第17話 魔力はエナジードリンク(多量摂取死)
「残念だったわね、友達に2回も売られるなんて」
僕は散々引きずられたあとに何故か屋上に連れ出された。怪我はしてないけど服の汚れが気になり過ぎる。
「友達選びに失敗しただけだよ。まあ君よりは幾分かマシだけど」
「さっきまでの口調、猫被ってたのね?」
「初対面には普通敬語だろう。君は初っ端から傲慢で欲張りな貴族として振る舞ってたけど」
「何か言ったかしら? この場で斬り捨ててもいいのよ?」
腰に添えてある鞘から銀色の光沢がチラリと見えた。
「なんでもないです」
コイツずるいぞ。
僕が何もできない底辺だと知りながらわざと挑発してくる。
「それより気になったんだけどあそこにいる女の子は?」
銀髪のサラサラショートヘヤー。物語にでてきそうな可憐な少女だった。屋上よりかは花畑にいたほうが似合う少女がなぜこんな陰気臭い場所に……。
「ソフィー・フラウン……彼女は私の親友よ」
大きな白い日傘で日光を遮っている。
そしてこちらに気がついたのか日傘を持ちながら近づいてきた。
色白の肌、それは一度も陽の光を浴びたことがないような真っ白な肌だった。魔力を制御できていないのか赤い瞳は輝きを放っており、瘴気が漏れている。
なるほど……吸血姫みたいな? 昔に出会った吸血鬼が同じような性質を持っていた気がする。
「あら……そちらのお方は?」
ハープのような優しい音色を持つ声。常に笑顔を絶やさず振る舞う姿にカリスマ性を感じた。
ものほんのお嬢様やー。エリンとか言うパチモン姫とは違うしなんだか緊張する。
「コイツは今日から私たちの召使よ。レインっていうの」
「まあ、中々立候補してくれる方がいなかったから助かります」
立候補……?
「え、僕は君の奴隷になるために引きずられたんだよね?」
「建前はそうね。でも実際は私たち……と言うか彼女の召使にするために連れてきたのよ。彼女可愛いしテンション上がるでしょ?」
いやいやいや、魔力が少ない人間があの瘴気に触れると死ぬんですけどー……。
自分の魔力はエナジードリンクなんだけど、他人の魔力は猛毒なんだよね。エナジードリンクも摂り過ぎると毒だけどさあ。
「もちろんこんな可愛い女の子の召使になれる他に報酬も沢山あるのよ。1日10万マニー。昨日も話したけれどそれぐらいはもらえるわ」
おいこれリスククソ高い闇バイトみたいなやつやんけ。ソフィーだっけ? 彼女の瘴気に触れ続けたら早死するぞ。
しかも魔力に敏感じゃない人は瘴気にすら気づかないから知らず知らずのうちに寿命が減ってしまう……。
このエリンとか言う悪魔は僕がそれに気づいてないと思っているな。
「ね、ねぇ。なんでこんなにお金がもらえるのか聞いてもいい?」
そう言うと案の定エリンの表情が固まる。
「ソフィーと私がお金持ちだからよ。だからこんな破格の条件で召使を雇えるの」
「そんなお金があるなら素人の僕じゃなくてプロの召使を雇えばいいのに……1日10万も使えるなら10人は雇えるよ?」
「……素人だからいいのよ」
「エリンさん、もしかして彼は何も知らないのですか?
ソフィーは常識人のようだ。こんな馬鹿げた条件で雇うって裏があると疑わずにはいられない。今まで雇える召使が現れなかったのは彼女の瘴気が原因なんだな。
「仕方ないでしょ、誰もいなかったんだから。使い捨ての人間を雇うしかないでしょう」
エリンは彼女に耳打ちをしているようだがバッチリ聞こえている。
やっぱりそういうことか。
一度ロンたちを選んだんだけど雇う前に失礼なことを連発して殺されそうになったのがオチだな。
あいつら美少女系には一瞬で食いつくからなぁ。
「ですがお伝えしたほうが……」
なんか可哀想だしやってあげてもいいか。彼女の瘴気に耐えられるかどうかはわからないけど……まあ大丈夫でしょ。いつものように耐性つければいい話だし。
と言うか瘴気耐性をつけるにはいい機会なのでは? 瘴気を出す魔物はそう多くなかったし絶対に鍛えられる。
「やりますよ僕」
特殊耐性を鍛える機会滅多にない。おそらくこの機を逃せば瘴気耐性を得られるのは随分先になる。
ありがとうロン。
ありがとうモヤシニ。
君たちのおかげで僕はこんな美味しい思いができるぞ。
「っ……いいのですかっ?」
ソフィーは微笑んで手を合わせた。
「しかし私の召使になるということは……その……」
「ああ言わなくて大丈夫ですよ。大金を差し出すぐらいには何か危険なことがあると何となく思っているので」
瘴気関連の話は出さないほうがよさそうだ。僕の内包している魔力に気づきそうだし、それにブタ箱組でも安定して実力を隠せている。こんなところでバレるわけにはいかないのだ。
「ありがたい配慮です」
「あれだけ嫌がっていたのに……美少女を前にするとデレデレになるのはなんなの?」
別に美少女前にしたから決めたわけじゃないけどね。僕は女の子よりも優先すべきことがあるから。
「美少女を前にデレデレにならなければそれは失礼なんじゃないか?」
「はい? あんた私の前ではデレデレじゃないじゃない」
「第一印象があれだったから……」
暴力、威圧、脅迫……そして何より下着!
第一印象でよくもまあ自分の美貌を格段に下げたものだ。一瞬にして幻滅したね、顔はいいのにもったいなかったなー。
「あれってなによ」
「イカツイ」
間を空けずに答えたら睨まれた。
「まあまあエリンさん落ち着きましょう。せっかく彼が召使になってくれると言うのですから」
すると彼女は日傘を降ろしてカーテシーをした。短いプリーツスカートからチラリと張りのある太ももが露わになる。
白タイツかと思ったら限界ニーハイだった。そこまで上げてるなら全部上げろ。
「
「僕はレイン・クラムです。ただの人間でエリンからは可愛いと言われたことがあります。よろしくお願いします」
「ちょっと最後のはいらないでしょ」
「よろしくの挨拶はいるだろう」
「そっちじゃないわよ!」
僕らのやりとりが面白かったのかソフィーは微笑んだ。その頬は少し焼けているように見えたが同時に日傘が開かれ日光とともに顔が見えなくなった。
再び彼女に視線を向けると火傷の跡が綺麗になくなっていたため気の所為だったのだろう。
「それで召使と言っても何をすればいいんですか?」
「それについては私から説明するわ」
「おう、お願い!」
「なんで私にはタメ口なのよっ! 一応私の召使でもあるんだからね」
「エリンはタメ口の方が親しみやすいかなって」
「……まあいいわ」
いいんだ。
「召使と言ってもやることはそんなに多くないわ。彼女のエスコートをするだけでいいわよ」
「それだけでいいの?」
「あーあとは実技があるじゃない? 毎回彼女と同じ班になって打ち合うこと」
瘴気のせいで誰も近寄れないからね。剣を学びに来ているのであれば相手がいないのは気の毒だ。
「え、うんわかった。でも彼女金コースだよね?」
剣術科は剣術科でも人数が多く実力も幅広い。ブタ箱組の僕たちはもちろん一番下のコースでその上に白コース、緑コース、青コース、赤コース、紫コース、銀コース、金コース、推薦コースと続く。
学年はごちゃ混ぜで単純な実力のみでコースが決まる。なんだよブタ箱コースって。
推薦コースは金コースのなかでも最高に近い腕前を持つ剣士のみが行けるコースだ。将来が約束されていると言ってもいいクラスである。
「そうね、私と同じ上級クラスだからそういうことになるわ」
「僕ってさ、ブタ箱なんだよね」
「知ってるわよ?」
「ブタ箱が上級クラスの人たちに紛れて剣を打ち合うって大丈夫なの?」
「大丈夫だと思いますよ。レインさんが気にしないならですけど……」
なんて丁寧な人なんだ。エリンも見習ってほしい。
「ソフィーをブタ箱コースのところで練習させるはずがないわよねぇ?」
それ脅してきてるじゃん。
「おっけわかった。僕が金コースに行こうか」
流石にこっち側に来るのは僕の面目が立たない。
「融通が利くじゃない。午後の実習は金コースのところに来るのよ。絶対だからね」
「はーい。でもブタ箱の僕が金コースに入れるの?」
単純な疑問だ。それだと実力で勝ち取った金コースの人たちが納得しないだろう。
「それについては安心しなさい。従者や召使は申請すれば主の成績と同等の位が与えられるから」
なんだその一発逆転みたいなシステムは。
「だけど一度なってしまったら特別な事情がない限り従者契約は解除できないからそこんところだけはよろしくね?」
「どのみち僕を離すつもり無いだろう」
「よくわかってるじゃない」
デメリットはデメリットで打ち消すというもの。どうやら僕の成績はソフィーの成績次第で決まるとの説明だ。
やったぜ、これで僕の学園生活は安泰……。
「あ、でもテストで赤点とったら問答無用で契約解除されて、しかも違約金が発生するわ」
安泰だけど念の為に勉強は疎かにしないでおこう。
「ちゃんと勉強するから大丈夫だよ……あは、あはは」
僕は乾いた声で笑った。
「よかったわ。ところでお昼はまだよね?」
「え……うん」
「ならソフィーと3人で食堂に行くわよ」
親睦深めてこれからを見据えましょうと言うことか。ソフィーとはいい関係に慣れそうだがエリンは難しそうだね。
「奢ってくれるなら行くよ」
彼女はため息をつくが納得してくれたようだ。誘った側が払う、当然の事だ。
その後、僕たちは食堂へ向かった。
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