第14話 オタク三銃士いざ参る!(遺言)
──約8ヶ月後。
レインは学園に通える歳となり今はリゼリア統合学園の生徒となっている。
ここは優秀な剣士や頭の良い学生を揃えている他、貴族と平民の交流を大事にしている学園で評判がいい。
毎年優秀な剣士や学士を輩出しているため外からくる生徒も少なくはない。自らが優秀だと思う生徒が多々集まる学園。
めちゃくちゃ優秀……だがそれは上位を見ただけであって普通に平凡な学生もいる。
上が上なので下も下というわけだ。学園のレベルとしては平均より少し高いぐらいで特段高いわけではない。
しかしながらこの学園は脱落システムを導入している学園なのだ。
一定の成績に満たなかったものは『ブタ箱』という最底辺のクラスが用意されそこで一学期を過ごすシステムだ。
──下を見て我が身を恐れる。
という風に生徒たちに刺激を与える教育システムとしては優秀だ。だが貴族がブタ箱行きになることもあるので廃止を求める声が多い。
それに毎年入学直後にブタ箱行きになる生徒も少なくはない。新入生に刺激を入れる見せしめに何人か算出されて選ばれるそうだ。
そしてそのブタ箱行きになった生徒の1人がレインというわけだ。
「最低なクラスの分け方だね。何がそんなにダメだったんだ」
入学試験ではまあまあの成績を取ったつもりではいたが、どうも彼の剣を他の人が理解できなかったみたいでこうなっているようだ。
「まあまあ、気を確かにしてください。ブタ箱行きになったのは仕方ないですけど次がありますよ? 二学期まで頑張ればいいじゃないですかっ」
「もともとそのつもりだったよ。でもなんか普通のクラスに行けると思ってたからやる気が一気に下がったんだよね……やっぱり外の世界は恐ろしいや」
「え……これからどうするんですか」
「努力は続けるよ。でも学園では楽に行かせてもらおうかなって」
レインは寮のベッドの上に大の字で寝る。
「ええ? レインさんの実力があればてっぺん取れますよ? 普通どころか上級クラスにも行けて貴族さんと仲良くなれるかもしれないんですよ?」
短い手を顎に当てて首をかしげる。
「無理無理。僕陰キャだし、コミュ障だから。上に行ったとしても隅っこで震えてるだけだよ」
特に目立った特技も、目立った容姿もないためクラスから孤立していた。
「確かに入学式隅っこで震えてましたもんね。少数のはずのブタ箱でも1人浮かれてましたし……」
「まあマスコットという喋り相手がいるし……あれでも君なんかクラスで浮かれてたよね? 僕の使い魔っていう設定なのに」
「え゙っ……」
「なんか他クラスの女の子からチヤホヤされてたよね?」
「いや〜なんというか……あふん……」
ポヨヨは口を結んでしょぼんとなる。
「1匹だけブタ箱からでて廊下で可愛い女の子と楽しそうに会話してたよね……」
「仕方ないことでした。ポヨヨはナデナデされるのが好きだから欲望に負けてしまいました」
「……まあいいよ。僕はクラスで孤立してそのまま卒業まで独りぼっちなんだ」
「あ……えっと……」
そこで会話が終わり1人と1匹は静かになった。
───────────────────
入学から2ヶ月後。レインたちは学園生活にも慣れ始めて友達も作れたようだ。
「レインくん、覚えていますな!?」
栄養失調が心配になりそうな程の細い顔にクロブチメガネの少年。震えた指先でメガネを小刻みに揺らす。
「勿論、約束だからね!」
レインは死んだ笑顔で言った。
「レイン殿! 小生のために敵を討ってくれでござる!」
ロン毛の少し不潔感漂う少年。ガチガチと歯茎を見せて目の前の人間に震えて怯えていた。
「何よ……あんたたちブタ箱組が私の前を横切るからでしょう?」
金色の髪が揺れた。
それと同時に何かいい香りが風の流れに乗って香ってきた。
「ブタ箱って……なんでそんなに嫌われているんですか?」
レインは苦笑いをして目の前の少女に問うた。
「レイン殿! このエリン・ヴェネットに会話は無理でござる。この小娘は直ぐに暴力を振るってくるでござる! 弱腰にならずにここはガツンと一発かまして……ブヘッ!」
不潔ロン毛はエリンの前膝を胸で受け止め廊下に打ちつけられた。
派手に蹴りつけたためかエリンのスカートの中がチラッと見えた。
「ロンくぅぅぅんっ!」
ロンはどうやら白目を剥き泡を吹いて気絶してしまったようだ。
「あんたもまた邪魔しに来たのね」
「あっ……モヤシニくん危ない!」
「へ……?」
流れるようにモヤシニの顔面にハイキックが入る。素早い動きにまたもスカートの中身を晒す。
そしてモヤシニのメガネが割れた。
彼はロンとは違い何故か幸せそうな表情で気絶していた。
「ロン・ゲー、モヤシニ・メガッネ……御臨終です」
レインは気絶した2人に合掌し目を閉じた。
「次はあんたの番よ。胸についているバッチを隠してもあんたがブタ箱組だってこと知っているから無駄よ」
レインは胸に添えていた手を退かして手を上げた。
「えーとぉ……僕は何も関係ないですよね?」
「関係なくないわ。あんたはこの私に楯突こうとしたのよ。ブタ箱組のくせに偉そうにして、恥ずかしくないの?」
レインは泡を吹いて気絶した2人を見て頷く。
「たしかに恥ずかしいです! 僕達が間違っていました。もう二度と手は出しませんのでどうかこれでご勘弁を」
レインは完璧な角度で深く頭を下げて2人を担いで消えようとした。
「待ちなさいよ!」
レインは首根っこを掴まれ強制的に止めさせられる。
「え、えっと……まだなにか……?」
首を掴む力は強くなる。
エリンの爪が彼の肉にめり込む。
「そんなちっぽけな謝罪で許すわけがないでしょう。死にたいのかしら?」
「い、いえ……死にたくないので……謝ったんですが……」
「そのブタ箱共が私に何をしたか知らないのねぇ?」
彼女は相当怒っているようだ。
レインは2人が何をしたのか驚愕に震えるが自分は何も関係ないと少しだけ余裕を持つ。
「実は何も知らないんです……いたたた!」
「謝罪の対象を理解せずに謝ったのあんたはぁ? あなたもあのブタ箱共のように蹴られたいのかしら?」
「あなたの下着を見る趣味はないので……」
「下着……?」
飛びかかって蹴るたびに見えるアレのことだ。エリンはなんのことかを考えるたびに顔が赤色に染まっていく。
「ま、まままま、まさかあ、あああ、あんた!」
レインの首から手を離して自分のスカートを下に伸ばす仕草を見せる。
「み、見たの……? わ、わわ、私の……」
「白でした」
レインはいらない情報を付け加えてさらに彼女の顔を真っ赤に染める。
「あ、あんただけは絶対に許さないわ!」
「えぇ!?」
「このブタ共はどうでもいい。あんただけは絶対に許さないわよ!」
とうとうただの豚になった。ブタとは縁もゆかりも無いただのオタクだけれども。
「見たくて見たわけじゃないのに……」
彼はぼそっと呟いたがエリンはちゃんと聞いていた。
「私のした……下着が見たくないですって!?」
「いやそういうわけでは……」
「あんた放課後校舎裏に来なさいよね」
「な、なんでですか……」
「ブタ箱組が私を侮辱した罰よ! 絶対に来なさいよね!」
そう言うと彼女は顔を赤らめたまま自分のスカートを押さえて去ってしまった。
「なんてこった……これボコボコにされて死体で見つかるアレやん……」
周りには誰もいない。ここで呼び出しを無視しても良いかなと考えていたが今後の学生生活に響くのもよくないため彼は行くことを決意したみたいだ。
その間手はずっと震えていたけれども。
「ポヨヨも連れて行くか……」
そんな情けないセリフを残して2人を保健室に連れて行くのだった。
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