第13話 よし、逃げるか

 レインが魔法使い? と交戦するというハプニングはあったものの、彼らの戦いは無事に幕を降ろした。


 何事もなく一安心しているのかレインは拠点に戻るとぐっすりと眠りについた。


 そしてその2時間後にはいつも通りの生活に戻っていた。


 しかし何故だろうか。レインは何事もないように的外れな場所を選んだが1人の捨て子を連れて帰ってきていた。


 それに宗教の情報が沢山あったなどと言い出した。


 彼の嘘で作り上げた敵の影はどんどんと大きくなる。


 これには嘘をついた本人もびっくり。何かと勘違いしているのではと疑うほどだった。


 どうやら彼女たちは神教会を世界の全てを操る組織だった……とかいうとんでもない設定を持ち出したのだ。片眉を上げて震えるレインの顔が物語っていた。


 ──そんなわけないと。


 捨て子に女の子しかいない理由が神の捧げ物として使えるのは女の子のみだったからなどと言う。


 百歩譲ってその考え方は容認できるが、世界が女の子しか捨てないような感じにコントロールしている……という話が出てきた時点でもうダメだった。


 レインは頭を抱えて自分がついた嘘を後悔することになる。


 さらに畳み掛けるように後日談を聞かされるとレインの耳は自然と塞がっていた。


 この先は何も覚えていない。彼は仏となったのだ。


 4年前についた嘘と、先日ついた嘘……その仕返しとしてありもしない情報を伝えて自分の反応を楽しみたかったのだとレインは心の中で泣きながら考察する。


 ポヨヨが傍らでニヤニヤしながら今にでもイジりそうな雰囲気だったが結局何も言わなかった。


「やばい……彼女たち本気で怒ってる……」


「そりゃそうですよぉ! 自分たちには敵がいるって教えられて実際にはいなかった! なんて伝えられたらショックでやり返したくもなりますよ」


「あんなに分かりやすい嘘で僕を追い詰めるなんて……相当恨まれてる。『敵なんていないでしょ、あ! あなたが敵だったのね』みたいな雰囲気が……」


「自業自得ですよっ。騙すのにもリスクはあるんですからっ」


 いくら世界が過酷であろうと彼はやりすぎたのだ。


 全員が全員レインを恨んでいるのだろうと彼は部屋の隅っこで震えていた。


「自分で地獄を作り出すなんて天才かよ……うぅ……」


「レインさん直接指導の11人とその他愉快な仲間たちですからね。一斉に狙われたら堪ったものじゃないですねっ」


「まさかこんなことになるとは思ってもみなかったよ……助けてよポヨエモーン」


 レインは体育座りをしたままそう言う。


「んなっ!? レインさんが甘えてくるなんて服を作った時以来ですね」


「あのドアを開けた瞬間みんなから刺されそうな気がするんだ。この窮地を脱するための道具はないの!?」


 するとポヨヨはわざとらしく自分の腹をくすぐる。


 その間にキョロキョロと周囲を見渡して手頃なものを探した。


「てってれーん、バックパックー」


 そして背後にあったリュックを手に取った。


「こうやってバックの中に入ると……ほら!」


 ポヨヨはリュックから顔を出してニコニコ笑う。


「可愛い妖精さんの登場ですよっ?」


 サービスにウィンクまでつけていて確かに可愛かった。


 これでレインを元気づけるつもりだったのかこれ以上は何もなかった。彼はずっとリュックを見つめて動かない。


「あ、あれ……どうしたんですか」


 ポヨヨが声を掛けると彼の目は一瞬にして輝き出す。


「そうかその方法があった!」


「え? いきなり何なんですか?」


「ポヨヨ、僕は今から家出をする。いや……引っ越しをする」


「ふぇ? どこにですか?」


「決まってるじゃないか、外の世界にだよ」


 自信を取り戻した彼は荷物をまとめ始める。


「えちょちょ……外の世界怖くなかったんですか? 昨日あれだけ震えてたじゃないですか」


「今のここよりかは全然マシそうだよ。ここにいたら震えが止まらないし。それに外の世界は案外と怖くないかもしれないからね」


「いやまあ確かにここよりはとても安全ですけど……」


 こことは違って外の世界は魔物が生活圏に入ってくることはない。


「ポヨヨはここに残る? デザイナーいないとここ困るでしょ」


「いいえっ、ポヨヨはレインさんについていくのにしてますからね」


「それだとみんな困るんじゃない。服作れないし家建てられないでしょ」


「後継人がいるので大丈夫ですよぉ」


「なら良いか」


 レインは生活必需品をリュックに詰めるわけではなく過去に盗賊達から金貨を一袋だけ突っ込む。


 その後にカモフラージュとして色々な服を突っ込み、最後にポヨヨをぶち込んだ。


「あふん……」


「これで荷物は全部かな」


「なんでポヨヨが荷物扱いなんですか」


「全自動裁縫道具だから」


「叩きますよっ!」


「はいはいごめんごめん」


 そう言うとレインはチャックを閉めてポヨヨの顔だけ出るように調整する。


「あの……ポヨヨは1人でも歩けますよ?」


「このほうがマスコット感出て人に出会ったときに好印象を与えられる。よそ者の僕でも歓迎してくれそうだ」


「おっ、ポヨヨの扱い方わかってますねぇ。マスコットは言い過ぎですけど」


 レインはリュックを背負ってドアに向かうかと思われたが窓の方へと歩き出した。


「レインさん、そっちは窓ですよ?」


「わかってるよ。ここが出口なんだ」


「家を作った本人としてはそこが出口じゃないことは確かなんですけど……」


「いいじゃん。お別れはみんなに見られないほうがカッコいいでしょ?」


「見られたくない理由があるんだなって、逆に印象悪くなりますよ。ただでさえ嘘を付いてるんですから」


 窓を開けると爽やかな風が頬を伝った。


 そこに足を掛けて飛び出す。


「っし……」


「うっし……じゃないですよ。飛ぶ前に一言何かあっても良いんじゃないんですか?」


「ああ……舌噛むから口閉じてなよ」


「今言っても遅いんですって!」


「あ、違う違う。今から全力でダッシュするから口動かしてたら噛むってこと」


「へ?」


 その瞬間レインとポヨヨは残像を残して消えた。


 その日、秘境の森から王都に向かって高速接近する謎の生物を記録した。


 砂を舞い上げ王都につく頃にはポヨヨはヘトヘトであった。

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