられたよ。


「早かったじゃないレイン」


「雇い主を待たせるわけには行かないだろ」


 2人の距離は離れていた。相変わらずソフィーは凄い瘴気を放っている。


 近づけない程ではないが近づきすぎると命が危ない。


 僕は違和感のないようソフィーに近づく。


「あの……レインさん……」


「あーごめんなさい。召使と言われていますからこのぐらいの距離感のほうが良いかと思いまして」


「っ……」


 自分の瘴気を気にしているんだろう。耐えられないほどじゃないが、彼女の瘴気を捌きながら剣を打ち合うとなると分からないかもしれない。


「金コースの実技の始まりはどんな感じなんですか?」


「そ、それがわたくしは実技をするのが初めてで……何をすればいいのか把握していません。申し訳ございません」


 僕と同じで今日初めてこの施設を訪れたようだ。


「基本的には簡単な体ほぐしから入って、その後に太刀筋の確認……パートナーのアドバイスを受けながら剣を高め合うって感じね」


 慣れているエリンからの説明。やっぱりブタ箱とはまるで違う。


「ブタ箱と違って自由なんだね」


「自主的な成長を促すのがこの金コースの特徴だからよ。一応先生もいるみたいだけど相談している生徒は少ないわ」


「僕達のところなんて先生がつきっきりで指導してくれるのに……」


 指導内容は結構いい。熱血感溢れる感じの先生だったし、きっとブタ箱の僕達を成長させるためにあの先生になったんだと思う。


 まあ素材がだめだからいくらいい指導があっても成長しないけどね。


「じゃあ私はペアを探しに行くわ。あんたはソフィーとペアを組むのよ」


「よろしくお願いしますね」


「はい、こちらこそ」


 そうして授業は始まった。


 授業が始まると僕に向けられていた不快な視線はなくなりみんなは各々打ち合っているようだ。


 そんな中僕はソフィーの顔を見続けながら魔力制御をする。


「あの……なにか?」


「何でもありませんよ。少し魔力制御をしていただけです」


「魔力制御……」


 ソフィーは自身から漏れ出る瘴気を制御したいのかモヤモヤと魔力を放出する。


 猛毒だ。


 ソフィーの周りだけ不自然に距離が空いているのは皆が吸わないために避けているのだろう。


「……どうしましたか?」


「あはは……お恥ずかしいことに私は自分の魔力を制御するのが難しくて……」


「そうだったんですね。もしよろしければコツとか教えましょうか? 嫌でも僕はブタ箱組だから余計なお世話かもしれません」


「いえ! そんなことはないですよ。逆に私がそのようなクラスに配置されなかったのが不思議なぐらいですから。みなさんには隔てなく接しているおつもりです」


 めちゃくちゃ良い子だ。エリンお前も見習え。


「そうですか……では少し触れさせてもらってもよろしいでしょうか」


「あっ……えーと、良いですけど……」


 瘴気を気にしているのだろう。


「魔力制御は自分以外にも相手から制御して貰う方法がありますからね。それで自分でも制御できるようになったという例があるので試させて下さい」


「よろしいですけど……」


 ハッキリとは言ってないが一応許可は貰えたので彼女の肌に触れ自身の魔力を流し込む。流しすぎると毒だから微量に流して……。


「ん……?」


 ……おっとこれは想定外だ。


 魔力を流したら僕の魔力が掻き消された。僕の小さな魔力では彼女の回路に触れることすらできないのか……。


 うーん、流石は才能なしの烙印を押された体だ。いくら鍛えようがこれはどうしようもないからなー。


「僕の魔力ではソフィーさんの魔力回路に触れられないようです。感覚で教えようとしたんですが申し訳ないです」


「ですよね……いろんな方に試してもらったのですがうまくいかなくて……」


 彼女の回路に入り込む隙がないということか……。


 でも制御できていない状態で剣を振るわれると思いがけない場所で魔力が爆発してしまうかもしれないし必ずやらなくちゃいけないんだけどもどうしようか。


「すみません楽にしてもらえますか?」


「はい、良いですけど……」


 僕は強引に彼女の魔力を一時的に全て吸い取り、一瞬で魔力回路の性質を変えた。そして彼女の内包していた魔力を元に戻して上げた。


 コンマ分の作業だったから彼女は何をされたのかはわかってないだろう。


 僕は表情には出さないが吸い上げた猛毒の処理で激しい頭痛が続く。


 しかしこれで彼女は一定時間ではあるが魔力を行使してもうっかり爆発するなんてことはないだろう。


「よし、それじゃあ打ち合いますか」


「しかし魔力制御ができなければご迷惑をおかけしてしまうかもしれません……」


「僕頑丈ですから爆発しても死にはしませんよ」


「……よろしいのですね……?」


 彼女の赤い瞳の輝きが弱まった。ちゃんと性質を変えられたようだ。


「いいですよ。あまり本気は出さないでくださいね」


「ふふ……大丈夫ですよ。剣の扱いは上手なので」


 お嬢様でも剣を嗜む機会はあったというわけか。


 素振りを見る限り慣れてはいる。動きも悪くはない。努力の賜物だな、僕じゃ彼女には勝てないだろう。


「手合わせお願いしても……?」


「いいですよ」


「ありがとうございます」


「しかし僕は見ての通りブタ箱組なので手加減はしてくださいよ」


 彼女は楽しそうに微笑むとゆっくりと僕の目の前に木剣を降ろしてきた。


 剣で受けなくても半歩下がれば当たらない絶妙な間合い調整。ゆっくり降ろしてくれているため僕は普通に反応できた。


 カッ……と木剣の軽い音がした。


 僕が一撃を防ぐと彼女は瞬時に剣を引いて直ぐに攻撃に移る。


 事前に防がれることを意識した流派。確か……。


「──血牙」


「よくお分かりで。私の流派は血牙というものです」


 素早い剣のため普通は剣筋を捉えにくい。だが彼女は本当に手加減をしてくれているようで僕が反応できる速度で調整しているようだ。


 上、右横、斬り上げ、一転横薙ぎのループで動いている。


 カッ、カン……カ、カンのリズムで斬る。


 2周したところで段々と彼女の技の速度が上がっていく。


 僕はそのリズム通りに彼女の剣を予測してガードする。9周を終えたあたりからは随分と速度が速くなっていった。本来の血牙の太刀筋に近づいてくる。


 一撃も重くなっている。


 防ぐたびに彼女のパワーが腕に伝わるため痺れる。久しぶりに剣が振るえたのだろう、かなり楽しそうだ。


 しかしこれ以上防ぐと僕の実力バレが露呈するのでワザと剣を離すようにする。


「あっ……すみません」


 吹き飛んだ剣を拾いにいこうとするソフィー。僕はそれを止めて自分で拾いに行く。


「さて続けましょうか。ウズウズしているようなので」


 ソフィーは楽しさを隠せない無邪気な表情を見せていた。どうやらかなり打ち合わないと満足してくれなさそうだ。

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