第16話 2人の命か1人の命……当然前者
「そ、そんなことは言ってないでござる!」
「自分も断じてそのようなことは……」
翌朝、あることないことべらべら喋った2人にレインは問い詰めていた。
「友達を疑うのは良くないって聞くけどなあ……」
「そうでござる! 小生が友にそのようなことをするわけがなかろう」
「ロンくんの意見に賛成ですぞ」
2人が裏切っていたのは確定だがレインは今回のことを見逃すことにした。
「じゃあやっぱりあいつは嘘ついたってことだな、許せない! 僕のたった2人の友人を狼に仕立て上げるなんてっ!」
ロンとモヤシニは少し挙動不審になりつつ目を泳がせる。
「そう言えばあのあと君たちは何もされてないの?」
「も、もももちろんでござる。レイン殿があの時助けてくれたおかげでござるからなあ」
「そ、そそそ、そうですぞ。あれからエリンという小娘とは自分たちのところへは来ていませんなあ」
「目が泳いでるけどなんかしたの?」
目を細めて疑うような眼差し。ロンたちは平然を装うが下手くそな口笛に目も合わせてくれなかったので何かを隠していることは確定だった。
「な、なんでもないでござるよ。そ、それよりもレイン殿の事が心配なのでござる。あのあと小娘に目をつけられて大変だったと聞くでござるからなぁ」
「ああ呼び出しの件ね。脅迫めいたことはされたけど暴力は振るわれなかったよ。マジで助かった……」
「レインくんもとうとう目をつけられてしまいましたな。何かあったら自分たちが力になるのでいつでも頼ってくださいな」
どの口が言ってんだとツッコミたくなるのを抑える。
「じゃあ今からでも頼っていいかな?」
すると2人は気持ち悪い笑顔を披露して擦り寄ってくる。
「お、何でござるか。一度助けられているからには恩を返すのは侍として当然のことで──」
「あのドアの向こうにいる人のことなんだけど……」
レインが指差す方向を2人は笑顔で追う。そしてとある人物を見つけると一瞬にして表情が崩れた。
「2人とも代わりにいつまで来てくれないかな?」
殺意のオーラマシマシで教室を覗くエリンは、凄まじい眼力でレインを睨んでいた。
「むりですぞ! あれは凶暴なゴリラが人間に化けた姿なのです。立ち向かうなど自殺行為!」
「え、でも助けてくれるって言ったよね……?」
「それは言葉の綾というか、なんというか……そう、許容できる範囲でなら何でもしてあげるという意味でござる」
「彼女のサンドバックになるのは許容できないの?」
「当たり前でござるよ! 一発で死ななかったらいい方でござる!」
つまりこの前の2人はいい方を引いたということになる。モヤシニの眼鏡にはヒビが入って顔も少し変形しているが大丈夫だったのだろう。
睨んでもレインが教室から出なかったのかエリンはズカズカと3人に近づく。
「レイン・クラム、なぜ私を無視しているのかしら?」
「僕じゃないと思ってまして。君の瞳が僅かにロンくんに向いていた気がしたんですよね……」
「ちょっとレイン殿!?」
「こんな不潔なゴミに用はないわ」
ハッキリと容赦ない言葉のナイフがロンを石化させた。
「あ、じゃあこっちのモヤシニくんでしたか!」
「こんな女子よりも非力な枝……誰が好んで見るのかしら?」
モヤシニは石化したあとに風化して砂となった。それほど傷ついたようだ。
「あんたに用があるのよ、レイン・クラム。昨日の件……忘れてないでしょうね?」
「覚えています! 確かロンくんを革素材にモヤシニくんを木材にして椅子を作るとか言ってましたっけ」
「気持ち悪いわね。魔物の素材で作る家具より悪趣味だわ。それになんだか臭そう」
2人は口から魂を出して白くなった。
「違うわよ、あんたが私の奴隷になるって約束だったでしょう?」
「そんなこともありましたね」
「そうよね? じゃあ来てくれるかしら?」
しかしレインは首を横に振り爽やかな声で言う。
「お誘いは嬉しいのですが僕には2人がいますので。何かあった時2人の側にいないと……」
「レイン殿……」
「レインくん……」
感動したロンとモヤシニは唇を震わせて友情に感動する。
「簡単に裏切る2人を信用して大丈夫なの? 昨日べらべら喋って脅迫状を入れたのは2人なのに……」
その言葉に2人は唇を青くして凍る。
「あれ……? でもそれは違うって言ったよね?」
「そ、そそそそうでござるよ。小娘、何を言うでござるか」
「あ、あああありえませんぞ。レインくんは自分の親友で──」
「喜んで情報を売っていたのによく親友だなんて言えるわね。そっちの不潔ロン毛はお金を渡せばすんなりレインの鞄に脅迫状を入れてくれたわよね?」
「「ギグギグッ!」」
「友達に嘘を付くなんて最低じゃない?」
罪悪感に苛まれたのか2人は泣きながら頭を下げてくる。
「す、すまんでござる、レイン殿! 仕方なかったんでござるよぉ」
「自分も次整形させられたらどうしようって仕方なくやってしまったんですなぁ」
しかし今更認めたところでレインは初めから信用してないので顔色は変わらなかった。
小動物のように泣く2人。いい感じにキモくてクズである。
しかしそこが好感の持てるポイントなのかレインは笑顔のまま話し続ける。
「まあそれなら仕方ないよね。僕のお友達は2人だけだから簡単に切るような真似はしないよ」
「レイン殿ぉ……」
「レインくぅん……」
「どうですか? これが本物の友情というやつです。ですからあなたの奴隷云々の話はまた今度ということで……」
本物の友情を知らなさそうなエリンに向けてのマウント。しかし彼女の表情には余裕があり、そしてこう提案する。
「そう、ならこの2人を奴隷として連れて行くわ」
その言葉にロンとモヤシニは冷や汗を流してお互い顔を見合わせる。
「まさか2人はそんな事しないよね? 一度助けてあげてるし、僕の代わりに行ってくれるよね? さっき謝ってたし……」
すると2人は少し下がってからこそこそと話し出す。そしてしばらくすると爽やかな笑顔でエリンに放った。
「どうぞレイン殿を連れて行ってくれでござる」
「レインならあなたの奴隷にピッタリですからな」
2人はスッキリした様な顔で裏切った。
レインはあり得ないぞコイツら、などと片眉を震わせて拳を握った。
「あっはっはっは! やっぱりクズのお友達はクズなのね! じゃあ無理矢理にでもついてこさせるわよ」
「そんな、何かの間違いです! 僕達の友情は本物のはず! それに僕はクズじゃない!」
レインは制服の襟を掴まれ引きずられる。
「レイン殿……すまぬ。2人より1人が犠牲になったほうが将来性があるのでござる……」
「その通りですな……」
教室から連れ出されるときに聞こえた声。それを聞いたエリンは鼻で笑った。
「これが本物の友情なのね。儚くて脆いわ」
「違う、君が脅したんだぁあの野郎ども後で椅子にリメイクしてやる!」
「本音がダダ漏れよ」
その後レインは引きずられたまま屋上に連れ込まれた。
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